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負担すべきは誰なのか? 高齢化の「コスト」/消費税は下げられる!⑥

来年10月からの消費税率引き上げを宣言した安倍首相。一方、経済アナリストの森永卓郎氏は「今こそ消費税率を引き下げるべき」と主張します。その真意を、氏の著書『消費税は下げられる!』から読み解きます(第6回)。

企業が消費税増税にこだわるもう一つの理由

現在、医療と年金の財源には、税金も注ぎ込まれているが、多くの財源は、加入者が支払う社会保険料になっている。たとえば、厚生年金の保険料は、2004年の政府の年金改革で、同年から毎年0.354%ずつ引き上げられ、2017年以降は、18.3%とすることが決まっている。2016年9月時点の保険料は、年収の18.182%となっているが、厚生年金保険料の引き上げは、2017年で打ち止めになるのだ。

しかし、高齢化の進展はそれ以降も続いていく。当然、年金財政は悪化する。その対策は大きく分けて二つある。一つは年金の給付水準を引き下げること、そして、それでも足りない部分は税金を投入して、高齢化のコストを税金でまかなうことだ。その財源として消費税を充てるというのが、政府の表向きの消費税増税の根拠だ。

ところが、ここにすでに大きなまやかしが存在する。厚生年金の保険料も健康保険の保険料も、これまで労働者と雇い主企業が折半で負担してきた。しかし、今後の社会保障財源を消費税に移すということは、今後の高齢化のコストを企業が一切負担しないということを意味するのだ。医療、介護、年金など、高齢化社会に膨大なコストがかかるのは、間違いのない事実だ。それは一種の国難と言ってよい。これまでは、そのコストを負担するために労働者と企業が手を携えてきた。しかし、今後増える社会保障のコストは、企業は負担せず、すべて労働者に負担させようというのだ。消費税は、企業が支払うものではなく、すべて消費者、すなわち労働者が支払うものだからだ。国難に直面して、企業だけが責任を放棄する。その態度は、東日本大震災の復興支援と同じだ。いつから、日本の大企業はそんなカネの亡者になってしまったのだろうか。そしていつから日本政府はそんな企業の横暴を許すようになってしまったのか。

そんなことを言っても、日本の企業は、いまヨーロッパ並みに高い法人税の負担をしているのだという批判があるかもしれない。確かに現時点の日本の法人実効税率29.97%というのは、フランス(33.33%)、ドイツ(29.72%)と似たような水準になっている。しかし、実はヨーロッパは社会保険料の企業負担がものすごく高いのだ。

たとえば、山崎加津子(やまざきかづこ)氏『スウェーデンの社会保障制度に学ぶ』(大和総研調査季報2012年新春号)には、次のように記されている。

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社会保障制度を支えているもう一つの柱である保険料は、企業と従業員が負担しているが、ここでスウェーデンの企業部門のコスト負担は大きい。年金、医療保険、介護保険、失業保険などの保険料を、個人は給与所得など収入の7%分支払うが、企業は給与支払総額の28.6%を負担している。
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現時点の日本の社会保険料は、厚生年金が年収の18.182%、全国健康保険協会管掌健康保険料で介護保険第2号被保険者に該当する場合、東京都で11.54%、雇用保険料が0.8%(失業給付分のみ)となっている。合計の保険料は、30.522%と、スウェーデンに近い高さになっている。この保険料を労使折半するから、労働者の負担も、企業の負担も従業員の年収の15.261%ということになる。

おわかりだろう。スウェーデンの労働者は、日本の労働者の半分しか社会保険料を負担していないのに、スウェーデンの企業は日本企業の2倍の社会保険料を支払っているのだ。今後ヨーロッパのような社会保障負担の大きな社会を迎えようとしているのだから、基本的な方向としては、まず企業が負担を増やしていくべきなのではないだろうか。

森永 卓郎

カテゴリ:マネーテク
【著者紹介】森永 卓郎(もりなが・たくろう)
1957年7月12日生まれ。東京都出身。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。主な著書に『雇用破壊』(角川新書)、『年収崩壊』『年収防衛』『「価値組」社会』『庶民は知らないデフレの真実』 『庶民は知らないアベノリスクの真実』(いずれも角川SSC新書)。『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)では、“年収300万円時代”の到来をいち早く予測した。
12月8日には、日本経済転落と格差社会を生み出したカラクリを暴く新刊『なぜ日本だけが成長できないのか』(角川新書)を発売予定。

【書籍紹介】『消費税は下げられる! 借金1000兆円の大嘘を暴く』(KADOKAWA)
本書で強調したいことはたった一つ、「日本の財政は世界一健全」ということ。財政が健全なのだから、今こそ消費税率を引き下げるべきなのだ――。財務省主導の増税路線の間違いを正し、日本経済の進むべき道を説く一冊です。

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