スキルUP

作家の天才的な想像力に引き込まれるマンガ/ホリエモンの1000冊

自他共に認めるマンガ好きという堀江貴文氏が“人生観を変えるほど面白いマンガ”を厳選。『面白い生き方をしたかったので仕方なくマンガを1000冊読んで考えた →そしたら人生観変わった』からご紹介します(最終回)。

マンガ作家の創造力のすごさは、〝if〟の描き方という視点から見てみると際立ってくる。つまり「もし〜だったら」を、恋愛などの日常生活、歴史、さらには記憶や自殺といったテーマで描いてみせる。そこにあるのは、世界への異なった視点からの観察であり、人によってはもうひとりの自分の発見でもあるかもしれない。

天才的なマンガ家が描く〝if〟は、どこまでも読者を引き込み、さらには世の中の見方を大きく変えてしまうほどなのだ。

江戸時代で現代医療が蘇ったら……? 

歴史の〝if〟を2冊紹介しよう。まずは『JIN―仁ー』(村上もとか)だ。医療マンガの最高傑作だと私は思っている。江戸時代で現代医療が実現したらどうなるかという歴史の〝if〟を描いている作品だ。

ドラマが大ブレイクしたのでこの作品名をご存じの方は多いだろう。もちろんドラマ版も面白いのだが、原作の面白さはドラマ版の比ではない。一話一話の話の作り込みや作画が超ハイレベル。間違いなく村上もとかの最高傑作といっていいだろう。それほどまでに話にグイグイと引き込まれるのである。


現代を生きる脳外科医である主人公・南方仁(みなかたじん)は、とある患者の手術中、頭蓋骨内に「封入奇形胎児」を発見し、摘出手術を行う。しかしそれがきっかけで、謎の声が「元へ戻シテ」と仁に囁(ささや)くようになる。この奇妙な事件がきっかけで、江戸時代にタイムスリップすることになってしまう。

非常にありがちで安易なSF設定だと思ったのだが、そこからが凄い。仁は手持ちの緊急手術キットで、頭部を斬られた人物の命を救う。その人物は尊王攘夷派の闇討ちに遭った旗本だった。その旗本の命を救ったことで、仁は数奇な運命に翻弄(ほんろう)されていく。


ストーリーの見どころは現代の医療技術を江戸時代末期の日本でどこまで再現できるかというところだ。仁は当時最高の刀鍛冶(かじ)にメスをはじめとする医療器具を特注したり、麻酔をしたりと、できる限りのことをやっていく。

当時はまだ抗生物質が発見されていない時代。手術の最大のリスクは感染症だ。仁は世界で最初に発見された抗生物質であるペニシリンを自作することに挑戦する。ペニシリンが青カビから作られたことは有名な話だが、ペニシリンを単離し大量生産するのは非常に多くの工程を経る必要がある。

そこで登場するのが醤油屋さんなのだ。ヤマサ本社のある銚子やキッコーマンの本社がある野田に行ってみれば分かるが、醤油づくりはバイオテクノロジーなのだ。仁はいわばバイオプラントとして、醤油屋さんに目をつけ、ペニシリンを開発してみせる。

こうしたストーリーが描けるのも、作者である村上もとかのバックに高度な医療技術監修者がついているからだろう。たとえばクレジットされているひとりである酒井シヅは、順天堂大学の医史学研究室の特任教授・名誉教授だ。


また、坂本龍馬を筆頭にした幕末のキーマン達が次々と登場し、主人公と絡んでいくのも見ものだ。全国各地を飛び回り、彼は色々な人達の命を救っていく。その都度、彼の医療技術は現代に少しずつ近づいていく。

サバイバル的な医療技術のすごさと、医療の限界をまざまざと感じさせるストーリー展開のバランスは、素晴らしいものがある。こんなマンガが登場してから何十年も読まれる名作となっていくところがマンガ文化の素晴らしいところであるし、電子化でそれが促進されることも素晴らしいと思う。

日本軍のアナザーストーリー

太平洋戦争で日本が敗れた原因は、戦艦大和に象徴される大艦巨砲主義が原因というのが定説だ。奇襲に成功した真珠湾攻撃の時代、連合艦隊司令長官・山本五十六の航空戦力重視の戦略は当たっていた。「日本は世界に冠たる航空大国であり、これからは飛行機の時代である」という青写真を、少なくとも日本海軍の一部は描いていたはずだ。しかし実際は戦艦大和がつくられ日本海軍は消滅してしまった。

そんな歴史の〝if〟を、東京帝大出身のスーパーエリート若手数学者が海軍に乗り込んで改革を主導していくという驚きの展開で描くという、面白くないはずのないマンガが『アルキメデスの大戦』(三田紀房)だ。作者は高校野球マンガ『クロカン』や東大受験マンガ『ドラゴン桜』、投資ビジネスマンガ『インベスターZ』などを、通常ではありえない視点で分析し描いてきた三田紀房。とにかく初回から専門的な知識のオンパレード。これは軍事マニアや艦船マニア、航空マニアにとっては垂涎(すいぜん)の話になるとしか思えない。

もちろんマニアックなだけでは終わらせない。日本海軍在りし日の芸者遊びの実態や新興財閥との関係なども描かれており、純粋に技術寄りの話で終始しない。展開が平坦ではなく、時折山場が演出されているので間延びして飽きることもなく、誰でも楽しめる構成になっている。そして相当の資料を読み込むリサーチャーが起用されているのだろう。リアリティいっぱいに描かれる歴史の〝if〟が壮大なストーリーとなって眼前に広がるのだ。

(おわり)



堀江 貴文

カテゴリ:スキルUP

【著者紹介】堀江 貴文(ほりえ・たかふみ)
1972年、福岡県八女市生まれ。実業家。SNS media&consulting 株式会社ファウンダー。
元・株式会社ライブドア代表取締役CEO。東京大学在学中の1996年に有限会社オン・ザ・エッジ(後のライブドア)を起業。2000年東証マザーズ上場。2006年証券取引法違反で東京地検特捜部に逮捕され、実刑判決を下され服役。現在は、自身が手掛けるロケットエンジン開発を中心に、スマホアプリ「TERIYAKI」「焼肉部」「755」のプロデュースを手掛けるなど幅広く活躍。

【協力者紹介】『マンガ新聞』
マンガ書評サイト「マンガHONZ」を運営する団体。毎年数多く出版されるマンガの中から、埋もれている良著をすくいあげ、マンガを心の底から愛するレビュアーが記事を作成している。

【書籍紹介】『面白い生き方をしたかったので仕方なくマンガを1000冊読んで考えた →そしたら人生観変わった』(KADOKAWA)
「遊びが仕事になる時代」に、なぜマンガ(最強メディア)を読まないの?――稀代のマンガ・キュレーター堀江貴文が、「人生観を変えるほど面白いマンガ」のオールタイム・ベストを厳選して紹介。仕事のセンス、想像力と観察力、情報、天才たちの人生、業界の真実……マンガは人生を面白くする最高のツールだ!

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