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「開かれた対話」が驚きの変化をもたらす、注目の精神療法/オープンダイアローグ①

『対話』こそが組織課題の「根本解決」につながる! 大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員である鈴木隆著『仕事に効くオープンダイアローグ 世界の先端企業が実践する「対話」の新常識』から、最新の精神療法にもとづく、シンプルで強力なコミュニケーションについてご紹介します(第1回)。

投薬しなくても、対話するだけで治った

まずは、「オープンダイアローグ」が世界の常識を覆(くつがえ)すことになった経緯から、かんたんに見ていきましょう。一部の専門家や研究者などを除くと、オープンダイアローグについてはまだほとんど知られていません。

オープンダイアローグは、北欧の国フィンランド発祥の精神療法(心理療法)です。

フィンランドは、国土は33万8000平方キロメートルと日本とほぼ同じ広さなのに、人口は550万人と兵庫県くらいしかありません。絵本や漫画のムーミンが暮らすとされている、自然豊かでのどかな森と湖の国です。上記フィンランドの地図にあるように、首都ヘルシンキから北へ700キロメートル、北極圏に近い西ラップランド地方の人口2万2000人の小さな町、トルニオ市にあるケロプダス病院(下記画像)が、オープンダイアローグの誕生したところです。トルニオ市を含め人口6万人ほどのケミ=トルニオ郡の患者を引き受けている、ただひとつの公立の精神科の専門病院です。

提供:斎藤環氏
提供:斎藤環氏

失業率が高く、豊かとはいえない辺境の地で、病院の治療スタッフが、手探りの実践を重ね、気づきを得ながら、オープンダイアローグが生みだされました。

1984年8月27日に、医師が、患者のいないところで患者について臨床心理士などのスタッフと話すことをやめ、患者と家族の前でのみスタッフとともに話すことに決めたことを境に、劇的な変化が起き始めました。この「開かれた対話」によって、ほとんど薬も飲まず入院もせずに、統合失調症が初期のうちに治るようになっていったのです。

「統合失調症は脳の病気だから、薬を用いなければ治らない」というそれまでの精神医療の大前提が崩れたのです。しかも、オープンダイアローグを行ったほうが、圧倒的に治療の結果がよかったのです。

1992年から93年に治療を受けた患者の2年後について追跡して調べてみると、通常の治療を受けた患者では71%が再発したのに対して、オープンダイアローグが行われた患者では24%と、ほぼ3分の1でした。人口10万人あたりの新しい患者の発生数も、1985年には33人だったのが、2005年には2~3人と、10分の1以下になっています。症状が6か月以上続いて患者と認定される前に、初期の治療でほとんどが1か月以内に治ってしまうからです。

統合失調症の患者の発生数が、欧州の他の地域に比べ人口10万人あたり2~3倍と最悪だった地域で、世界で最高の治療結果が出るようになったのです。精神医療における画期的なイノベーションと言えるでしょう。

オープンダイアローグは、高度で複雑な技法ではありません。いたってシンプルです。基本的な考え方を理解し、一定のやり方に従って対話を実践していけばよいのです。

ケロプダス病院に見学に来る専門家は、みんなどのような技法が使われているのか知りたがって質問するそうです。それに対して、治療スタッフは、「オープンダイアローグは技法や方法論ではなく、考え方、生き方のようなものです」と答えるそうです。

治療スタッフの都合ではなく、患者のニーズに応じてアプローチするのが基本です。たとえば、どこで会うのか、自宅なのか出先なのか病院なのかを決めるのは患者自身です。顧客のニーズを起点にしてアプローチするのは、マーケティングと同じです。

鈴木 隆

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【著者紹介】鈴木 隆(すずき・たかし)
東京大学法学部卒業後、大阪ガス入社。国際大学大学院国際関係学研究科修了。2001年、社内起業により国内初の本格的な住宅リフォーム仲介サイト「ホームプロ」を立ち上げる。現在、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員。

【書籍紹介】『仕事に効くオープンダイアローグ 世界の先端企業が実践する「対話」の新常識』(KADOKAWA)

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