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なぜ時間を奪う!? 帰国後驚いた社員を信用しない日本の企業文化/こんな働き方(1)

人生ハードモードの方、必読!「日本のムダ」に潰されない、自分らしい生き方とは? 元アップルのマネジャー松井博氏の著書『なぜ僕らは、こんな働き方を止められないのか』より、毎日をラクに楽しく過ごす方法をご紹介します(第1回)。

なぜ日本企業は、人の時間を大切にしないのか?

「時は金なり」という言葉があります。広く知られているため、日本の故事ことわざと思っている人もいることでしょう。しかし、この至言は英語の「Time is money」を和訳したものというのが定説です。もしかすると、日本には「時間は金と等しく大切なもの」という発想そのものがなかったのかもしれません。

ところが「時は金なり」という言葉が日本語に定着した現在も、日本人が時間を大切にしているようにはどうも見えないのです。

僕は十代の頃からアメリカに住む機会に恵まれたのですが、大学卒業と同時にあえて日本に帰ることにしました。当時のアメリカは不況で、アメリカ人の友人たちさえ仕事が見つからずに四苦八苦していたからです。ましてや外国人の僕にチャンスは多くないだろうと思い、とりあえず帰国することにしたわけです。

また、自分がかなりアメリカナイズされているだろうという自覚もありました。おそらく人生の大半は日本で過ごすことになるだろうから、一度日本に帰ってこのアメリカナイズされたキャラにリセットをかけておいた方がいいと考えたのです。また、当時日本企業は破竹の勢いでしたから、きっと得ることも多いはずだと考えたのも理由の一つでした。

ところが、いざ実際に帰ってみると、どうしても環境に馴染めずに苦労しました。どのくらい馴染めなかったかというと、就職後わずか半年で十二指腸に潰瘍ができたほどです。自分の祖国に馴染めないという体験はなかなか強烈でした。そもそも日本人であること自体に失敗しているような、なんとも言えない敗北感に打ちのめされたことを今でもよく覚えています。

また、日本の会社で体験することの多くが、僕には非合理的に感じられました。例えば、パソコンを開発している会社だというのに社内メールすらなく、遠隔地にある他の部署とやり取りする時には、基本的に電話かファックス、あるいは社内便で書類を送るしかないという状況なのが信じられませんでした。

時はまだ平成元年でしたから、当時の日本の労働環境としては極めて当たり前の風景だったのですが、大学で日常的にメールやファイルサーバを使っていた僕は、過去にタイムスリップしたような感覚さえ覚えたものです。

その他、新入社員が朝早く来て先輩の机を拭いたり、夕方になると灰皿を洗ったりするのも合理性に欠けるように感じました。別に掃除するのが嫌だったわけではないのですが、大学まで出て情報処理やら数学やら物理やら学んできた人間に、なぜ時間を使わせて誰にでもできる作業をやらせるのか、そこに合理性を見出すことができなかったのです。

これらのことは仕方がないこととして飲み込みやすいことでした。郷に入れば郷に従えです。しかし、どうにも我慢できないことがありました。

それは、人の時間を奪うことに全く無頓着なカルチャーです。会議でも始業でも始まる時間は絶対厳守なのに、終わる時間は誰も守らないのです。会社に朝5分遅れると給料を引かれるのに残業はエンドレスで、ズルズルと休日出勤が頻繁に発生するのも理解の範囲外でした。

なぜか水曜日だけは「ノー残業デー」と定められていて、みんな無理やり定時で帰らされるのですが、水曜日だけ強制的に帰らされても他の日に帰る時間が遅くなるだけで、メリットが全くないのです。僕は水曜日以外の日にも早く帰って空手の稽古に行きたかったので、別に水曜日だけ早く帰らされても嬉しくも何ともありませんでした。

また、連休に有給休暇をくっつけて長く休んだりすると露骨に嫌な顔をされるのも耐えがたく感じました。与えられた有給をいつ消化しようが社員の勝手のはずです。承認しておいて後から文句言うなよ、とその都度喉まで出かかりました。

それから、会社の飲み会、社員旅行、運動会なども意味がわかりませんでした。最初の年こそ付き合いで参加しましたが、あとは基本的に全部無視しました。なんで毎日10時間も11時間も会社に捧げているのに、その上飲み会や旅行や運動会で拘束されるのか、全く理解不能でした。

そんななか、僕が入社2年目のある春の日に、同じ寮に住んでいるまだ26歳の若手社員が土曜日の朝に遺体で発見されるという痛ましい出来事があったのです。

しかし、そんなことがあっても、「あいつ幽霊になっても気が付かないで出社してるかもな」なんて冗談を言う人さえいて、かなりドン引きしました。そして、こうした他人の時間を無頓着に奪っていくカルチャーが改められる気配は一向に見られなかったのです。ほとほと嫌気がさして、3年目を目前に会社を辞めてしまいました。

あてもなく退職したその1年ほど後、僕は偶然アップルジャパンへの就職を果たしました。

会社が変わって何が一番変わったかというと、時間管理が全て社員任せだったことです。一応コアタイムが決まってはいましたが、プロジェクトのスケジュールさえ守れば何時に出社して何時に帰ろうが誰も文句を言わないようなカルチャーだったのです。また、電話会議が頻繁にありましたが、アメリカ側のスタッフはしばしば自宅から参加しているのも新鮮でした。

みんな基本的にはよく働く人たちでした。自分で自分の時間を管理できるため、夜型の人はコアタイムギリギリの10時半頃に出社して夜遅くまでいましたし、朝型の人は朝6時には出社して、午後3時には帰ってしまうのです。

また、仕事の進め方もほとんど標準化されておらず、めいめいがかなり好き勝手に進めていました。これもまた衝撃だったことの一つです。日系企業では微に入り細をうがって全てが定義されており、そこからちょっと外れていると、いちいち説明をするかやり直ししなければならず、全く本質的ではない書類の準備に膨大な時間を費やしていたからです。

なぜこんなにも個人任せのテキトーな会社が、同規模の日本企業よりもずっと高い利益率で回っているか不思議で仕方がありませんでした。社内には無料の自販機が設置されていてソフトドリンクやコーヒーが飲み放題で、掃除は全て清掃の人がやってくれました。金曜日にはビアバッシュと称して仕事は午後3時頃に切り上げて、あとはビールを飲んで騒いでいました。

それでいて給料は日本企業よりずっと高かったのです。人件費だってそれなりにかさんでいたはずですから、なぜこれで利益が出るのか、全てのことがアベコベすぎて、めまいが起きそうでした。


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会社は社員を信用していない?

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なぜ僕らは、こんな働き方を止められないのか

なぜ僕らは、こんな働き方を止められないのか

作者: 松井 博
出版社/メーカー: KADOKAWA
発売日: 2019-09-27
メディア: 単行本

【著者紹介】松井 博(まつい・ひろし)
Brighture English Academy代表。米国にて大学卒業後、沖電気工業、アップルジャパンを経て、米国アップル本社に移籍。退職はカリフォルニア州にて保育園を開業。

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