スキルUP

上司は部下に教えちゃダメ!? スポーツから学ぶ最高のコーチング術/けいろー

社会人としてキャリアを積むと、人に教える機会が増えてきます。そこで痛感するのが、教えることの難しさ。そんな人にオススメの書籍『最高のコーチは、教えない。』を、ライターのけいろーさんが紹介します。

新卒で入社してから数年。ある程度のキャリアを積むと、ただ自分の仕事をこなすだけでなく、社内で「教える」機会が増えてきます。

先輩として新入社員に仕事のイロハを教えたり、社会人としての立ち振る舞い方を示したり。あるいは、チームリーダーとしてプロジェクトに携わっているとか、はたまた大勢の社員を引っ張る立場になっている人もいるかもしれません。

そのような立場になって実感するのは、他者に「教える」ことの難しさ。

一から十まで懇切丁寧に教えたとしても、それを完璧に理解してもらえるとは限らない。相手の知識不足ゆえに伝わらないこともあれば、自分の伝え方が悪いというケースもあります。

また、たとえうまく伝わったとしても、その知識や技術を身につけて、すぐに活かせるかどうかは別問題。

そこで今回おすすめしたいのが、吉井理人著『最高のコーチは、教えない。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。

本書が教えてくれるのは、個人の能力を最大限に引き出し、高い成果を挙げる方法。ただしそれは、教師などの目線から語られる「教え方」ではありません。

自分の頭で考えさせるように質問し、相手とコミュニケーションをとる技術――「コーチング」です。

コーチの仕事は「教える」ことではなく、「考えさせる」こと

プロ野球チームの投手コーチである筆者が、コーチングの技術について紐解いた本書。

スポーツのコーチが書いた本であると聞いて、「スポーツにおける『コーチング』と、ビジネスで必要になる『指導』の方法は、別物なんじゃないの?」と感じた人も中にはいるかもしれません。

実際、本文に登場する例は野球に関するものばかり。しかも専門用語も少なからず登場するため、野球に詳しくない自分としては、取っつきにくい印象もありました。

とは言っても、そのような印象を持ったのは、読みはじめたばかりの序盤だけ。

野球のルールを知らなくても話は理解できますし、文章は平易かつ明快。自分にとっては縁のない「コーチング」という技術に好奇心を刺激され、気づけば夢中になって読んでいた格好です。

その方法論もスポーツに限定されるものでなく、ビジネスやそれ以外の場面にも当てはまる、普遍的なものであるように感じられました。

曰く、「コーチの仕事は『教える』ことではなく、『考えさせる』こと」。

コーチの仕事とは、「選手が自分で考え、課題を設定し、自分自身で能力を高められるように導くこと」であると、筆者は説明しています。

「コーチ」を「上司」に、「選手」を「部下」に置き換えても、まったく違和感はありませんよね。

タイトルにもあるとおり、「コーチは教えてはいけない」ことを前提として、他者の能力を伸ばす方法を紐解いていく本書。

基本理論の説明から始まり、選手としてもコーチとしても第一線で活躍してきた筆者の体験も交えつつ、「コーチング」の技術の本質に迫ります。

コーチングの基本は選手に主体があること

では、なぜ「コーチは教えてはいけない」のでしょうか。

コーチと選手、リーダーとメンバー、上司と部下――などなど、教える側と教えられる側の関係性もさまざま。そのどの場合にも当てはまる「教えてはいけない」理由のひとつとして、「相手と自分の経験・常識・感覚はまったく違うから」という指摘があります。

特にスポーツの世界では、理由も伝えずに「このトレーニングをするように」と強制するようなこともあると聞きます。合理的な理由があるのならともかく、単に「自分(コーチ)たちもそうしてきたから」という漠然とした説明では、選手が納得するはずもありません。

理由を伝えない指導を強制すれば、選手のモチベーションが削がれてしまうのも当然ですよね。

重ねて、筆者は次のようにも指摘しています。

“コーチのアドバイスは、本来、選手にとっては邪魔なものである。だからこそ、コーチは自分の経験に基づいた言葉だけでアドバイスするのは避けるべきだ。選手の言葉の感覚をしっかりとつかみ、その感覚でアドバイスしてあげなければならない。”(P.41)

先ほどの「相手と自分の経験・常識・感覚はまったく違うから」という指摘とも重なりますね。ただ、改めて考えてみると、これらは「コミュニケーションの基本」とも言えるものなのではないでしょうか。

人はそれぞれに異なる価値観を持っており、身につけている知識や語彙にも違いがある。だからこそ、まずは相手を理解するところから始めなければなりません。

相手を知り、お互いにわかる言葉と表現を用いることで、より正確に「伝わる」やり取りが可能になる。これは何もコーチと選手の関係に限らず、あらゆるコミュニケーションに当てはまることです。

