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“自由に選べる”ことは本当に幸せなのか?『選択の科学』/MBA必読書50冊⑨

グローバルエリートたちは、ビジネスの「セオリー」を知っている! ビジネスマン必読の50冊のエッセンスが1冊で学べる『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(永井孝尚著)より、「読む」だけで差がつくビジネスマン向けの本をご紹介いたします(第9回)。

選択の積み重ねが、あなたをつくる

著者のアイエンガーは、カナダで生まれ米国で育ったシーク教徒だ。

シーク教には忠実に守るべき厳しい戒律や教義がある。食べ物や衣服すら選べない。

アイエンガーは幼い頃に視覚障害を発症、13歳の時に父親を亡くし、高校の時に全盲になった。そんな彼女は米国の公立学校で学び、「自分のことを自分で決めるのは、当然の権利」と教えられる。こんな生い立ちから「自分で選択したほうが明るい人生が拓ける」と考えるようになり、「選択」を研究対象として追いかけている。

彼女の20年間の研究成果をまとめたのが本書だ。


本書では「これでもか」というほど様々な選択の実験が出てくる。

ただ「選択は必ず幸せになる」とはならないのが、本書の奥深いところだ。

選択は本能である

動物園の動物は、一見、野生動物と比べて実に手厚く保護されている。

外敵はいない。十分なエサが与えられ、医療スタッフもいる。

しかし動物園の動物は、野生よりも短寿命だ。野生のアフリカ象の平均寿命は56歳だが、動物園だと17歳。動物園の動物は出生数も減り、乳児死亡率も高いという。

野生の環境では動物は動物らしく生きられる。しかし動物園では檻(おり)やガラスの囲いの中での生活が強要され、自分の生活は自分で変えられない。

「自分で状況をコントロールできない」というストレスにさらされ続け、消耗するのだ。


人間はどうか? 英国で公務員男性1万人に数十年間健康調査した研究がある。

「モーレツ上司が心臓発作でポックリ逝く」というイメージは、実は間違いである。

冠状動脈心臓病による死亡率を比べると、最も職位が低い公務員では、最も職位が高い公務員より3倍も高かった。理由は「自分の仕事の采配度」。高職位の人は責任の重圧があるが、自己裁量も大きい。仕事の裁量が少ない部下のほうがストレスは高かったのだ。

ただ低職位でも「自分は仕事の自由度を持っている」と考える人は健康だった。

健康に最も大きな影響を与えたのは、自己決定権の大きさでなくその認識なのである。

高齢者介護施設でこんな実験がある。入居者に好きな鉢植えを選ばせて鉢植えの世話もさせる介護施設と、施設側で配る鉢植えを決めて看護師が世話する介護施設を比較した。

鉢植えを選ばせるほうが入居者の満足度や健康状態は良く、死亡率も低かったという。

小さなことでも選択できれば、「自分は決定権がある」という意識を高められる。

「自分次第でどうにでもなる」と信じる人は、そうでない人よりも、健康的で幸せな日々を過ごせる。ガンなどの闘病でも、死ぬことを断固受け容れない姿勢が生存確率を高め、再発の可能性を減らす。動物と違い、人間は世の中の見方を変えることができるのだ。大切なのは「自分には選択肢がある」と信じることである。

集団のために選択するのか、個人のために選択するのか

シーク教では、結婚相手も決められている。インド出身の彼女の両親は、結婚式当日に初めて出会ったという。「自分のことは自分で決める」のが当たり前な人には衝撃的な話だが、シーク教徒にとって「取り決め婚」は当たり前なのだ。

ではあらゆることが決められていて、彼らは幸せなのだろうか?

アイエンガーが調査した結果、シーク教のような原理主義の宗教はうつ病の割合が低かった。逆境にも楽観的に立ち向かい、多くの決まりごとも「そのおかげで力が与えられている」と考え、意外なことに「自分が自分の人生を決めている」と考えていた。

逆に無神論者は、悲観主義と落ち込みの度合いが最も高かった。


制約は「自分が決めている」という自己決定感を損なっていないのだ。

これは個人主義社会か集団主義社会かの違いによるものだ。

あなたは何か選択するとき最初に考えるのは、自分だろうか? 周りの人たちだろうか?

個人主義志向の強い米国などの社会はまず「自分」を考える。日本やアジアのような集団主義社会では「私たち」を優先し、「集団の幸せは、個人の幸せ」と考える。

アイエンガーは米国の小学生を対象に実験をした。6組のカードと6色のマーカーを用意。そして子供を3グループに分けた。カードとマーカーを①自分で選ぶグループ、②実験者が選ぶグループ、③「母親はこれを選んでほしいと言っている」と伝えたグループだ。

