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対話=生きること。「意見の不一致」が組織を強くする/オープンダイアローグ⑥

『対話』こそが組織課題の「根本解決」につながる! 大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員である鈴木隆著『仕事に効くオープンダイアローグ 世界の先端企業が実践する「対話」の新常識』から、最新の精神療法にもとづく、シンプルで強力なコミュニケーションについてご紹介します(最終回)。

根本にあるダイアローグの思想

ダイアローグの思想の生みの親であるミハイル・ミハイロヴィチ・バフチンさんはロシア(旧ソビエト連邦)で生まれ、ドストエフスキーさんをはじめとした文学を研究した文学者であり、思想家です。20世紀のもっとも偉大な文学理論家のひとりと言われています。

バフチンさんは、32歳のとき、反革命的な団体に加わったとの濡れ衣を着せられて逮捕され、5年間の僻地(へきち)への流刑処分となります。それからは、長く在野で研究を続ける日陰の身でした。67歳にして、逮捕直後に初版が出版されたものの学界では黙殺され、闇に消えていた『ドストエフスキー論』の改訂増補版を出版することができ、ようやく日の目を見ます。71歳で冤罪(えんざい)であったことが認められ、名誉を回復します。79歳で亡くなってからは、ソ連の崩壊もあり、欧米でも高く評価されるようになりました。文学理論の枠を超えて、人文科学や社会科学に大きな影響を与え続けています。オープンダイアローグも、実践を理論づけるにあたって、バフチンさんの思想を全面的に取り入れています。

バフチンさんが一貫して主張の根幹に据えていたのが、「ダイアローグの思想(dialogism)」です。対話原理あるいは対話主義とも訳されます。このダイアローグの思想が、オープンダイアローグの理論的な支柱となっているのです。どのような思想なのか、大筋だけに絞って押さえておきましょう。難解と言われる思想ですが、知りうる限り日本でいちばんやさしく嚙みくだいて見ていきます。

対話によって自分が存在する

そもそも唯一の存在である自己も、他者なくして存在できません。わたしたちは、自己を他者の目で見つめ、評価することで、日々生活をしています。他者を通じて意味づけられることで、自己が生みだされているのです。自己が存在するということは、他者と対話的に交流することなのです。

対話というのは、話し手による発話とその聞き手による理解と応答を交換することです。応答は賛成するか反対するかをことばにして返すこともあれば、黙って態度で示すこともあります。対話は、外の他者とのあいだでしか行われない、というわけではありません。内なる自己とのあいだでも行われます(内的対話)。また、書かれたことばであるテキストは、話し手である作者と聞き手である読者との対話を文字にして表されたものです。テキストによって、あらゆる他者と向き合って内的に対話することができます。

生きるということは、このような対話に参加することであり、尋ね、耳を傾け、答え、同意したりすることなのです。人は生きている限り対話を続け、対話が終わるときにはすべてが終わるのです。他者との対話を続けてゆく生成の過程においてのみ、意味ある自己であり続けられるのです。

意見の不一致が対話を豊かにする

こうした対話の思想の柱となるのが、「ポリフォニー(多声性)」です。複数の対話が対等に並存し、融合することなく、自由でありながら、ひとつのまとまりを持っている状態のことをいいます。さきに第1章で見た「対話実践のガイドライン」にも、ポリフォニーが盛り込まれていたことに気がついたでしょうか。

ポリフォニーというのは、もともとは複数の独立したパート(声部)からなる多声音楽のことです。それぞれの声部が、メロディー(旋律)の流れを主張しながら、対等の立場で絡み合っていく音楽です。バロック音楽を代表するヨハン・セバスチャン・バッハさんの2声と3声のインベンションとシンフォニアや4声のフーガ ト短調、通称小フーガが、ポリフォニーの典型です。一方、ローマ・カトリック教会の典礼音楽であるローマ聖歌、通称グレゴリオ聖歌のように、ただひとつの声部、旋律しかない単音楽が「モノフォニー」です。実は、グレゴリオ聖歌に対となる旋律をつけ加えて歌うという発想から生まれたのが、ポリフォニーです。

バフチンさんは、複数の対話が融合してしまうことなく、対等に並存しながらもひとつのまとまりを持っている状態のたとえとして、音楽用語のポリフォニーから借用したのです。対話におけるポリフォニーは、多声音楽ではなく、多声性と訳されるのが一般的ですが、たんに複数の声があればよいという意味ではないことに注意が必要です。たとえば、上司が支配し対等でも自由でもない会議は、ポリフォニーではなくモノフォニーです。

他者と対話できるためには、他者との意見や見解の不一致がなければなりません。そうした違いが各人の声の多様性を生みだし、ポリフォニーを成り立たせているのです。対話する者のあいだでは、究極的な答えの一致をめざすことはありません。完全に答えが一致したときには、対話は終わり、いわば死を迎えます。対話は、おたがいの違いを認め合い、ときとして闘い合い、つねに逆転の可能性を秘めたものです。こうした他者との対話が、対話する者をどちらも変えながら、両者のあいだに新しい意味をつくりだし、豊かにしていくのです。

鈴木 隆

カテゴリ:スキルUP
【著者紹介】鈴木 隆(すずき・たかし)
東京大学法学部卒業後、大阪ガス入社。国際大学大学院国際関係学研究科修了。2001年、社内起業により国内初の本格的な住宅リフォーム仲介サイト「ホームプロ」を立ち上げる。現在、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員。

【書籍紹介】『仕事に効くオープンダイアローグ 世界の先端企業が実践する「対話」の新常識』(KADOKAWA)

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