そしてこの考え方にこそ、「コーチング」のエッセンスがあるのだそう。筆者によれば、「コーチングの基本は選手に主体があること」。相手を中心に、一人ひとりに適した指導方法を考える必要があるからこそ、上から目線で「教えてはいけない」のです。

コーチの仕事はほとんどがコミュニケーションである

選手時代から、コーチの指導方針に疑念を抱いていたという筆者。彼は自身がコーチに就任するにあたって、まず大学院でスポーツコーチングについて体系的に学んだと言います。

そんな筆者が著した本書は、大学院で学んだ知識と、10年以上にわたってコーチとして試行錯誤してきた経験をまとめ上げた、集大成的な一冊。

成功体験だけでなく失敗についても事細かに記し、その問題点と改善策を示しているなど、実践的な内容であると言えるでしょう。

たとえば、本書の第3章に登場する「コーチング3つの基礎」。筆者はこの基礎について、大学院での学びを元に自身の失敗体験も交えながら説明しています。

・観察:相手のことを知る
・質問:相手に話をさせる
・代行:相手になったつもりで考える

まずは何と言っても、相手を「観察」することの重要性。

相手の特徴を把握し、どのような選手(人材)であるかそのタイプを把握しなくては、コーチングの方針は立てられません。十人十色の人間がいて当たり前なのだから、一人ひとりに適した指導をしなくてはならない。そのためには、最初に「観察」から入る必要があるわけです。

続いて、言うまでもなく大切な「質問」について。

「質問」と言っても、これは「コーチ自身が相手のことを知るために投げかける問い」ではありません。コーチングにおける質問の目的は、「自己客観視」と「信頼関係の構築」にあります。

“人は、自分の姿はわからないものだ。しかし、わかっていなければ自分の状態を言語化することはできない。他人から指摘されたことを自分で納得し、修正し、自分の言葉で説明するところまでいけないと、自分のものになったとはいえない。”(P.161)

つまりこの「質問」とは、選手が自分のことを正しく理解するためのきっかけづくり。

選手が自身の能力をどのように認識し、うまく言語化できているかどうかを確認しつつ、その「言語化」の精度とレベルを上げること。それが、コーチの役割なのだそうです。質問以外は黙って相手の話を聴きつつも、時には相手に必要な言葉を投げかける。そのような切り口で信頼関係の重要性を説いています。

そして最後に、適切な指導を可能にする「代行」の視点。

“代行は読んで字のごとく「代わりに行う」ことで、コーチが選手になったつもりで考えるという意味である。ただし、旧来のコーチにありがちな「自分だったらこうする」と考えるのではなく、視点を変えて「その選手だったらどうするか」と考えていくことだ。抽象的で難しい考え方だが、コーチとして技術を指導するうえでのポイントになる。”(P.174)

この考え方について筆者は、外国人と日本人のハーフの選手のコーチを担当したときのエピソードに触れつつ紹介しています。

その話によれば、その選手にはダルビッシュ有選手のように投げてほしいと考えていた筆者は、ずっと日本人風のピッチングを教えていたのだそう。しかし当の彼は、「なんかおかしい」と首を傾げるばかり。筆者も選手も、その違和感の正体がわからなかったそうです。

しかし後年、大学院でピッチングについて学んだ筆者は、「腕が長いその選手には、日本人のような投げ方は合っていなかった」と、初めて理解できたのだそうです。

このエピソードが、まさしく「代行」の重要性を示しています。

日本人と外国人では体のつくりが違うこと、ピッチングの方法が異なることを知っていれば、外国人としての感覚を「代行」することで適切な指導ができたかもしれない。この経験から筆者は「コーチは周辺知識を身につけることも不可欠である」と反省し、その後の経験に活かすことができたとまとめています。

この「3つの基礎」は、本書が教えてくれるコーチングの要点の一部に過ぎません。ですがこの部分だけでも、「コーチング」という技術の重要性が伝わるのではないでしょうか。

筆者は「コーチの仕事はほとんどがコミュニケーションである」と書いていますが、これはコーチに限らず、企業における指導や人材育成にも当てはまるように感じました。

上から押し付けるのではなく、一人ひとりの個性と強みを育むための技術としての「コーチング」は、きっとビジネスの場面でも参考になるはずです。

けいろー

カテゴリ:スキルUP
【著者紹介】けいろー
フリーライター。ネットカルチャーを愛するゆとり世代。新卒入社したメーカーを退職後、趣味で始めたブログ「ぐるりみち。」経由で仕事をもらえるようになり、ノリと勢いで独立。本、グルメ、街歩き、旅行、ネット、アニメなどに関心あり。執筆実績として『HATSUNE MIKU EXPO 2016 Japan Tour』公式パンフレットなど。バーチャルな存在になりたい。

【書籍紹介】『最高のコーチは、教えない。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

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