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「日本の富裕層は消費税を一銭も支払わずに暮らせる」って本当?/消費税は下げられる!⑧

来年10月からの消費税率引き上げを宣言した安倍首相。一方、経済アナリストの森永卓郎氏は「今こそ消費税率を引き下げるべき」と主張します。その真意を、氏の著書『消費税は下げられる!』から読み解きます(第8回)。

富裕層はほとんど消費税を負担していない!

消費税は税を負担した消費者が支払うのではなく、販売した企業が納税を行う。たとえば、スーパーマーケットで税抜100円のみかんを消費者が買ったとしよう。消費者が支払うのは本体価格の100円と消費税8円の合計108円だ。ただし、スーパーマーケットは、消費者から預かった8円の消費税をそのまま税務署に納めるのかというと、そうではない。スーパーマーケットが卸売業者から、そのみかんを税抜50円で仕入れていたとする。この場合、仕入れの時点でスーパーマーケットは4円の消費税を支払っている。だから、消費者から預かった8円の消費税のうち、すでに仕入れ段階で支払っている4円を差し引いて、残った4円の消費税を税務署に支払うことになる。このルールを仕入税額控除と呼んでいる。この仕入税額控除は小売業にだけ適用されるのではなく、すべての業種の事業活動に適用される。つまり、商品の仕入れだけでなく、会社の経費として支出された商品にかかっている消費税は、すべて消費税の納税の際に控除されるのだ。

さて、富裕層はほとんどの場合、自分自身の会社を持っているか、会社の役員をしている。彼らの生活は、ほぼすべて会社の経費でまかなわれる。豪邸は会社の社宅という形式を採っていることが多く、事実上のお手伝いさん、あるいは執事である秘書は、会社と契約した派遣会社から派遣された労働者であることも多い。黒塗りの社用車ならぬ私用車は、もちろん会社の経費だ。銀座(ぎんざ)のクラブで飲むのも会社の経費だし、ワーキングランチで食べる弁当やケータリングで届けられる食事も会社の経費だ。ゴルフに行くのも、パーティーに行くのも、何から何まですべて会社の経費なのだ。

そうは言っても、日常生活のための日用品や食料品など、細々としたものを会社の経費で落とすわけにはいかないだろう。そう思われるかもしれない。しかし、それは本当の富裕層の暮らしを知らないからだ。都心部の超一流ホテルには、富裕層専用の部屋が定宿として確保されている。彼らの実質的な住居と言ってもよい。そこでは、掃除や洗濯や食事やありとあらゆるホテルのサービスが提供される。もちろん、とんでもない高額料金を請求されるのだが、それを富裕層個人が負担することはない。これも、すべて会社の経費なのだ。

そうすると、何が起きるのか。仕入税額控除の仕組みによって、彼らが一時的に支払った消費税は、全額、会社が納める消費税から控除されてしまうのだ。

第2回目で、イギリスでは低所得者がやり方によっては、消費税を一銭も支払わずに生活できると書いたが、日本では富裕層が、消費税を一銭も支払わずに暮らすことも可能になっているのだ。

こんなバカげた税制はないだろう。しかし、それは事実なのだ。先日、銀座で水商売をしていた女性から聞いた話では、銀座の女性はお客さんからプレゼントをもらってはいけないことになっているのだそうだ。プレゼントをもらうなら、店でたくさんお金をつかってもらうべきだという。その理由は、店で支払われるお金は、すべて会社の経費だから、お客の懐は一切痛まない。ところが、プレゼントは客の自腹になってしまう。店の売り上げと比べて、プレゼントは、客にとって個人的に重い負担になってしまうので、避けるべきだというのだ。

税金の基本原則は、応能負担だ。税金をたくさん払えるお金持ちは、たくさんの税金を支払う。それは誰がどう考えても、当然のことだろう。ところが、消費税に関しては真逆(まぎゃく)のことが起きている。所得の低い人が重税に苦しみ、金持ちはちっとも負担しない。消費税というのは、そうした致命的欠陥を持つ税制なのだ。

もちろん、庶民でも会社を作って経営者になれば、富裕層と同じことが理論的には可能だ。しかし、それは現実的にはむずかしい。庶民は、そもそも消費者から消費税を預かる売り上げを立てることができないからだ。

森永 卓郎

カテゴリ:マネーテク
【著者紹介】森永 卓郎(もりなが・たくろう)
1957年7月12日生まれ。東京都出身。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。主な著書に『雇用破壊』(角川新書)、『年収崩壊』『年収防衛』『「価値組」社会』『庶民は知らないデフレの真実』 『庶民は知らないアベノリスクの真実』(いずれも角川SSC新書)。『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)では、“年収300万円時代”の到来をいち早く予測した。
12月8日には、日本経済転落と格差社会を生み出したカラクリを暴く新刊『なぜ日本だけが成長できないのか』(角川新書)を発売予定。

【書籍紹介】『消費税は下げられる! 借金1000兆円の大嘘を暴く』(KADOKAWA)
本書で強調したいことはたった一つ、「日本の財政は世界一健全」ということ。財政が健全なのだから、今こそ消費税率を引き下げるべきなのだ――。財務省主導の増税路線の間違いを正し、日本経済の進むべき道を説く一冊です。

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