スキルUP

駆け出しプレイング・マネージャーのダンドリズム③ 「スプリント」という手法/倉下忠憲

アグレッシブで柔軟な段取り方法として注目されているのが、「スプリント」と呼ばれるマネジメント手法。短い期間に集中して取り組み、有効な成果を上げる方法について、倉下忠憲さんが解説します。

今回は、スプリントというマネジメント法を紹介してみます。非常にアグレッシブな段取り法で、ダンドリズムを身につける上でも、非常に有用な仕事のスタイルです。

実践的なメソッドについては、『SPRINT 最速仕事術』で具体的に解説されていますので、興味がある方はそちらを参考にしてください。仕事の進め方についてきっと学べることが多くあると思います。

ここでは、スプリントの概要とポイントに絞って紹介してみます。

デザインの短距離走

まずは概要から確認していきましょう。

英語のSprintは「全力疾走、短距離競走」という意味ですが、その名前の通り、ごく短い期間を全力で走り抜けて、有効な成果を上げるための手法がスプリントです。

具体的には一週間(実際は5日間)を次のような段取りで進めていきます。

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月曜日に問題を洗い出して、どの重要部分に照準を合わせるかを決める。
火曜日に多くのソリューションを紙にスケッチする。
水曜日に最高のソリューションを選ぶという困難な決定を下し、アイデアを検証可能な仮説のかたちに変える。
木曜日にリアルなプロトタイプを完成させる。
金曜日に、本物の生身の人間でそれをテストする。
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こんな短いステップで大丈夫なのかと心配になるかもしれませんが安心してください。むしろ、短いからこそよいのです。長い時間があると、ついついダラダラしてしまうのは、退屈な会議で体験済みでしょう。短い距離だからこそ全力で走り抜けられるのと同じで、短い期間だからこそ脳をフル活動させることができます。

ちなみに、このスプリントは次のようなときに役立つとされています。

・リスクが高いとき
・時間が足りないとき
・何から手をつけていいのかわからないとき

ビジネスの現場で言えば、新商品の立ち上げ、新企画の提案、大がかりなデザイン変更や新規事業の創出などがこういったシチュエーションにあたるでしょう。言い換えれば、不確実性の高い状況と向き合い、それでも何かしらの成果を手にするための手法がこのスプリントです。

まずは準備

では、具体的な進め方に入りましょう。

まずは開始前の準備です。メンバーを選定し、彼らの時間と実施場所を確保します。もしかしたら、これが一番難しいかもしれません。というのも、スプリントに参加してもらうメンバーは7人以下でいいのですが、それぞれの部門の専門家に集まってもらう必要があるからです。

専門家とは、たとえば社内にいる「財務の専門家」「マーケティングの専門家」「カスタマー業務の専門家」「技術・ロジスティックの専門家」「デザインの専門家」といった人たちのことで、そのビジネスに関わるさまざまな領域について、知識を持ち、意見を出せる人を集めることになります。さらに、「決定者」(決定権を持つ人)を巻き込むことも必要です。

それができたら、次は場所です。7人ほどなので小さな会議室くらいで十分ですが、大きなホワイトボードを二つ準備しておきましょう。スプリント中はデバイスーーディスプレイを持つ気を散らせるあらゆる端末ーーは禁止して、考えたこと、出たアイデア、検討課題などはすべてそのホワイトボードにまとめていくようにします。

スプリント自体は、月曜日から金曜日までの10時〜17時に実施されるので大抵は業務時間内でしょう。その時間、専門家たちのスケジュールをこのスプリント用に確保しなければなりません。もちろん、「決定者」などはおりおりの必要な場面だけでも大丈夫ですが、主要なメンバーはばっちり拘束されます。つまり、ちょっとした社内合宿のようなものを行うわけです。

スプリントの5曜日

上記の困難をなんとか乗り越えたら、いよいよスプリントに取りかかります。

まず月曜日に、フォーカスすべき問題を見定めます。自分たちの長期目標は何であり、それを達成するために解決すべき問題は何かを検討します。ここでは、無難な問題よりも、リスクが高くかつインパクトの大きい問題に目を向けた方がよいでしょう。無難な問題であれば、わざわざ専門家を集める必要などありません。映画『アベンジャーズ』のように、最高のチームで大きな困難を乗り越えるのです。

次の火曜日には、決定した問題に対する解決策を、それぞれの専門家が考え、それを紙にスケッチします。ただし、ここで行われるのは、いわゆる「ブレインストーミング」(ブレスト)ではありません。ブレストは意見交換を元に進めていくアイデア発想手法ですが、スプリントの火曜日では、それぞれの専門家がまず「殻に籠もって」解決策を考えるのです。

