スキルUP

トップ交代こそ好機! 権力奪取は古株を味方に/世渡りの日本史(3)

彼らは誰を謀ったのか、何に謀られたのか……? 東大教授にして史料編纂のプロ・本郷和人氏の著書『世渡りの日本史 苛烈なビジネスシーンでこそ役立つ「生き残り」戦略』より、日本史の闇に隠れた“権謀の歴史”からビジネスのヒントを読み解きます(第3回)。

【前回のあらすじ】
頼朝にとって北条家が重要な家であるとともに、もっと大事な家が埼玉の比企(ひき)家でした。頼朝の乳母の一人だった比企家の比企尼は、頼朝が流罪にあったときには頼朝に必死に援助をしました。その後、比企家の娘たちも頼朝と縁続きに。比企家が頼朝の信頼を得て粛々と源氏に入り込んでいく中、北条家はどのように力を持つことができたのでしょうか……?

将軍の〝決裁権〟を奪う「十三人の合議制」

そうこうするうちに、時の権力者、頼朝は落馬によって亡くなります。脳溢血とかだったのでしょう。

さあ、ここから時政・義時が、北条家、ひいては自分の栄達のために、本格的に策略を練り始めることになります。

まずやったのは、頼朝の跡取りである頼家の発言力を削ぐこと。二代将軍である頼家は、どう考えても比企家の影響下にある人間です。頼家がすくすく成長して立派な将軍になってしまったら、比企家が外戚としての地位を独占して、北条氏としては手も足も出なくなってしまう。ですから、頼朝の死という北条家にとっての千載一遇のチャンスに、頼家には消えてもらったほうがいいわけです。

現代社会のビジネスシーンでも、企業の経営トップである社長の交代といったときに、外部から見れば「クーデター」と思うような権力抗争が起こることをニュースなどで見聞きしますが、それは鎌倉時代から、もっといえばその前の時代から全く変わっていません。

この「トップ交代」のタイミングこそが、それまで雌伏の時を過ごしていた日陰の陣営にとっての最大のチャンスです。

そのチャンスに日陰の陣営が取り入れたのが、「十三人の合議制」。頼家はまだ未成熟であるということを理由に、鎌倉幕府の有力メンバー13人に実質的な力を与え、将軍頼家の権限を奪ってしまったのです。

これは現在でも使える非常に効果的な方法です。それまでのルールを変えて自分たちに有利なルールを新たに作ってしまうことこそが、権力奪取の正解です。

この時、年齢的に見れば、確かに頼家は若いのですが、鎌倉時代にはそのくらいの年齢のリーダーは普通にいました。ですから、ここにはどう見ても幕府のオッサンたちの、「頼家に勝手なことをさせないぞ、オレたちの発言権を死守するぞ!」という明確な意図があるのです。

世襲というのは現代の企業でも多くあることですが、継いだ子が親の時代の社員たちとうまくいかないということはままあります。

創業以来世襲で続いているあるメーカーの幹部に話を聞いたことがあるのですが、現社長の息子は、他社で武者修行をして会社に入ってきたそうです。ビジネスセンスはあるのですが、優秀でプライドが高いので、古参の社員が彼についてこない。年上の部下とうまくやっていくためには、相手の懐に入るくらいの度量が必要なんですね。

話を戻して「十三人の合議制」です。じゃあ、そもそもこの合議制を言い出したのは誰なのか。

13人の顔ぶれを見渡してみると、親子でメンバーに加わっているのは北条時政・義時だけ。13票のうち、はじめから2票が固まっている状態です。誰の差し金かは推して知るべし、でしょう。

時政・義時としては、なんとしてでも頼家、そして比企家を潰さなくてはならない。いくら頼家の母親が北条政子だからといっても安心はできません。

当時の身分の高い女性は、子供を生んだら生みっぱなし。自分で育てることをせず、乳母が育てます。生みの親は政子でも、育ての親は乳母である比企尼の娘二人。頼家としては、生みの北条家よりも育ての比企家に親しみを感じるのはある意味、当然です。

だから、時政・義時父子は「比企家を倒そう!」と考えるわけですが、ハードルは高い。先述したとおり、北条家はもともと武士の家としては規模が小さい、今でいう中小企業です。正面から大企業である比企家に挑んだら、こっぱみじんです。

◇ ◇ ◇

後継者はいかに先代からの古株を味方につけられるかがカギ



本郷 和人

カテゴリ:スキルUP

【著者紹介】本郷 和人(ほんごう・かずと)
東京大学史料編纂所教授、博士(文学)。1960年、東京都生まれ。東京大学・同大学院で日本中世史を学ぶ。専攻は中世政治史と古文書学。著書に『戦国武将の明暗』(新潮社)、『日本史のツボ』(文藝春秋)、『東大教授がおしえるやばい日本史』(ダイヤモンド社)など多数。

【書籍紹介】『世渡りの日本史 苛烈なビジネスシーンでこそ役立つ「生き残り」戦略』(KADOKAWA)

あなたへのオススメ記事

  • 源平合戦における「扇の的射ち」で知られる那須与一は、その後どんな人生を送った?/日本史「その後」の謎クイズ
  • 信長を討ったはいいが……トップに立つ器ではなかった中間管理職 「明智光秀」/笑う日本史③
  • 後ろ盾選びで未来が決まる!頼朝に学ぶ陰謀術/世渡りの日本史(1)
  • 先読み力でリターンGET! 頼朝の乳母の先行投資術/世渡りの日本史(2)
  • 知っていたら自慢せずにはいられない! マニアックすぎる雑学クイズ

    知っていたら自慢せずにはいられない! マニアックすぎる雑学クイズ

  • 食通だったら全問正解!? 日本ならではの「食べもの」クイズ

    食通だったら全問正解!? 日本ならではの「食べもの」クイズ

  • その言い方、大丈夫? 上司&取引先への言葉遣いのマナー

    その言い方、大丈夫? 上司&取引先への言葉遣いのマナー

  • 知られざるエピソードにびっくり! ネーミングの秘密がわかるクイズ

    知られざるエピソードにびっくり! ネーミングの秘密がわかるクイズ

  • 喪服が黒なのはなぜ? 日本文化を深掘りするクイズ

    喪服が黒なのはなぜ? 日本文化を深掘りするクイズ

  • 観戦がもっと楽しくなる!? スポーツの英語雑学クイズ

    観戦がもっと楽しくなる!? スポーツの英語雑学クイズ

スキルUPの人気記事ランキング

  • 「ねこは液体」ってこういうこと…? 無抵抗無警戒すぎ!/黒猫ろんと暮らしたら(9)

  • 妻を絶望させる言葉「オレ疲れてるから」/話を聞きたがらない夫(1)

  • 「あ…」イケメン上司と青山さん、昼休みの“冒険”/うちの上司は見た目がいい(3)

  • 夫が妻をめんどくさがる意外な真相!?/話を聞きたがらない夫(2)

  • 今度の上司は高身長高学歴な28歳・独身・イケメン!!/うちの上司は見た目がいい(1)

{ カテゴリ別ランキングを見る }

資格・スクール情報

  • 中小企業診断士とは? 試験&仕事内容を解説

    中小企業診断士の仕事内容は? 養成課程って何? 中小企業診断士について知っておきたいことを詳しく解説します。

    中小企業診断士とは? 試験&仕事内容を解説
  • 行政書士とは? 試験&仕事内容を詳しく解説

    行政書士って何? どんな仕事をするの? 試験の難易度は? 行政書士に関する素朴な疑問を解決します。

    行政書士とは? 試験&仕事内容を詳しく解説
ページトップに戻る