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寿司屋で「梅」より「竹」を売るための5つの方法/ヤバいマーケティング⑥

人間の意思決定システムや、本能・特性を利用し、消費者を翻弄する最先端のマーケティング手法とは……? 資本主義社会に生きるあらゆる人が知っておくべき、“悪用禁止”のマーケティング論を、阿部誠著『東大教授が教えるヤバいマーケティング』よりご紹介いたします(第6回)。

ある寿司屋では2種類の盛り合わせ――高価格・高品質の「竹」と、低価格・低品質の「梅」を提供していて、現状、これらの注文は半々です。

売上アップのために店主は「梅」より「竹」の注文を増やしたいのですが、どのようなおとり商品を提供するべきでしょうか?

ここでは、二つの対策が考えられます。

a≫「竹プラス」を出す(妥協効果)

「竹プラス」は「竹」と中身(品質)は同じですが、食器を高級にしたり「期間限定」と銘打ったりすることによって、より高価になっています。

図1は、価格軸と品質軸のマップ上に3種類の盛り合わせをプロットしたものです。「竹プラス」はかしこい消費者には選ばれないため、無関係な選択肢、つまりおとり商品となります。

「竹」の「梅」に対する弱みは高価格なことですが、「竹」と同品質でさらに弱みの大きい「竹プラス」が存在することで、「竹」の弱みが和らぐ効果があります。

劣った属性(価格)の範囲を広げることによって、それほど悪くないと感じさせることから、妥協効果あるいはレンジ効果と呼ばれます。


b≫「梅プラス」を出す(魅力効果)

「梅プラス」は「梅」と中身(品質)は同じですが、食器を高級にしたり「期間限定」と銘打ったりすることによって、「竹」と同じ価格になっています。

図2は、価格軸と品質軸のマップ上に3種類の盛り合わせをプロットしたものです。「梅プラス」はかしこい消費者には選ばれないため、無関係な選択肢、つまりおとり商品となります。

「竹」の「梅」に対する強みは高品質なことですが、「竹」と同価格なのに品質が低い「梅プラス」が存在することで、「竹」の強みが引き立つ効果があります。

優った属性(品質)に関して、より劣ったおとりが加わることで、一層魅力的に感じることから、魅力効果あるいはフリークエンシー効果と呼ばれます。


c≫妥協効果<魅力効果

「梅」に対する「竹」の選好を増加する妥協効果と魅力効果ですが、どちらの効果がより強いでしょうか?

一般に、人は利得増加よりも損失回避を重視します。「梅」に対する「竹」の弱みは損失、「梅」に対する「竹」の強みは利得と解釈できるため、弱み(高価格)を和らげる妥協効果は強み(高品質)を増強させる魅力効果より強くなります。

d≫妥協効果+魅力効果

妥協効果と魅力効果の相乗効果を狙って、図3のような「竹」より高価格かつ低品質なあからさまなおとり商品を販売したら、「梅」に対する「竹」の販売比率をもっと増やせるのではと考える読者もいるのではないでしょうか?

実は、両方の属性(品質と価格)の値を同時に操作したおとり商品だと、人は品質の違いと価格の違いとをトレードオフにかけて、頭の中でさまざまな計算をするため、妥協効果や魅力効果が弱まってしまいます。

どちらか片方の属性値のみを変えることによって、商品間の優劣がより明確となり、妥協効果あるいは魅力効果が強く出ることが実験で確認されています。

「やっぱり普通が無難で安心」の心理――極端の回避効果

「梅」に対する「竹」の相対的な売上を変える方法として、文脈効果に関連して、おとり商品によるもう一つの対策があります。

それは、超高品質、超高価格な「松」を提供することです。

人間は極端を回避したがるため、選択肢が三つあると真ん中を選ぶ傾向があります。つまり、「松」は贅沢すぎるけれど「梅」だとさびしいから無難な「竹」にしておこう、という考えです。

おとり商品ということで「松」を注文する人はほとんどいなくても、「梅」に対する「竹」の注文が増えるのです。


極端の回避効果を狙う売り手は、バージョンを二つではなく三つ以上つくり、売りたいものを真ん中に持ってくるべきです。かしこい消費者は、安易に極端なバージョンを避けるのではなく、極端が自身の好みにマッチするか熟慮するべきでしょう。

もしかしたら、売り手があまり勧めたくない極端なバージョン、特に「梅」にお買い得感があるかもしれません。

阿部 誠

カテゴリ:スキルUP
【著者紹介】阿部 誠(あべ・まこと)
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。1998年東京大学大学院経済学研究科助教授を経て、2004年から現職。ノーベル経済学賞受賞者との共著も含めて、マーケティング学術雑誌に英文、和文の論文を多数掲載。おもな著書に『大学4年間のマーケティングが10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)などがある。

【書籍紹介】『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA)

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