英語学習

「英語らしい英語って何だ?」問題を落語で解説/成毛眞⑥

30歳の目前、突然マイクロソフトに。英語を身につけるために著者がとった勉強法とは……。成毛式「割り切り&手抜き」勉強法で効率よく英語を学びましょう。今回は第6回目です。

「落語ネイティブ」と「その弟子」の話

英語らしい英語。

これがかつての私の目標でありゴールでした。自分で設定してみて、なかなかいいなと思ったものの、達成が難しい目標であることも理解していました。なぜだかわかりますか。

それは、英語らしい英語を話せるようになるには、「何が英語らしいのか」を知らなくてはならないからです。では、「英語らしい」って何なのか?

江戸落語の大家で、人間国宝でもある柳家小三治(十代目)には、こんな逸話があります。

弟子として入門したばかりの若い柳家三三(さんざ)に対して、最初は「とにかく大きな声で」話せと指導したというのです。三三は落語を聞くのは好きでも、演じた経験がないというド素人から落語家になることを目指した人なので、上手くやるとかなんとかより、まずは声を出すことを学ばせようとしたのです。三三は、小三治師匠に言われたとおり、人前でも萎縮せず「とにかく大きな声で」話したそうです。その事情を知らない相手は、さぞかし驚いたことでしょう。

時間を重ねるにつれて、三三は徐々に大きな声で話すことはできるようになりました。そこで小三治師匠は次のミッションを弟子に言い渡します。

それが、「落語らしくやれ」でした。

ここで問題は「落語らしく」です。いったい何をどうすれば「落語らしい」のか。それを丁寧に教えないところがさすが小三治師匠なのですが、しかし、三三は困り果てたに違いありません。

もしあなたが三三なら、どうしますか。

この話を聞いたとき、私も自分が三三ならどうしただろうかと考えました。

まずは、小三治師匠や兄弟子の落語を真似るところから始めたと思います。同意見の方、いらっしゃいますか。落語がうまいと言われる人、いわば落語ネイティブを真似れば、落語らしくなると思いますよね。

では、誰かを真似ると決めたら、次の問題は誰を真似るかです。

お好きな方はよくご存じと思いますが、落語は、同じ噺(はなし)であっても演じる落語家によって面白さや味わいがまったく異なります。同じ話を何度聞いても面白い落語家がいる一方で、まったく面白く感じない落語家もいます。

ということは、誰を真似るかで、自分がどんな落語家になるか、どんな風に落語らしい落語ができるようになるかが決まるということです。

「ま、この人の真似をすればいいか」

なんていう安易な決め方をすると、後悔することになります。誰を真似るかは、突き詰めて考え、決めなくてはいけません。決まるまでは、落語の稽古はしないほうがいいはずです。

さて、この本を手にしている人が目指すのは落語家ではなく、英語の使い手なので、誰の英語を真似るかを、真剣に考える必要があります。

英国人と米国人の話す英語が異なることはよく知られています。しかし、たとえ同じ米国人であっても、住む地域や、する仕事によっても、使う英語は異なるものです。日本でも、コンサルタントはいかにもコンサルタントという話し方をするし、政治家も銀行員も高校生もそう。政治家でなくても「この人、いかにも政治家的な話し方をするな」と感じることもありますよね。ですから、どういう英語を話す人を真似るかまで考える必要があるのです。

さあ、誰を真似ますか。

ここで問題は、みなさんには三三にとっての小三治師匠のような唯一無二の師匠がいないということです。師匠を得ようと探してみても、地球上には、一説には4億人と言われる、師匠になり得る英語のネイティブスピーカーがいるのみです。

ですから、テレビや映画、YouTubeなどでネイティブが話すのを見聞きして「こんな風に話せたらいいな」という人を、心の師として探し出す必要があります。動画コンテンツが溢れている現代は、そんな「目標探し」が苦になりませんよね。

いや、苦になる。このプロセスは面倒だからスキップしたい、などと侮ってはいけません。サボりの精神を貴ぶ私ですが、ここは避けられないポイントです。なぜならその心の師こそが、目標やゴールと大きく関わるからです。

そうです、「英語らしく」は幅が広すぎるのです。ただ「落語らしく」ではなく「誰の落語らしく」と絞り込む必要があるのと同様、「英語らしく」とはすなわち「誰の英語らしく」なのかは決めなくてはなりません。決めずにいたら、ただ声の大きな落語家になるばかりです。

私の場合は、最も英語で話す機会が多い相手がビル・ゲイツであったため、目標は「ビル・ゲイツの英語らしく」とすんなりと決めることができました。

みなさんはTEDなどを観て、目標とする人を決めてください。以上。

と終わることもできますが、もし、真似る相手をなかなか決められないなら、「アル・ゴアのような英語」がいいと思います。クリントン政権時の副大統領であるアル・ゴアの英語は、私からすると変な癖がなく、上品でもあります。これを真似て身につけても恥ずかしい思いをすることはないはずです。

それに、アル・ゴアの動画はいくつもYouTubeで観ることができます。まずは2006年にTEDで講演したときの動画をおすすめします。演題は「気候危機の回避」。楽しく、有意義で、しかも英語らしい表現が満載です。

このように「動画で観ることができる」ことも、目標を定める上で大事なことです。アメリカの第16代大統領である「エイブラハム・リンカーンのような英語」を目指すなとは言いませんが、残っている録音が少ないので、真似るサンプルが少ないという問題があります。

目標にすべきは、真似しやすい「実際に話している様子を確認できる人」。見えず、聞こえない対象を真似るのは実に困難です。だって、聖徳太子のように話そうとしても、できませんよね。人は具体的な手本のないものに近づくことはできないのです。逆にいうと、手本があればある程度は近づけるのです。手本とはSeeing is believing、百聞は一見にしかずです。

(つづく)



成毛 眞(元マイクロソフト日本法人社長)

カテゴリ:英語学習

【著者紹介】成毛 眞(なるけ・まこと)
1955年、北海道生まれ。中央大学商学部卒業後、自動車部品メーカー、株式会社アスキーなどを経て、86年日本マイクロソフト株式会社設立と同時に参画。91年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社の株式会社インスパイアを設立。10年、おすすめ本を紹介する書評サイト「HONZ」を開設、代表を務める。早稲田大学ビジネススクール客員教授。

【書籍紹介】『ビル・ゲイツとやり合うために仕方なく英語を練習しました。 成毛式「割り切り&手抜き」勉強法』(KADOKAWA)
「やらないこと」を、最初に決めよう――留学・海外在住経験なし、社会人になってから英語を学び、外資系トップまで務めた著者による「必要最低限」の練習法。本書は、あなたの英語勉強効率を飛躍的に高めてくれる。

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