スキルUP

1回なんと250万円!「ファーストクラス」を利用するのは、どんな乗客?/ドラッカーと生産性①

管理会計のプロ・林總著『ドラッカーと生産性の話をしよう』より、「生産性」が持つ“真の意味”をストーリー形式で解説します。物語の舞台は、成田発ニューヨーク便のファーストクラス。CAのケイコが尊敬する“西園寺先生”と乗り合わせた乗客とは……?(第1回)

重鎮、再び

「あっ、西園寺先生」

その便のフライト前のミーティングルームで、キャビンアテンダント(CA)の加藤ケイコは、ファーストクラスの搭乗者名簿を見て、思わず声を上げた。

最初に目に飛び込んできたのが、常連客の西園寺周作だったからだ。

ケイコが聞いた話では、ノーマル料金でファーストクラスを使う客は、世界中で1万人もいないという。それほど少ないのに、ケイコは不思議なことに同じフライトで西園寺と何度も遭遇している。

しかも、そのたびに忘れがたい出来事が起きるのだった。なかでも西園寺が、経営していたイタリアンレストランを手離す寸前だった経営者と語らったロサンゼルス行きのフライトと、途中の若い医師と語らったロンドン行きのフライトでサービスしたことは忘れられない。

ケイコは、ワクワクしてきた。


名簿によれば、乗客は西園寺以外に3人だった。

1人は安田正信。35歳の青年実業家だ。いま、飛ぶ鳥を落とす勢いのファッション会社「ピスコ」の創業社長である。自ら広告塔となり、ファッション雑誌でモデルを演じることもある、いわゆる〝イケメン〟だ。

ピスコの服は、ビジネス街で颯爽(さっそう)と働く女性たちに支持されている。ケイコ自身は、これまで身に着けたことはないが、そのセンスとスマートさを認めないわけにはいかない。最近では、ビジネスの領域を服飾だけでなく、飲食と雑貨にも広げている。

次の客は大須賀史郎。仕事欄には会社役員と書かれているだけで、会社名はわからない。年齢45歳。ノーマル料金での搭乗であった。

◇ ◆ ◇

最後の客の欄に目を通したとき、ケイコの表情がかすかに変わった。

客の名前は滝口マヤ。23歳のOLだ。

エコノミークラス、しかも割引航空券から運よくアップグレードでファーストクラスに乗ることができた人物であることが、名簿の注記欄に記されていた。お客様に変わりはないとはいえ、やはり意識してしまう。

ケイコはこれまでの経験から、アップグレードでファーストクラスの席に着く客は、2つのグループに分かれると思っている。極度の緊張感でひと言も話さない人、そして、周りにアップグレードを悟られたくないためか、妙に気負って不自然に振る舞う人だ。

(この方はどちらだろう)

と、ケイコは思った。

ニューヨークまでの飛行時間は約13時間。チーフパーサーとして、もっとも優雅で、もっとも気難しく、そしてもっとも神経を使うファーストクラスの客たちとの戦いが始まろうとしている。

(お客様にも、私にも、思い出に残るフライトになりますように)

ケイコは気を引き締めて、出発ゲートへ向かった。

成田発ニューヨーク便、ファーストクラスにて

「『キュヴェ・デ・ザムルー』をもらえないか」

見事なまでにスーツを着こなしたその男は、席に着くとすかさずシャンペンを注文した。

まだ離陸の準備で忙しい最中であるが、ケイコは笑みを浮かべて「さすが安田様。かしこまりました」と丁寧に答えた。何を隠そう、「キュヴェ・デ・ザムルー」とは、「愛し合うカップルのためのキュヴェ」という意味なのだ。

しばらくして、リーデルのシャンペングラスが、男の目の前のテーブルに置かれた。

ケイコはボトルのエチケットに描かれたハートのロゴをその男に見せると、金色の液体を優雅にグラスへ注いだ。男は、細かな泡がグラスの底から湧き上がるのを見ながら、満足げにグラスの脚を右手の指でつかみ、口元に近づけた。そして目を閉じて、液体を口に流し込み、味わってからこう告げた。

「味も香りも申し分ない」

「ありがとうございます」

ケイコがそう言って、その場から立ち去ろうとしたときだった。

中折れ帽をかぶった小太りの男が姿を現し、のっしのっしと歩いてきて、一番奥の安田と通路を挟んだとなりの席に腰を下ろした。

男は慣れた手つきで帽子とジャケットをケイコに渡す。

「やあ、ケイコさん、今回もよろしく頼むよ」

男は親しげに言った。

「西園寺様。今回も先生とご一緒できて、光栄です」

ケイコは、はちきれんばかりの笑みを浮かべた。

すると、西園寺はとなりの席のシャンペングラスに目配せして言った。

「僕もあれを1杯欲しいのだが」

「キュヴェ・デ・ザムルーでございますね」

「味もいいが、僕はあのエチケットが好きでね」

西園寺は子供のような目をして言った。

「かしこまりました」

ケイコは足早にその場をあとにした。


一方、そんなケイコと西園寺のやりとりを安田は不愉快そうに聞いていた。

それはある種の対抗心でもあり、嫉妬でもあった。

あのキャビンアテンダントの態度は、どう見ても仕事の範囲を超えているんじゃないか。彼女はあの老人と面識があるようだが、俺はノーマル料金でファーストクラスを利用しているのだ。

それも一度や二度ではない。アメリカとヨーロッパに出張する際、毎月一度は利用している。1回250万円として3000万円もの大金を、1年間でこの航空会社に使っているのだ。こんな差を見せつけるような扱いを俺が受けていいはずがない。

やがて、安田はこの老人の素性が知りたくなった。

どこかの会社の会長か、大病院の理事長。あるいは、成功した弁護士か。

あれこれ詮索するよりここは直接聞くしかない。安田は左どなりの通路に身を乗り出して、西園寺に話しかけた。

(第2回に続く)

林 總

カテゴリ:スキルUP
【著者紹介】林 總(はやし・あつむ)
公認会計士、税理士、明治大学大学院特任教授(管理会計)。外資系会計事務所、監査法人勤務を経て独立。現在、経営コンサルティング、会計システムの設計・導入指導、講演活動を行っている。ベストセラー『ドラッカーと会計の話をしよう』(KADOKAWA)ほか著書多数。

【書籍紹介】『ドラッカーと生産性の話をしよう』(KADOKAWA)

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