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実はすでに十分高い水準にあるニッポンの消費税率/消費税は下げられる!②

来年10月からの消費税率引き上げを宣言した安倍首相。一方、経済アナリストの森永卓郎氏は「今こそ消費税率を引き下げるべき」と主張します。その真意を、氏の著書『消費税は下げられる!』から読み解きます(第2回)。

日本の消費税率は低いのか

下図をみると、日本の消費税率8%に対して、欧州諸国は20%程度と、はるかに高い税率が適用されている。先進国で日本より消費税率が低いのはカナダの5%だけで、お隣の韓国も10%と日本よりも高くなっている。社会保障の先進国であるスウェーデンは25%だ。社会保障を維持拡大していくためには、消費税率の引き上げが不可欠とする財務省の主張を裏付ける実に都合のよい存在が、このグラフだったのだ。


[付加価値税率(標準税率及び食料品に対する適用税率)の国際比較]

(出所)財務省ホームページ
(出所)財務省ホームページ

(備考)1. 日本の消費税率8%のうち、1.7%相当は地方消費税(地方税)である。 2. カナダにおいては、連邦の財貨・サービス税(付加価値税)の他に、ほとんどの州で州の付加価値税等が課される(例:オンタリオ州8%)。 3. アメリカは、州、郡、市により小売売上税が課されている(例:ニューヨーク州及びニューヨーク市の合計8.875%)。ミャンマーは取引高税が課されており、ブルネイは付加価値税が存在しない。 4. 上記中■が食料品に係る適用税率である。なお、軽減税率が適用される食料品の範囲は各国ごとに異なり、食料品によっては上記以外の取扱いとなる場合がある。 5. EC指令においては、ゼロ税率及び5%未満の軽減税率は否定する考え方が採られている。


しかし、このグラフをよくみてほしい。重要な国がグラフから漏れていることがわかるだろう。それがアメリカだ。実は、アメリカには消費税そのものが存在しない。

グラフの脚注には、「アメリカは、州、郡、市により小売売上税が課されている(例:ニューヨーク州及びニューヨーク市の合計8.875%)」と書かれているが、オレゴン州などのように小売売上税をまったく課していない州も実は存在しているのだ。

日本政府は、これまで何でもアメリカの制度や慣行に合わせようとしてきた。それが構造改革であり、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加だった。ところが、こと税制に関してだけは、アメリカを完全無視してしまうのだ。

アメリカから目をそらし、国民の目をヨーロッパに向けさせる。そこには、日本の消費税率の3倍以上の消費税率を課している福祉大国スウェーデンがある。しかし、この消費税率の国際比較のグラフには、数々の問題があるのだ。

下図をみてほしい。このグラフは、国と地方の税収を、資産課税、消費課税、法人所得課税、個人所得課税に分けて、その構成比をみたものだ。日本の消費課税の構成比が29.7%であるのに対して、スウェーデンは37.6%と、その差は7.9%に過ぎない。しかも、このグラフは日本の消費税率が5%だった2013年のものだ。グラフの脚注によると、消費税率が8%に上がった2016年度は、日本の消費課税の構成比は、33.7%になるという。消費税率を3%引き上げたことで、消費課税の構成比が4%ポイント上昇している。だから、消費税率が10%になったら、日本の消費課税の構成比は、単純計算で、36.4%となる。スウェーデンとほぼ同じになってしまうのだ。


[所得・消費・資産課税等の税収構成比の国際比較(国税+地方税)]

(出所)財務省ホームページ
(出所)財務省ホームページ

(注)1. 日本は平成25年度(2013年度)実績、諸外国は、OECD "Revenue Statistics 1965-2014" 及び同 "National Accounts" による。なお、日本の平成28年度(2016年度)予算における税収構成比は、個人所得課税:30.9%、法人所得課税:21.7%、消費課税33.7%、資産課税等:13.7%となっている。 2. 所得課税には資産性所得に対する課税を含む。 3. 四捨五入の関係上、各項目の計数の和が合計値と一致しないことがある。


なぜ日本の消費税率を10%にすると、消費課税の構成比がスウェーデンと同じになってしまうのか。ここに、消費税率の国際比較グラフのからくりが隠れているのだ。

消費税率の国際比較グラフのからくり

なぜ日本とスウェーデンの消費税の構成比が同じになってしまうのか。最も大きな原因は、ヨーロッパが高福祉高負担政策を採っているということだ。ヨーロッパは、日本よりもはるかに高福祉だ。医療費の本人負担は小さいし、公的年金給付も手厚い。教育費の負担も大学まで含めて無料か、非常に低い水準に抑えられている。その高福祉をまかなうために高い消費税率が課せられているのだ。また、ヨーロッパは消費税だけでなく、企業に課している法人課税や個人に課している所得課税も高いのだ。だから、消費税率そのものを比較しても、あまり意味はないのだ。

ただ、もう一つ技術的な問題がある。それは、消費税率の国際比較が「標準税率」で行われているということだ。ヨーロッパの消費税は標準税率こそ高いが、生活必需品に幅広く軽減税率あるいはゼロ税率が適用されている。たとえば、イギリスはパンや新聞など、生活必需品には消費税がまったく課されていない。低所得者は、消費税を支払わないで生活することも、やる気になれば可能だと言われている(ガス・電気にはかかるので完全にゼロは難しいが)。そのため、ヨーロッパの実効消費税率は、標準税率で見たほど高くないのだ。そこが、投網(とあみ)を打つように、あらゆる商品に同一の消費税率をかけている日本との大きな差なのだ。

はっきりしていることは一つだ。日本の消費税率は、すでに十分高い水準になっており、これ以上の増税を正当化する根拠はどこにもないということだ。それでも財務省は、社会保障の維持拡大のためには、消費税増税が不可欠だとのスタンスを崩さない。しかし、消費税増税が、すべて社会保障に使われるということは、最初から想定されていなかったのだ。

森永 卓郎

カテゴリ:マネーテク
【著者紹介】森永 卓郎(もりなが・たくろう)
1957年7月12日生まれ。東京都出身。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。主な著書に『雇用破壊』(角川新書)、『年収崩壊』『年収防衛』『「価値組」社会』『庶民は知らないデフレの真実』 『庶民は知らないアベノリスクの真実』(いずれも角川SSC新書)。『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)では、“年収300万円時代”の到来をいち早く予測した。
12月8日には、日本経済転落と格差社会を生み出したカラクリを暴く新刊『なぜ日本だけが成長できないのか』(角川新書)を発売予定。

【書籍紹介】『消費税は下げられる! 借金1000兆円の大嘘を暴く』(KADOKAWA)
本書で強調したいことはたった一つ、「日本の財政は世界一健全」ということ。財政が健全なのだから、今こそ消費税率を引き下げるべきなのだ――。財務省主導の増税路線の間違いを正し、日本経済の進むべき道を説く一冊です。

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