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故障した3歳馬が紡いだ縁。ユーリコ・ダシルヴァが賞金を寄付する理由/泣ける競馬⑥

誰も書かなかった“ホースマン”たちの感動秘話! 競馬のすべてを取材してきた平松さとし氏の著書『泣ける競馬』より、騎手、調教師、馬主などなど……競馬に深く関わるホースマンたちの感動エピソードをご紹介します(第6回)。

カナダのリーディングジョッキーが、賞金の一部を寄附する理由

2017年のワールドオールスタージョッキーズ(以下、WASJ)を優勝したユーリコ・ダシルヴァ騎手。奥様と2人の子供の4人で、カナダで暮らすダシルヴァだが、もともとはブラジル、サンパウロにあるブリという街で生まれた。

「人口2万人という街で、僕の家は決して裕福ではなかったからテレビもなかったんだ。だから、テレビを観るために叔父さんの家まで行っていたんだ」

叔父は牛を飼う牧場をしていた。そこでダシルヴァ少年はポニーに乗って牛を追い、カウボーイのようなことをしていた。そんなある日、テレビに映った競馬を初めて観た。

「ポニーに乗るのは楽しかったし、競馬を観たとき、すぐに『ジョッキーになりたい』って思ったね」

同期で唯一70勝を達成

まずはクオーターホースのレースに乗るため12歳で家を出た。16歳になるとサンパウロにある競馬学校を受験。70人中、合格はわずか6人という狭き門を突破した。

かの地のシステムは、生徒として動画を見たり、授業を受けながら厩舎(きゅうしゃ)作業をし、同時に見習い減量騎手として実戦にも参加するというものだった。

「4キロ減でスタートし、勝ち数に応じて減量がなくなっていきます。最終的に70勝で減量がなくなり、正式に騎手デビューできるのですが、僕の同期で70勝に達したのは結局、僕1人でした」

しかもそれをわずか11カ月でクリアしてみせた。

ところが、減量がなくなると騎乗依頼が激減。乗り鞍が減ったことで当然、勝ち鞍も思うように伸びなくなった。そんなとき、ある馬の騎乗依頼が舞い込んだ。

「気性難でベテラン騎手が乗りたがらない馬でした。でも、自分はチャンスが欲しかったから『どんな馬でも乗ってみせます』と言って乗ったんです」

フランスボーストというその馬とのコンビで勝ち上がると、ブラジルのダービーに挑むまで出世。

「結果、ダービーを勝つことができました」

これによりブラジルでの地位を不動のものにしたが、彼はさらなる飛躍を求めた。

故障した3歳馬が紡いだ縁

主戦場をマカオへ移動。さらに2004年には名騎手の集うアメリカ・東海岸へ移籍しようと考えた。

「ニューヨークで乗ろうと思い、向かう途中で寄ったカナダで衝撃的な出合いがありました」

トロントにあるウッドバイン競馬場へ寄ると、「その美しさに魅了された」のだ。

そこでカナダに移住。ウッドバインを主戦場として乗り出した。

「しばらくして、テコンドーのトレーニングを取り入れるようにすると、集中力が増して勝ち星も増えていきました」

08年には年間100勝を突破すると、翌09年はダービーにあたるクイーンズプレートを勝利。さらに翌10年はクイーンズプレート連覇など190勝を挙げてリーディングを獲得。以降、毎年リーディング争いを演じ、時には200勝オーバーでその座を獲得するまでになった。

こうした活躍が認められ、17年のWASJにカナダ代表として選出された。すると、最終第4戦で見事にJRA初勝利を決めると共に、同シリーズの総合優勝も飾ってみせた。

「日本の皆さんはとても親切だし、食事も美味しくて、ここに来られただけでもハッピー。しかも、僕のヒーローであるユタカタケに勝って優勝できた。こんな嬉しいことはないね!」

そして、「優勝賞金の一部は引退した馬の余生のために寄附します」と語った。

そこで、そのような活動はいつからしているのか? と問うと、ある素敵なエピソードを教えてくれた。

「以前、自分の騎乗していた3歳馬が、故障して、馬主からは『予後不良で仕方ない』と言われました。でも、若い馬だから競走馬としての復帰は無理でも、命は助けてあげられないか? と言うと、1人の獣医師が立ち上がってくれたんです」

その獣医師が手術した結果、若駒は一命をとりとめた。

それから5年後、ダシルヴァはある女性に声をかけられたという。

「『私が誰だか知っている?』と言われたけど、知らない人だったから『分からない』って答えたんだ。そうしたら、彼女はこう言ったんだ。『あのときの3歳馬を手術した獣医が私よ』って……」

獣医師はオーラという名の女性だった。

「彼女とは、いまでも一緒にあのときの3歳馬を訪ねて牧場に行っているんだ」

そう語るダシルヴァに、その女性獣医師とはいまでも親交があるのですね? と改めて聞くと、彼は答えた。

「もちろんさ。だって、彼女と僕の間には2人の子供がいるからね」

そう、当時の女性獣医師こそ、現在のダシルヴァの奥様なのであった。

「僕たちは馬のおかげで素晴らしい人生を送れています。だから人を愛するように馬を愛するのは当然のこと」

賞金の一部を引退馬に寄附する理由を彼は笑顔でそう語ってみせた。



平松 さとし

カテゴリ:スキルUP

【著者紹介】平松 さとし(ひらまつ・さとし)
日本大学農獣医学部中退後、専門紙「ケイシュウNEWS」でトラックマンからフリーに。92年ドクターデヴィアスの勝った英国ダービーが海外初G1生観戦。以降、日本馬の遠征を中心に海外取材を行なう。武豊騎手をはじめ、競馬関係者の信頼も厚い。『クリストフ・ルメール 挑戦』(KADOKAWA)など著書多数。

【書籍紹介】『泣ける競馬』(KADOKAWA)

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