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アマゾンが新しいビジネスを「直前まで」公表しない理由/アマゾンスピード仕事術

アマゾニアンたちの圧倒的生産性を体感すれば、今日から働き方・生き方が劇的に変わる! 『1日のタスクが1時間で片づく アマゾンのスピード仕事術』(佐藤将之著)で、「不可能」を「可能」にする、「速さ」という最強の武器を手に入れましょう。今回は第7回目です。

ジェフ・ベゾスは、完璧にこだわる

アマゾンのCEOジェフ・ベゾスは「サービスが完璧になるまで公表しない」というスタンスを貫いています。

例えば、2018年1月22日にアメリカのシアトルで開始した「Amazon GO」。スマホ1つで店内に入り、レジでスマートフォンをタッチするだけで買い物が完了してしまう新しいコンビニです。システムの大枠ができた後も、なかなか公表には至っていません。シアトルに本社を構えるアマゾンの社員たちが〝実験台〞となってさまざまな買い物のケースを検証し、「お客様にご迷惑をおかけしない」という手応えを得て初めて公表しているのです。

私自身も入社時から、そのようなアマゾンの姿勢を体験しています。

アマゾンの日本版サイト「Amazon.co.jp」は2000年11月1日にオープンしました。私が入社したのはその約6ヵ月前で、その間、私は立ち上げメンバーの一人として取引先を回りました。当初は「ネット書店」だったので、取引先は主に出版取次です。その時、表向きに「アマゾンジャパン」という社名を使うのは控えていただくよう関係各所に要請し、仮の社名を「エメラルド・ドリームズ」としていました。アマゾンという名前を伏せて、別の会社名で準備を進めていたのです。

当然、社員にも11月1日までは箝口令(かんこうれい)が敷かれ、アマゾンの社名を口にすることはできませんでした。元の職場の同僚に「どこで働いているの?」と聞かれても口ごもるしかなく、11月1日に一斉メールで「アマゾンです」と伝えたのを覚えています。

また、立ち上げ当時のオフィスは西新宿のビルにあり、外資系の他のスタートアップ企業とフロアをシェアしていました。「エメラルド・ドリームズ」という看板を見ながら、周囲の企業は「聞いたことのない会社だな」と思っていたはずです。私が入社して2週間ほど経った頃、ジェフ・ベゾスが日本にやってきました。当時の森喜朗首相が開催した「IT賢人会議」に、ビル・ゲイツなどと一緒にベゾスも招聘(しょうへい)されたのです。3ヵ月後の11月1日に「Amazon.co.jp」のオープンを控え、忙しく準備する日本のスタッフにも会いにやってきました。

ベゾスの高笑いはとても特徴的で、1999年にアメリカの雑誌『Time』が選ぶ「パーソン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたこともあり、ネット系ベンチャー企業の人間には有名でした。「あはははは」という笑い声を聞きつけて私たちの元へやってきた他社の人間たちが、

「お、ジェフ・ベゾスがいるぞ!」
「やっぱりアマゾンだったか!」

と言いながらうれしそうにしていたのは、良い思い出です。

新しいサービスを直前まで「公表しない」理由

では、なぜアマゾンは直前まで「公表しない」のでしょうか?

それは「仕上がっていない状態でサービスを公表すれば、お客様に迷惑がかかるから」です。

アマゾンには「競合に勝つ」という概念がありません。OLP(リーダーシップ理念)の第1条「Customer Obsession」の解説文でも、

リーダーはカスタマーを起点に考え行動します。カスタマーから信頼を獲得し、維持していくために全力を尽くします。リーダーは競合に注意を払いますが、何よりもカスタマーを中心に考えることにこだわります。

と明確に謳われています。ですから、「競合相手に先がけていち早く情報を公表しよう」という考え方がないのです。

ただし、「ライバルをまったく視野に入れない」という意味ではありません。「現在の自分たちはどれくらいのレベルか?」を把握するためのベンチマークは行います。例えば、「競合のA社が、当日配送の難しかった商品を当日届けるサービスを開始した」とします。それに対して、その商品は自社で当日配送ができていない状態だとします。するとアマゾンでは、「自分たちも工夫すれば当日配送できるんじゃないか?」と考えます。そして、「さらに工夫すれば、3時間後配送や1時間後配送も可能なんじゃないか?」と考えるのです。

「公表しない」だけで、本番環境で密かにサービスが開始されていることもあります。アマゾンプライムの配送特典の1つである「当日お急ぎ便」は、実は「我々は『当日お急ぎ便』というサービスを開始します」とアマゾンが世間に公表する前に、すでに開始されていました。「実際に本番でやってみて、不具合が生じないか?」をチェックするためです。当時、「Amazon.co.jp」で商品を購入したお客様の何%かは、「翌日以降に届くはずの商品が当日に届いてすごく驚いた」という体験をしていたでしょう。

このように、アマゾンの舞台裏では一刻も早くお客様に公表できるよう、「これはどうか?」「あれはどうか?」とさまざまな仮説検証を重ね、高速でPDCAサイクルを回しています。本番環境でのテストなども経ながら、完成度を60%、80%、90%と高め、100%が見えたときに、はじめて「公表する」のです。

本来のゴールに基づいて「気持ちを急がせる」

顧客至上主義に基づくアマゾンのライバルに対する考え方は、さまざまな企業で有効活用できる考え方だと私は思っています。

「ライバルに勝つこと」が目的化されてしまうと、本来の主旨からズレたままスピードアップを行わなければいけません。また、常に相手の動きに応じてスピードアップをするハメになり、自己コントロールできないことで疲弊していきます。さらに、「すべてにおいて相手を上回ろう」という意識が強くなると、生まれるサービスの同質化(どっちも一緒)が起こります。

「どんな状態まで完成度を高めて、お客様に伝えたいか?」
「そうすることで、お客様にはどんなふうに喜んでいただけそうか?」

といった、本来のゴールに基づいて社員全員の「気持ちを急がせる」ことが、シンプルではあるのですが、もっとも有効なスピード化の方法だと感じています。

【スピード仕事術】
「ライバルに勝つため」ではなく、「お客様のため」に急ぐ。

佐藤 将之

カテゴリ:スキルUP
【著者紹介】佐藤 将之(さとう・まさゆき)
企業成長支援アドバイザー。セガ・エンタープライゼスを経て、アマゾンジャパンの立ち上げメンバーとして、2000年7月に入社。サプライチェーン、書籍仕入れ部門を経て、2005年よりオペレーション部門にてディレクターとして国内最大級の物流ネットワークの発展に寄与する。2016年、退社。現在は、アマゾンジャパンを黎明期から支えた経験を生かし、経営コンサルタントとして企業の成長支援を中心に活動中。

【書籍紹介】『1日のタスクが1時間で片づく アマゾンのスピード仕事術』(KADOKAWA)
「不可能」を「可能」にする、「速さ」という最強の武器を手に入れろ! 注文から、最短1時間配送という驚異的なサービスを実現したアマゾン。その驚きと感動の舞台裏には、神速で仕事に取り組むアマゾニアンたちの仕事術があった! 彼らは、いかにしてスピードを追い求め、加速度的な企業成長を達成しているのか。アマゾンジャパンを黎明期から支え、国内最大級の物流ネットワークの発展に寄与した元幹部がその秘密を明かす。アマゾニアンたちの圧倒的生産性を体感すれば、今日から働き方・生き方が劇的に変わる!

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