なぜそのような手法を採るのかと言えば、ブレストのように最初に集まってアイデア出しをしてしまうと集団思考に陥りがちで、しかも「話のうまい人」や「説得力のある人」が場をリードしてしまうからです。アイデアそのものの魅力よりも、人の話術が決定に影響を与えてしまう懸念もあります。だから、まずそれぞれの専門家が独自に解決策を考えます。

その後の水曜日に、皆が作成したスケッチを「展示」して、メンバーそれぞれがそれに「投票」していきます。その上位の解決策(アイデア)について再び皆で意見を出し合い、最終的な投票を行います。ただし、本当の最終的な決定権を持つのは、「決定者」です。そこまで行われた議論や、皆の投票結果を踏まえた上で、決定者はそのスプリントで進めていく解決策を決めます。これはなかなか重い仕事です。

その重い仕事が終わった木曜日からは、いよいよ「作る」作業に入ります。ただし、ここで最終的な製品(プロダクト)を作るわけではありません。そもそも7人だけでそんなことは不可能でしょう。ここで作るのは、解決策の「プロトタイプ」です。自分たちが考えた解決策は、実際のところどんな風に機能し、作用し、影響するのか。その実地的なテストをクリアできる最低限のものを「作る」のがこの曜日でやることです。

最後の金曜日では、そうして作ったプロトタイプを、人間を使ってテストします。「靴を販売するためのまったく新しいウェブサイト」が考えた解決策だとしたら、それっぽく見えるハリボテのページを作り、靴を買うことに興味がある人にそれを触ってもらい、その様子を観察したり、イタンビューしてみたりする。そうして、自分たちの解決策がどんな風に機能するのかの「成果」を手にします。

確かなアイデアの選定

かなり端折って紹介しましたが、それでもこの5日間の濃密さは伝わったでしょう。参加したメンバーは、スプリント期間中、問題解決に向けて必死に頭(主に序盤〜頭)と手(主に後半)を動かし続けなければなりません。まさに全力疾走です。

ただし、スプリントで行うのは、最終的な問題解決ではありません。さすがにそんなことは一週間では不可能です。ここでやるのは小さな、しかし確かなコアを持つアイデアの選定です。

大きな成果が必要なプロジェクトほど、長い期間がかかり、必要なコストも上昇します。2年掛けて作ったプロダクトが、まったく的はずれで、ぜんぜん意図した効果が得られなかったとしたら、その損失は著しいものです。会社が傾くことすらありえます。かといって、実際に何が効果があるのかを机上で議論し続けても、前には進まないでしょう。

必要なのは、アイデアとそれを試せるプロトタイプです。それをテストできれば、何かしらの発見があります。進もうとしている道は正しいのか、あるいは改良が必要なのか、はたまたまったく間違っているのか。それが分かるだけでもプロジェクトは確実に前進したと言えます。

準備・実行・後始末の重要性

不確定要素が強く、かつ前例の話がまったく通用しない状況では、事前に先を見通すことなどまったくできません。だからこそ、高速でプロトタイプを作り、それを試してみるのです。

とは言え、スプリントでもっとも注目に値するのは、5日間の実働のうち、その3日間を解決策を考えるために当てていることです。むやみやたらに手を動かしても、あまり意味はありません。下手な鉄砲も数打ちゃ当たると同じことになります。どういう状況になったら的に当たったと言えるのか、それを導くためにはどんな方法が考えられるか、手を動かす前にしっかり頭を動かしてことに当たるのが、実は一番の近道であることがこのスプリントからうかがえます。

準備・実行・後始末。

どれも軽んじることができない大切な段取りの要素です。


倉下 忠憲

カテゴリ:スキルUP

【著者紹介】倉下 忠憲(くらした・ただのり)
1980年、京都生まれ。ブログ「R-style」主宰。コンビニ業界で働きながら、マネジメントや時間・タスク管理についての研究を実地的に進める。その後、執筆業に転身。現在は書籍執筆やメルマガ運営を主とする物書き。著書に『EVERNOTE「超」仕事術』『Scrap box情報整理術』(C&R研究所)、『ハイブリッド発想術』(技術評論社)などがある。自分で出版を行うセルフパブリッシングも意欲的に取り組んでいる。

【書籍紹介】
『SPRINT 最速仕事術――あらゆる仕事がうまくいく最も合理的な方法』

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