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メガネ戦国時代に、メガネスーパーは負けるべくして負けた/0秒経営②

倒産寸前だったメガネスーパーは、なぜV字回復できたのか?「君たちの給料を小売業界No.1にしよう」で知られるメガネスーパー・星﨑尚彦著『0秒経営 組織の機動力を限界まで高める「超高速PDCA」の回し方』から、負けグセがついたチームや組織を丸ごと変える「0秒経営」をご紹介します(第2回)。

群雄割拠のメガネ戦国時代に、メガネスーパーは敗れた

あらためて告白しよう。

たった5年前、大赤字のどん底にいた頃の、メガネスーパーの話である。


会社の創業は、前身となる会社も入れると1973年までさかのぼる。

当時のメガネ業界は個人店が主流で、メガネ1本が10万円近くもした。そこへ、チェーンオペレーションによる多店舗展開と、メガネ1本4万~5万円という安売り戦略で攻勢をかけたのが、メガネスーパーだった。2007年のピーク時には全国に540店舗を構え、売上高は380億円に迫った。メガネトップやメガネの三城と並び、「メガネチェーン御三家」と謳(うた)われもした。

雲行きが怪しくなったのは、ここ10年ほどのことである。

1990年代後半から、ファッション性を重視して、かつスリープライスをうたい文句に5000円、7000円、9000円という、さらなる価格破壊を打ち出した新勢力が台頭した。


具体的には、JINSやZoff、OWNDAYSといった、商品企画から製造、販売までを自社管理するSPA型(製造小売)メーカーである。ファッション性も高い新たな競合たちのメガネは、気に入ったメガネを何本も使い分ける若者たちの心をつかんだ。

さらに2000年代に入り、弐萬圓堂やメガネトップ(眼鏡市場)などが、フレームとレンズのセット価格2万円均一や1万8000円均一を打ち出し、さらには、「レンズ代ゼロ円戦略」を打ち出してきたことが業界の価格破壊のとどめとなった。


メガネスーパーも途中から「レンズ0円戦争」に参戦して、一気に苦境へ追い込まれた。間の悪いことに、サブプライムローン問題、リーマンショックという大波が、さらに業績を悪化させた。

かくして、2008年4月期から15年4月期まで、8年連続の赤字、ボーナスも8年間凍結という事態に。2011年には、ついに債務超過に陥った。

2012年1月には、経営権が創業家から投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに譲り渡され、新体制による経営再建が始まった。業績を回復させるべく必死の取組みが進められたが、成果は上がらず、2013年4月期には、売上高が160億円にまで落ち込んだ。アドバンテッジパートナーズを通じて、私が再生請負人として送り込まれたのは、上場廃止も時間の問題とささやかれていた、2013年6月のことである。

要するに、メガネスーパーは、明日をも知れない状況だったのだ。

「今やろう、すぐやろう」

「0秒経営だ」

と私が口やかましかったのは、なんのことはない、ここに最大の理由がある。

今日できることを明日に延ばしたら、会社が潰れる。1000人もの社員がハローワークに並ぶかもしれない。それでもいいのか。

そんな土俵際に、メガネスーパーはいた。

はじめから負ける戦いだった

なぜ、そこまで赤字が膨らんだのか。

メガネスーパーは、新興メガネチェーンに追随するかたちで、スリープライス業態のハッチの展開を開始し、また、他の全国チェーンと共に「レンズ代0円」の安売り競争に参入した。これが悪手だった。

メガネ業界のオールドプレイヤーであるメガネスーパーは、新しい戦い方を知らなかった。JINSやZoff、OWNDAYSなどのSPA小売業が、インパクト大の低価格戦略を取りながらも利益をあげられるのは、商品企画から生産、販売まで自社管理することで、コストを大幅に押さえているからだ。

ところが、メガネスーパーは高コスト体質をそのままに、値段だけを下げてしまった。当然ながら、利益率は削られる。

客数も伸び悩んだ。新興メガネチェーンはファッション性の高さにも強みがあった。

そのセンスは、「オッサン」ばかりのメガネスーパーには著しく欠けていたものだ。

にもかかわらず、「安ければ売れる」とばかりに値下げをした。

センスが悪いから売れない。売れたところで利益が出ない。これでは八方塞がりである。ファンド主導で不採算店の閉鎖や希望退職者の募集などのコスト削減策にも着手したが、根本的な問題解決とはいえず、赤字に歯止めがかからなかった。


メガネスーパー本来の強みは、創業から40年以上という歴史のなかで培ってきた検査力やメガネの加工技術、そして眼に関する専門知識の深さにある。それらすべてが、なおざりにされた。

当時の迷走ぶりを示す、象徴的な出来事がある。

私がきた当時のメガネスーパーは、検査時間をどんどん短くしていた。それまで30分かけていた検査は20分にしよう。安売りで利益が薄くなるのだから、検査時間を短くして、回転率を上げるしかない――。

それが現場と経営陣の声だった。

安売りのために、客の回転率をあげる。もっともらしい言葉だ。

だがそれは、見せかけの正論に過ぎない。

安値競争に勝者はいない。安さを武器に戦う限り、誰もが身をすり減らしていくだけだ。

星﨑 尚彦

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【著者紹介】星﨑 尚彦(ほしざき・なおひこ)
1966年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、三井物産(株)に入社。MBA取得後の2000年、スイスの宝飾メーカー「フラー・ジャコー」日本法人の経営者に就任、短期間で同社業績の飛躍的向上に成功。2012年にアドバンテッジパートナーズからの要請により、アパレルメーカー「クレッジ」の経営再建を担い、1年半でV字回復を達成。2013年6月、メガネスーパーの再建を任され、2016年に同社9年ぶりの黒字化を果たす。2017年11月には株式会社ビジョナリーホールディングスの代表取締役社長に就任。

【書籍紹介】『0秒経営 組織の機動力を限界まで高める「超高速PDCA」の回し方』(KADOKAWA)

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