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低迷するスタバを救ったのは、“らしさ”の復活にあった『スターバックス再生物語』/MBA必読書50冊⑦

グローバルエリートたちは、ビジネスの「セオリー」を知っている! ビジネスマン必読の50冊のエッセンスが1冊で学べる『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(永井孝尚著)より、「読む」だけで差がつくビジネスマン向けの本をご紹介いたします(第7回)。

「らしさ」とは何か?

今から20年前の2000年頃。スタバはオシャレなカフェだった。「雰囲気が変わった」と感じたのは、東京ミッドタウンが完成した2007年頃。東京の至る所にスタバがあり、居心地のよさが失われた。そして今、スタバは再び居心地いい空間になっている。

実はスタバは2007年頃、世界中で低迷していたのだ。本書は急成長企業が低迷から成長に回帰するストーリーを学べる一冊である。ポイントは「らしさ」の徹底追求だ。

著者は創業者のシュルツ。スタバを創業し、15年間成長させ続けた後、CEOを後任に譲り、2007年当時は会長職に専念していた。


スタバは2000年のシュルツCEO退任後も、成長し続けていた。10年間で全世界の店舗は1000店舗から1万3000店舗に急拡大。売上も利益も一見順調だった。

しかし業績の細部に悪化の兆しが出始めていた。2006年は来店客1人当たりの支払額が少し減り始めた。さらに2007年の夏には来店客の伸びが顕著に落ち込んでいた。

当時、私もスタバに失望することが増えていた。味は落ち、狭い店内で肩をすぼめて座らされたりして、居心地いい空間ではなくなり、次第にスタバから足が遠のいていた。これは世界的な現象だったのである。何が起こっていたのか?

全世界で店舗を訪れたシュルツは「スタバの本質的な何かが失われた」と感じていた。店舗では挽き立てのコーヒー豆から立ち上る重厚で誘うような豊かな香りが消えていた。効率化のためコーヒーの粉を袋詰めして出荷・保管する方法に変えたためだ。

香りが強いチーズを使った朝食用サンドイッチが売れていたが、これもコーヒーの香りを台無しにしていた。しかしチーズの臭いが漂う店で「今週のサンドイッチの売上は目標を大きく上回りました!」と彼に得意顔で報告する店長もいた。

大量出店のために店舗デザインは簡素化され、研修不十分なバリスタが客にコーヒーを淹(い)れ、つくり置きのコーヒーを出す店もあった。米国の消費者レポート誌が行ったコーヒーの味のテストで、スタバはマクドナルドよりも低評価になってしまった。

スタバが提供してきたのは、自宅でも職場でもない、自分自身を発見し安らげる「第三の場所」だ。低迷の時期も「スタバは私に必要な場所だ」という客はスタバを見捨てていなかった。しかし当時の私のように、徐々に来店回数を減らしていたのである。

スタバは自らの手で、「スタバ体験」をコモディティ化したのだ。

2008年にシュルツはCEOに復帰した際に、こう考えた。

・「原点回帰」する。歴史を守るのでなく、改革や革新の気風に結びつける

・過去の間違いは責めない

・戦略や戦術では混乱は乗り切れない。必要なのは情熱だ


そして「即座に実行すること」(米国店舗ビジネスの現状改善、お客様との感情の絆を取り戻す、ビジネス基盤の長期的改革の開始)と「手を付けないこと」(コーヒーの品質、従業員の健康保険)を明確にした。

特に健康保険の維持は重要だった。健康保険制度が未成熟な米国で、スタバは充実した健康保険を全従業員に提供していたが、コストが急増していた。「コスト削減のため廃止すべし」という声も多かったが、それでは大切な店舗スタッフとの信頼が失われる。

だから健康保険は、費用がかかっても手を付けずに維持したのだ。

600店舗を閉鎖……矢継ぎ早の変革

改革を始めると、店舗スタッフからこんなメールが数多く届いた。

「伝統のサービスや挨拶がなくなり、店に行くと悲しく感じていた。現状を変えて、復活のために全力を尽くす仲間になれるのがうれしい。希望が見えた」

シュルツは、すぐに取り組める施策を次々と行った。

全米7100店舗を一斉休業し、バリスタ13万5000人全員を再研修した。休業で売上600万ドル(6億円)を失ったが、コーヒーの品質は向上した。新たに改良したコーヒーを開発、再びコーヒー豆を店で挽く方針に戻し、1時間経ったコーヒーを捨てるルールを30分に改めた。臭いが強い朝食用サンドウィッチは販売停止、臭いが少ない商品を開発した。エスプレッソマシンも高性能なものに一斉に入れ替えた。

