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見慣れたものは印象が強くなる!影響を受けやすい脳の癖を知ろう/ヤバいマーケティング②

人間の意思決定システムや、本能・特性を利用し、消費者を翻弄する最先端のマーケティング手法とは……? 資本主義社会に生きるあらゆる人が知っておくべき、“悪用禁止”のマーケティング論を、阿部誠著『東大教授が教えるヤバいマーケティング』よりご紹介いたします(第2回)。

認知心理学や行動経済学で研究されているヒューリスティックは、おもに「利用可能性」「代表性」「固着性」の三つに分類されます。

a≫利用可能性ヒューリスティック

このヒューリスティックは、想起が容易な、つまり「利用可能」な事例は発生しやすい、頻度が高いと判断してしまう意思決定プロセスです。

スタンフォード大学のトベルスキーと2002年にノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のカーネマンが、1974年に行った実験を紹介しましょう。


被験者を二つのグループに分けて、同じ人数の名前が載っているリストを読ませました。1番目のグループが読んだリストには、男性の名前の方が多く含まれていましたが、女性の名前の方が知名度の点では高くなっています。反対に2番目のグループが読んだリストには、女性の名前の方が多く含まれていましたが、男性の名前の方が知名度の点では高くなっています。

リストを読んだあとに、どちらの性別の名前の方がより多かったかを聞くと、どちらのグループの被験者も知名度の高い名前を含んでいた(しかし数としては少ない)性別と答えました。つまり馴染みがある名前が印象付けられて、数まで多いと判断してしまったのです。


「インパクトが強い」

「最近知った」

「頻繁に接する」

「個人的に経験した」

「具体性がある」


このような事例は、記憶に深く残って思い出しやすいため、想起が容易になります。利用可能性ヒューリスティックを一言で表現すると“馴染みのあるものは頻度が高い”でしょう。

ブランドロゴやシンボル、ブランド名の連呼、CMのジングルや音楽、有名タレントの起用など、多くの広告は、利用可能性ヒューリスティックの効果を狙ったものです。想起の容易性を高めることによって、広告がより頻繁に放映されている印象を与えたり、タレントの人気が商品の人気であると錯覚させ、実際以上に売れている印象を与えることができます。

b≫代表性ヒューリスティック

ある事象がどのカテゴリーに属しているかを、統計的な確率ではなく、その事象がカテゴリーの代表的、典型的特徴に類似しているかで直観的に判断することを、代表性ヒューリスティックと呼びます。先の事例と同様に、トベルスキーとカーネマンが行った有名な実験を紹介します。


「リンダは31歳の独身女性。社交的でたいへん聡明です。専攻は哲学でした。学生時代には、差別や社会正義の問題に強い関心を持っていました。また、反核運動に参加したこともあります。リンダの現在の姿を予想して、そうである可能性が高い順に以下の八つをランク付けしてください」


結果は、アメリカの主要大学に通う85~90%の学生が、8番目に提示された「銀行員でフェミニスト運動の活動家でもある」の方を、6番目に提示された「銀行員である」より高くランク付けしたのです。

銀行員である可能性と、銀行員であり、かつフェミニスト運動の活動家である確率を比べたら、銀行員である可能性の方が高いので、確率的には間違っています。

しかしリンダの人物描写を考えると、人権問題やフェミニズムに関心のある、学生運動が盛んなカリフォルニア大学バークリー校(2人の研究者が一時、在籍していました)の典型的な学生、というイメージが沸き上がってきて、このような結果になったのでしょう。

つまり「もっともらしい」ストーリーが被験者たちの頭の中で構築され、無意識に「起こりやすさ(確率)」で置き換えられたのです。


代表性ヒューリスティックを一言でいうと、“あるカテゴリーの典型例が全体を代表している”になります。

代表性ヒューリスティックは、基準比率やサンプルサイズの無視、確率の誤認知、平均への回帰など、さまざまなタイプの間違い(バイアス)を生み出します。これらはすべて、人間が確率や統計の概念を理解することが苦手で、経験的に解釈してしまうことに起因しています。

c≫固着性ヒューリスティック

まずはカーネマンが行った実験を見てみましょう。


被験者には0から100までの数字が書かれたルーレットを回してもらいます。実はこのルーレットは必ず10か65に止まる仕掛けになっています。止まった数値を見たあとで、次の質問に答えてもらいました。


問1 国連でアフリカ諸国が占める割合は、いま見た数字よりも大きいか小さいか?

問2 国連でアフリカ諸国が占める割合は何%か?


このとき、ルーレットで「10」という数字が出た被験者らが、問2に対し、国連でアフリカ諸国が占める割合は平均して25%だと回答したのに対して、「65」が出た被験者らの回答は平均して45%でした。つまり、ルーレットの値に引きずられているのです。

他の研究者が行った同様の実験でも、質問を聞く前に自身の電話番号の下2桁を答えさせると、答えがその数値に影響されることが確認されています。


このように、提示された数値や情報が頭の中で基準点(「10」か「65」)となって、そこから十分な調整ができずに、判断に影響を受けてしまうことを、固着性ヒューリスティックといいます。

最初の印象が船の錨(いかり)(アンカー)のように心の中に留まって、多少の波(新たな情報)が来ても少しずつしか動かない状態に似ているため、アンカリング効果とも呼ばれます。

その中でも、時間的に先行する刺激(アンカー)によって、その後の判断が無意識のうちに影響されてしまうことを、プライミング効果といいます。国連でアフリカ諸国が占める割合を答えさせる実験では、ルーレットの値がプライミングでした。


マーケティングにおけるアンカリング効果の代表例としては、商品に記載されているメーカー希望小売価格や参考価格が挙げられます。これらはアンカーとなって、実売価格を安く感じさせる効果があります。

また、フリーマーケットや屋台の価格交渉では、最初に法外な価格をふっかけてくることがありますが、これはプライミング効果を狙ったものです。

阿部 誠

カテゴリ:スキルUP
【著者紹介】阿部 誠(あべ・まこと)
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。1998年東京大学大学院経済学研究科助教授を経て、2004年から現職。ノーベル経済学賞受賞者との共著も含めて、マーケティング学術雑誌に英文、和文の論文を多数掲載。おもな著書に『大学4年間のマーケティングが10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)などがある。

【書籍紹介】『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA)

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