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「主体的に!」の指示が主体性を削ぐ。ダブルバインドに要注意/オープンダイアローグ②

『対話』こそが組織課題の「根本解決」につながる! 大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員である鈴木隆著『仕事に効くオープンダイアローグ 世界の先端企業が実践する「対話」の新常識』から、最新の精神療法にもとづく、シンプルで強力なコミュニケーションについてご紹介します(第2回)。

コミュニケーションについてとらえ直す

オープンダイアローグは、コミュニケーションのひとつのあり方です。コミュニケーションは、人と人とのやりとり、相互作用のことです。人と人だけでなく、人とものとのやりとりまで広く含めることができます。

実は、コミュニケーションのとらえ方については、すでに半世紀あまりも前に常識が覆っていたのです。オープンダイアローグが生まれるようになったそもそもの源流ですが、これについても、一部の専門家や研究者、あるいは拙著『御社の商品が売れない本当の理由』(光文社新書)を読まれた方などを除けば、いまだにほとんど知られていません。コミュニケーションのあり方について、この際きっちりとらえ直しておきましょう。

野村さんの「ベイトソン・セミナー」で取り上げられるグレゴリー・ベイトソンさんが中心となって、1950年代に打ちだされたコミュニケーションのとらえ方が、オープンダイアローグの源流です。

20世紀のもっとも偉大な思想家のひとりと言われるベイトソンさんのコミュニケーションのとらえ方は、人間ばかりでなく動物についても、みずから現場に入り込んで観察を重ねるなかから生みだされました。

ベイトソンさんは、1930年代から、在野の文化人類学者として、ニューギニアやバリ島で、異文化の社会に入り込んで調査をし、成果をあげていました。第二次世界大戦が終わって、さまざまな分野から当代一流の研究者を集め、のちにサイバネティクスと呼ばれるようになる、動物と機械の制御と通信に関する「メイシー会議」が開かれることになり、ベイトソンさんも、そのひとりとして参加しました。10回におよぶ会議での学際的な議論に触発されて、送り手から受け手に信号がそのまま伝わる電気通信とは異なる、人や動物の本来のコミュニケーションのあり方について探究することを決意します。それまで成果をあげてきた文化人類学の観察の手法を使って、実際に現場で行われているコミュニケーションのあり方について解明することにしたのです。

そのコミュニケーションのとらえ方にもとづく具体的なパターンのひとつとして有名になったのが、「ダブルバインド(二重拘束)」の理論です。逃れられないなかで、矛盾した命令を繰り返し与えられることで、二重に拘束されて身動きがとれなくなり、精神に不調を来(きた)すようになることがある、というものです。

ベイトソンさんは、精神病院で観察した母子の出来事を二重拘束の典型的な事例として紹介しています。統合失調症で入院中の息子を母親が見舞いに訪れます。喜んだ息子が思わず母の肩を抱いたところ、母親は体をこわばらせました。そこで、息子が手を引っ込めると、母親が息子に「もうわたしのことが好きじゃないの?」と尋ねます。さらに、息子が顔を赤らめるのを見た母親は、「そんなにまごついちゃいけないわ。自分の気持ちを恐れることなんかないのよ」と言いきかせました。息子はそのあと、数分間しか母親といっしょにいることができず、母親が帰ったあとには病院の掃除夫に襲いかかったのです。息子は母親に強く束縛されていて、母親の行動について論評できなくなってしまっている一方、母親からは自分の行動について論評されるばかりで、矛盾した命令によって二重に拘束され続け、ジレンマに陥っていたのです。

「主体的に行動しろ」に含まれるジレンマ

ベイトソンさんは、こうした二重に拘束するパターンのコミュニケーションが積み重なることで統合失調症が生じる、という仮説を提起しました。二重拘束は注目を集め、新しいコミュニケーションのとらえ方を普及させるきっかけになりました。ただし、二重拘束と統合失調症との因果関係については、賛否両論があり、厳密には検証されていません。

二重拘束のパターンは、統合失調症だけに見られるわけではありません。身近な例をひとつあげておきましょう。上司が部下に、「いちいち指示されなくても、主体的に行動しろ」とことあるたびに指示します。部下は、行動すると上司の指示に従うので主体的ではないことになり、行動しないと上司の指示に従わないことになってしまいます。主体性を求めながら、かえって主体性を削(そ)ぐことになってしまいかねないので、こうした発言には注意が必要です。

ベイトソンさんのとらえ方をきっかけに、家族の抱える問題は、「患者」として特定された個人に起因するのではなく、人と人とのコミュニケーションのパターンによって生じている、ととらえて解決を援助するファミリーセラピー(家族療法)が生まれました。そこからさらに、人と人とのコミュニケーションの新しいやり方をすすめるオープンダイアローグへとつながっていったのです。

鈴木 隆

カテゴリ:スキルUP
【著者紹介】鈴木 隆(すずき・たかし)
東京大学法学部卒業後、大阪ガス入社。国際大学大学院国際関係学研究科修了。2001年、社内起業により国内初の本格的な住宅リフォーム仲介サイト「ホームプロ」を立ち上げる。現在、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員。

【書籍紹介】『仕事に効くオープンダイアローグ 世界の先端企業が実践する「対話」の新常識』(KADOKAWA)

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