スキルUP

失敗を成果に変える合言葉「人を責めるな、しくみを責めろ」/トヨタの失敗学③

「トヨタの現場では、たくさんの問題やトラブルが起きる。でも、『失敗』という言葉はほとんど聞かなかった」。トヨタ在籍40年以上のベテラン技術者がトレーナーを務める(株)OJTソリューションズの著書『トヨタの失敗学 「ミス」を「成果」に変える仕事術』より、仕事の「質」と「速さ」を変えるメソッドをご紹介します(第3回)。

責任ではなく、対策をとれ

トヨタでは、たとえ失敗をしても「おまえのせいだ! なんとかしろ」と責任をとらされることはありえません。もちろん飲酒運転などの就業規則違反は別ですが、仕事のミスで責任をとって降格させられることもありません。

かつてトヨタグループの工場で火災が発生したのが原因で、部品の供給ができなくなり、生産がストップしたことがあります。結果的に10万台分のロスにつながる大事故でしたが、複数社に部品を発注するなど再発防止の対策をとることは求められても、誰かが責任をとらされて、降格させられたという話はありません。

多くの会社では、失敗をすると上司から責任をとるように言われたり、降格人事を命じられたりします。だから、失敗するリスクの高いむずかしい仕事にチャレンジしないし、失敗したらそれを隠そうとします。

トヨタでは、その人が確信犯でないかぎりは人を責めることはしません。

「しっかりしろ!」と人的対策に逃げるのは簡単です。よく見られるのは、失敗の原因を「個人のスキル不足」に求めるケース。この場合、上司は「まだまだスキルが足りないから、失敗するのだ。もっとスキルを磨きなさい」と部下を叱って、その場を収めてしまいます。

でも、よく考えてみてください。

たとえば1時間に100個の製品をつくる人が、3個の不良品を出してしまったとします。「3個不良を出したときだけスキルが不足していて、残りの97個のときはスキルが十分だった」ということはありえるでしょうか。スキル不足というのはもっともらしい原因ですが、実は真の原因ではないのです。

人の責任にするのは簡単

トヨタには、「人を責めるな、しくみを責めろ」という言葉があります。

トヨタでは、失敗したら人的対策だけではなく、できるかぎり物的対策を講じます。たとえ不注意などのヒューマンエラーであっても「その人が失敗したのは、しくみに問題があるから」と考えて、物理的に失敗が再発しないようなしくみを考えるのです。

たとえば、「作業者の不注意」で不良を出した場合でも、作業者の不注意を引き起こしてしまった原因を考えるのです。決して作業者に「以後、気をつけます」と言わせて終わりにすることはありません。

作業の手順や指示の出し方に問題があったのかもしれませんし、物理的に作業のスピードに問題があったのかもしれません。また、体調面がすぐれずに注意が散漫になってしまったのなら、勤務体系やシフトに問題がなかったかを考えます。

本当にスキルが十分でないことが原因であれば、後工程で他の人がチェックするなどの対策を考えます。

人を責めるのは簡単ですが、しくみに原因を求めるのは大変な労力をともないます。頭を使わなければなりませんし、仕事のやり方や進め方を変える必要があります。

場合によっては、しくみを変えるために、お金を投資しなければならないケースもあるでしょう。

トレーナーがクライアント先で改善指導をしていると、「こんなにお金がかかることはできない」と抵抗されることもありますが、そのときは、「お金をかけられないなら、その代わりに何ができるかを考えてみてください」と声をかけます。実現可能なことから手を打っていかないと、失敗が起きる状況は変わりません。

そのまま人に責任を押しつけていたら、同じ失敗を繰り返すことになりますし、従業員が委縮してチャレンジしない組織になってしまいます。人的対策だけに逃げてはいけないのです。

厳しく叱ったあとはフォローする

ただし、決められたルールを守らなかった場合や大事故につながるようなミスをした場合には、厳しく叱ることも必要です。

トレーナーの大嶋弘は、こう言います。


「今とはだいぶ時代が違いますが、品質不良やケガにつながる事故を起こしたら、上司からこっぴどく叱られるのが当たり前でした。叱られるほうは、『ルール違反をすると大変な失敗につながる』ということを肌で実感していったのです」


しかし、そんな厳しい上司でも、こっぴどく叱ったあとは必ずフォローをしてくれたといいます。

「さっきは厳しく言って悪かったな。でも、おまえのためでもあるんだから、わかってくれよ」と声をかけてくれる。ルール違反をしたことは厳しく叱る一方で、ルール違反をさせてしまったことについては、上司の責任として引き受け、フォローするのです。

トレーナーの大嶋も、「叱るべきところでは厳しく叱る。ただし、フォローは忘れないことを心がけてきた」と言います。


「失敗は当事者の責任」が当たり前になっていないでしょうか。そういう上司がいる職場では、部下が委縮して創造性を発揮できません。失敗しないために、言われた通りに仕事をするだけの「指示待ち人間」を生み出す結果となります。

◇ ◇ ◇

失敗したら責任を問われるのが世の常。だが、トヨタでは再発防止のための「対策」を考えることを優先する。



(株)OJTソリューションズ

カテゴリ:スキルUP

【著者紹介】(株)OJTソリューションズ
トヨタとリクルートが設立したコンサルティング会社。在籍40年以上のベテラン技術者がトレーナーとなり、豊富な現場経験を活かした人材育成、変化に強い現場づくり、儲かる会社づくりを支援。製造・食品・医薬品・金融など、さまざまな顧客企業にサービスを提供。著書は、20万部突破の『トヨタの片づけ』ほか、『トヨタの段取り』『トヨタ仕事の基本大全』『トヨタの問題解決』『トヨタの育て方』『[図解]トヨタの片づけ』『トヨタの上司』、文庫『トヨタの口ぐせ』『トヨタの片づけ』(すべてKADOKAWA)など累計80万部を超える。

【書籍紹介】『トヨタの失敗学 「ミス」を「成果」に変える仕事術』(KADOKAWA)

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