スキルUP

徹底的なライバル排除で「いざ!」のタイミングをモノにした北条氏/世渡りの日本史(5)

彼らは誰を謀ったのか、何に謀られたのか……? 東大教授にして史料編纂のプロ・本郷和人氏の著書『世渡りの日本史 苛烈なビジネスシーンでこそ役立つ「生き残り」戦略』より、日本史の闇に隠れた“権謀の歴史”からビジネスのヒントを読み解きます(第5回)。

【前回のあらすじ】
時政・義時親子にとって邪魔だったのは、頼家の第一の郎党とみなされていた梶原景時(かじわらかげとき)。時政の娘である阿波局の耳打ちをきっかけに、結城朝光(ゆうきともみつ)により66人もの有力武士による「景時を排斥せよ」という弾劾状が作成されました。景時一行は逃げるように鎌倉を出て京都に向かうこととなり、その道中で皆殺しとなったのでした。

ライバルは徹底的に排除する

さあ、景時を失脚させた時政・義時親子が次にすること。いよいよ比企家を潰すときがきました。

大企業である比企家とまともに戦ったら勝ち目がないのはわかっているので、ずっと機が熟すのを待っていたのです。ようやく、その時です。

このころ、将軍頼家が病気になり高熱が続きました。もう命が危ないというところまで来たのです。

しかし、北条にとって頼家が死んだらオッケーということにはなりません。頼家が死んだら、後継ぎは当然、頼家の子供、一幡丸です。一幡丸は、頼家と比企の側の若狭局との間にできた子です。これでは元も子もありません。頼家が生きるの死ぬのといっている間に、比企を潰しておかなくてはなりません。

さあ、策士、時政がどのような手段を取ったのでしょうか?

当時の比企家の当主は比企能員。この人は、若狭局の父親。時政はなんとこの能員に「法事をやるから遊びに来てよ」と誘います。

政敵であるのにそんな馬鹿なと思いますが、能員は「わかった」と言って、北条の名越の屋敷にノコノコ出かけていったのです。

さらに、そのときの能員の様子を見ていた小代(しょうだい)というちっぽけな御家人が、『小代文書』に書いているのですが、能員はまったく警戒していなかったそうなのです。武士なのに、普段着のままで家来も連れずに北条を訪ねていったのです。

仮に比企能員がマヌケだったとしても、一応政治抗争の真っただ中にいる北条を訪ねるのに、無警戒で行くわけがないんです。それを能員は平気で行ってしまったのはなぜか。

これはあくまでも想像ですが、可能性として考えられるのは、北条が徹底的に比企を油断させるために、日頃からよっぽどぺこぺこしてたってことでしょう。まるで舎弟のように、比企を立てまくってたのだと私は思います。

そうして能員は北条邸にやってきました。北条は、少ない家臣を準備万端整えさせています。

能員が北条邸について、門を入ろうとしたとき、そこにいた家臣二人に能員が「おう!」と挨拶をしたかしないかくらいの瞬間、家臣の二人、天野遠景と仁田忠常が能員に組みついて暗殺しました。

と同時に、比企邸に襲撃をかけます。比企邸では当主が留守ですし、そもそも当主がまったく警戒していないくらいなので、何の準備もしていません。

そこに万全の武装をした北条勢が飛び込んで殺戮三昧。もう、驚くことに、女子供も関係ありません。能員の奥さんや若狭局、若狭局が生んだ一幡丸も殺されます。それもすべて時政が指示しているに違いありません。

さらに時政がえげつないのは、能員を暗殺した二人のうちの仁田忠常を、どさくさにまぎれて口封じで殺してしまうところにあります。

この「チャンスのときは徹底的にやる」という姿勢は政治やビジネス、時代を問わず、常に有効なのです。

チャンスのときに手心を加えたが故に後で手痛い反撃に遭う、というのは世の習いです。この時代でもまさに平清盛による頼朝・義経といった源氏への手心のために、その平家は壇ノ浦の戦いで滅亡を余儀なくされているのです。

ちなみに、暗殺の実行犯を殺害してしまうというのは、北条のお家芸みたいなものになっていきます。例えば家来に「あいつを殺して来い」って命令すると、「はい、仰せの通り殺してきました」と言ってバンと首を置くわけです。すると、「いやあ、調べてみたら、じつはアイツは無実だった。お前は罪のない人を殺したから、はい死刑」と言って殺す。

これは口封じです。つまり、殺したい相手と、そいつを殺した人を同時に抹殺する。そうすれば、このことは一切外に漏れない。今みたいにSNSがあるわけではないので、当事者がいなくなればそれで終わり。

こんなこと、2回も3回もやったら、バレると思うでしょう。でも、北条家は同じことを、後々まで何度もやり続けます。その第1回目が、この哀れな仁田忠常です。

◇ ◇ ◇

「いざ!」というタイミングは決して逃さず、徹底的にやる

本郷 和人

カテゴリ:スキルUP
【著者紹介】本郷 和人(ほんごう・かずと)
東京大学史料編纂所教授、博士(文学)。1960年、東京都生まれ。東京大学・同大学院で日本中世史を学ぶ。専攻は中世政治史と古文書学。著書に『戦国武将の明暗』(新潮社)、『日本史のツボ』(文藝春秋)、『東大教授がおしえるやばい日本史』(ダイヤモンド社)など多数。

【書籍紹介】『世渡りの日本史 苛烈なビジネスシーンでこそ役立つ「生き残り」戦略』(KADOKAWA)

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