結果、アングロ系米国人で最も成績が良かったのは「①自分で選ぶグループ」だった。「母親に聞いた」と告げると、彼らは露骨に嫌な表情で、「ママに聞いたの?」。

アジア系米国人で最も成績が良いのは「③母親選択グループ」だった。日系米国人のある女の子は、「言われた通りやったって、ママに言ってね」。

どちらが正しい、ということではない。育った環境により、選び方は変わるのだ。


シーク教で他人が結婚相手を選ぶのは、彼らが集団主義社会であり「結婚は家族全体のもの」と考え、「本人でなく他人にも結婚相手を選ぶ能力がある」と考えるからだ。

彼女の両親の結婚は、両家の祖母たちが様々な条件を何度も話し合い、「2人の結婚は周囲のあらゆる期待に沿う」と考えた結果だったのである。


調査によると、恋愛結婚と比べて取り決め婚の幸福度は、結婚当初は低いが、結婚10年後には逆に高くなるという。長い目で見れば、取り決め婚も決して悪くない。

しかし自分のことは自分で選ぶのが常識の米国人には、取り決め婚は受け容れがたい。

逆に取り決め婚が常識の人に「自由に相手を選べ」と言っても、当惑するだけだ。

「この選択方法が正しい」と思っても、それが他人にも正しいとは限らない。選択権と自己決定権は重要だが、選び方はその人の環境によって違う。

相手との違いがあることを認め、相手を尊重することが大切なのである。

豊富な選択肢は、必ずしもよいとは限らない

アイエンガーは大学院生時代、圧倒的な品揃えを誇るスーパーマーケットを知って「この品揃えは本当に売上に結びついているのか?」と疑問を持ち、実験することになった。実験では24種類のジャム試食コーナーと6種類のジャム試食コーナーを用意した。

結果、24種類コーナーには60%の客が立ち寄ったが、10分ほど迷った末、多くの人が手ぶらで帰った。購入したのは立ち寄った試食客の3%だけ。

6種類のコーナーには40%の客が立ち寄り、1分で商品を選んだ。購入したのは試食客の30%。少ない品揃えのほうが、なんと6倍も売り上げた。

人は7個以上の選択肢があると違いを認識できず選べなくなるのだ。ただこれは条件がある。

私はアマゾンでレア本を探すことが多い。本やCDのように数が多くても違いが明確だと、多くの選択肢はいいことだ。選択肢が多すぎて選べなくなるのは、買い手が違いを認識できないときなのだ。

P&Gは26種類あったフケ防止シャンプーのうち売上が少ない商品を廃止し15種類に絞ったところ、売上が10%増えた。

選択には、代償もある

危篤状態にある早産の未熟児。延命治療を続けると生存確率は6割だが、命を取り留めても生涯寝たきりで意思疎通もできない。治療を中止すると赤ちゃんは亡くなる。アイエンガーはフランスと米国でこんな状況にいた両親を調査した。多くの場合、治療は中止された。

フランスでは親が異議を申し立てない限り、医師が判断する。フランスの両親たちは「こうするしかなかった。息子は多くのことを教えてくれた」と前向きに捉えていた。医師や自分を責める者は皆無だった。

米国では両親が決定しなければならない。米国の両親はその後も「他に選択肢があったのでは?」と長い間自分を責め続けていた。


映画『ソフィーの選択』をご存じだろうか? 第二次世界大戦中、ソフィーが息子と娘とともにアウシュビッツのナチス強制収容所に到着すると、ナチスの軍医がこう告げる。

「おまえに選択の特権を与える。2人の子供のうち1人選べ。残り1人はガス室送りだ」

ソフィーは「私に選ばせないで」と懇願するが、選ばなければ2人ともガス室送りだ。

「娘を連れて行って」と告げた彼女は、強制収容所から解放後も毎朝のようにこの地獄の選択を思い出し、苦しみ続ける。米国人の親たちは同じ経験をしているのだ。

恐ろしいことだが高齢化社会が進むと、私たちも両親についてソフィーと同じ判断を迫られる可能性が高まる。どうすればよいのか?

難しい判断に限れば自分ですべて判断せず、専門家の判断を頼るのも1つの方法だ。「選択は人生を幸せにする」と固く信じている私たちは、選択の自由を手放すのを嫌う。しかしどれを選んでも苦痛がある場合、あえて選択肢を手放すことも検討すべきだと、アイエンガーは言う。

あなたの人生は「選択」と「偶然」と「運命」から成り立っている。

未来は何も決まっていない。あなたの選択次第で変えられるということだ。

いま現在のあなたは、あなたがこれまで行ってきたあらゆる選択の結果なのだ。

しかし一方で、選択には必ず不確実性と矛盾が伴うことも理解する必要がある。

選択に真正面から向き合うことで、私たちはよりよい未来を切り拓けるはずだ。

◇ ◇ ◇

あなたは選択・偶然・運命でつくられている。選択で未来は変えられる

『選択の科学』著者:シーナ・アイエンガー

コロンビア大学ビジネススクール教授。1969年、カナダ生まれ。両親はインドからの移民でシーク教徒。3歳の時、眼の疾患を診断され、高校にあがる頃には全盲になる。移住したアメリカの公立学校で「選択」こそアメリカの力であることを繰り返し教えられ、大学に進学してのち、研究テーマにすることを思い立つ。20年以上にわたり「選択」に関する広範な実験・調査・研究を行っている。



永井 孝尚

カテゴリ:資格取得

【著者紹介】永井 孝尚(ながい・たかひさ)
2013年に日本IBMを退社して独立、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表取締役に就任。執筆の傍ら、幅広い企業や団体を対象に新規事業開発支援を行う一方、毎年2000人以上に講演や研修を提供し、マーケティングや経営戦略の面白さを伝え続けている。主な著書にシリーズ60万部『100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)、10万部『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)ほか多数。

【書籍紹介】『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)

【記事内の書籍紹介】『選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義』(文藝春秋 )

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