さらに抜本的な変革も行った。

業績が悪い店舗は、直近2年間に開店した店が多かった。成長第一主義で急拡大した結果だ。そこで600店舗を閉鎖。可能な限り店舗スタッフに新しい職を斡旋したが、多くの大切なスタッフも解雇せざるを得なかった。

コーヒー豆の調達・焙煎・包装・倉庫管理・店舗配送を担うサプライチェーンは未熟なまま急成長し、店舗にしわ寄せがいっていた。店が注文しても、時間通り配送されるのは35%だけ。お客さんに商品を提供できないことも多かった。経費は毎年1億ドル(100億円)も増えていた。全体のプロセスを見直して簡素化し、徹底的にムダを省いた。

業務システムも古く店舗作業が増えていた。POSを一新、最新型パソコンも導入した。


顧客の要望を取り込む仕組みもつくり「見える化」した。顧客がスタバ改善のアイデアや意見を自由に投稿でき、アイデアに顧客が人気投票できる「マイスターバックスアイデア・ドットコム」を開設。社員が対応する仕組みもつくった。開設後24時間で7000件のアイデアが寄せられ、1週間で4万1000件のアイデアに10万人が投票した。


真剣に変革に取り組むスタバに「たかがコーヒービジネスじゃないか」と指摘するコンサルタントもいたが、シュルツはこう反論している。

「スタバは人々にサービスを提供するコーヒービジネスではない。人々にコーヒーを提供するピープルビジネスなのだ。スタバの文化を守るという無形の価値を理解していない」

2008年は店舗を縮小し、山積みの問題を解決しつつ新しい取り組みを行うという、ブレーキを踏みながらアクセルをふかす1年だった。2009年、スタバは再び成長を始めた。

シュルツはこのように語っている。

「規律のない成長を戦略としたため、スターバックスは道を誤ってしまった」


シュルツは、なぜ創業者の彼にこのような変革ができたのかについても述べている。

「創業者の強みは、会社の基盤となるブロックの一つひとつを知っていることだ。……その知識が、成功に必要な情熱を呼び起こし、何が正しくて、何が間違っているかを判断する直感につながる。……しかし外側から新鮮な視点で見ることができなくなってしまう」

ドライと思われがちな米国企業だが、情熱と絆の大切さは、どこも同じだ。スタバは世界に通用する「スタバらしさ」という価値観を持っていたおかげで急速にグローバル化し、「らしさ」を見失って低迷し、再び「らしさ」を徹底追求して復活したのだ。

徹底的に「らしさ」を追求するスタバの取り組みは、多くの企業で参考になるはずだ。

◇ ◇ ◇

「らしさ」を見失えば低迷する。徹底して「らしさ」を磨き続けろ

『スターバックス再生物語』著者:ハワード・シュルツ

スターバックスコーヒーカンパニー会長兼CEO。1982年、まだ4店舗しかなかったスターバックスコーヒーカンパニーにマーケティング責任者として加わり、シアトルへ移る。その後、スターバックスを買収し、同社を高い企業倫理で知られる世界的なコーヒーチェーンへと育て上げた。タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれるなど受賞歴多数。

永井 孝尚

カテゴリ:資格取得
【著者紹介】永井 孝尚(ながい・たかひさ)
2013年に日本IBMを退社して独立、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表取締役に就任。執筆の傍ら、幅広い企業や団体を対象に新規事業開発支援を行う一方、毎年2000人以上に講演や研修を提供し、マーケティングや経営戦略の面白さを伝え続けている。主な著書にシリーズ60万部『100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)、10万部『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)ほか多数。

【書籍紹介】『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)

【記事内の書籍紹介】『スターバックス再生物語 つながりを育む経営』(徳間書店 )

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