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失敗が視えるしくみ「アンドン」っていったい何?/トヨタの失敗学⑤

「トヨタの現場では、たくさんの問題やトラブルが起きる。でも、『失敗』という言葉はほとんど聞かなかった」。トヨタ在籍40年以上のベテラン技術者がトレーナーを務める(株)OJTソリューションズの著書『トヨタの失敗学 「ミス」を「成果」に変える仕事術』より、仕事の「質」と「速さ」を変えるメソッドをご紹介します(第5回)。

失敗は隠れるもの

失敗は、誰でも隠したくなるものです。

失敗が明るみに出れば、上司から叱られることになりますし、まわりの人にも迷惑をかけてしまいます。「バレないのであれば隠し通したい」というのが、人間の自然な心理ではないでしょうか。

失敗を喜んで報告したい人、自分に都合の悪い情報を出したいという人はいないので、どうしても失敗は隠れてしまいがちです。

たとえば、あるトレーナーがクライアント先で、こんな経験をしています。

トレーナーが工場の責任者に1日当たりの計画達成率について尋ねました。すると「100台の計画台数のところ80台の実績なので、達成率は80%です」と答えたそうです。80%という数字そのものは悪いものではなかったのですが、トレーナーがさらに突っ込んで聞いてみると、隠れていた事実が明るみに出ました。

本来8時間で100台をつくる計画だったのに、実際には10時間で80台だったのです。つまり、現実には、計画達成率は80%よりもはるかに低い数字だったのです。責任者は2時間の残業をしたという不都合な事実を隠して、最終的な生産台数の数字だけを報告したのです。

これと似たような話は、どんな業界・企業にもあるのではないでしょうか。

人は、そもそも自分に都合の悪い情報は出したがらずに、隠そうとするのです。

しかし、失敗は、隠し通せるものではありません。

トレーナーの森川泰博は、こんな経験をしたことがあります。

彼の部下が、作業中に不注意で手に切り傷を負ってしまったことがあります。本当は部下がケガをすれば、上司に報告するのが原則ですが、このとき、森川は傷を見て、「このくらいなら大丈夫だろう」と判断しました。上司に報告すれば、叱られることになりますし、対策もとらないといけない。正直に言うと、面倒なことを避けたいという気持ちもありました。

ところが、3日後、部下の傷を確認すると、傷口が膿(う)んでしまい、症状は悪化していました。作業にも支障が出る可能性がありました。当然、部下を工場の医務室に連れていくことになり、上司にもバレてしまいました。大目玉をくったのはいうまでもありません。

悪い話は遅かれ早かれ、明るみに出るものです。どうせバレるのであれば、早いに越したことはありません。問題は放置すればするほど大きくなる可能性があります。

失敗が視えるしくみ「アンドン」

トヨタでは個人の判断に頼らなくて済むように、失敗が視えるしくみを取り入れています。そのひとつが「アンドン」です。

アンドンとは、異常発生を表示装置に点灯させるしくみのこと。作業者のスペースにはひもが垂れ下がっており、何か異常が発生したときには、作業者はそのひもを引っ張ることで異常を知らせて、ラインを止めるのがルールになっています。

アンドンのひもを引くと、その現場に各所から関係者が集まってきます。金型の設計の問題であれば、現場の管理監督者、設計した人、金型をつくった人など。みんなで問題を起こした金型を囲んで、現地・現物でなぜ問題が起きたのかを考え、「ああしたらいいのでは」「こちらのほうがいいかも」と議論が始まります。そして、問題を解決できたら、ラインを再び動かします。

このように「異常が発生したら、機械やラインをただちに止める」という考え方は、トヨタでは「自働化」と呼んでいます。豊田式自動織機の発明者である豊田佐吉の時代から受け継がれる考え方で、トヨタ生産方式の柱となっています。

このとき、アンドンのひもを引いた作業者は、異常が発生し、ラインを止めたことに対して責任追及されることも、叱責されることもありません。「どういう手順でやったのか」「どんな状態でどんな問題が起こったのか」といった事実関係の確認が終わったら、あとは問題解決が済んでラインが動き出すのを待つのみです。つまり、作業当事者には「止める、呼ぶ、待つ」の文化が浸透しているのです。

ここでポイントとなるのは、アンドンのひもを引いてラインを止めた作業当事者は、叱られることはない、ということ。むしろ異常を発見し、アンドンを引いたら「よく引いてくれた」と言われる世界です。

もしアンドンのひもを引いたとき、「何をやってるんだ!」と上司に怒鳴られることがわかっていれば、異常や問題を隠したくなります。「このくらいは大丈夫だろう」「バレないだろう」と考えて、そのまま流してしまったら、後工程で大問題となる可能性があります。

隠されがちな失敗を表に出す秘訣(ひけつ)は、当事者を責めることなく、問題を引き起こした真因にフォーカスすることです。


◇ ◇ ◇

失敗は隠したくなるのが人間の心理。だからこそトヨタには、失敗を隠さなくても済むような「しくみ」がある。

(株)OJTソリューションズ

カテゴリ:スキルUP
【著者紹介】(株)OJTソリューションズ
トヨタとリクルートが設立したコンサルティング会社。在籍40年以上のベテラン技術者がトレーナーとなり、豊富な現場経験を活かした人材育成、変化に強い現場づくり、儲かる会社づくりを支援。製造・食品・医薬品・金融など、さまざまな顧客企業にサービスを提供。著書は、20万部突破の『トヨタの片づけ』ほか、『トヨタの段取り』『トヨタ仕事の基本大全』『トヨタの問題解決』『トヨタの育て方』『[図解]トヨタの片づけ』『トヨタの上司』、文庫『トヨタの口ぐせ』『トヨタの片づけ』(すべてKADOKAWA)など累計80万部を超える。

【書籍紹介】『トヨタの失敗学 「ミス」を「成果」に変える仕事術』(KADOKAWA)

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