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地位も名誉も危機に晒す「後継者争い」は愚の骨頂/世渡りの日本史(7)

彼らは誰を謀ったのか、何に謀られたのか……? 東大教授にして史料編纂のプロ・本郷和人氏の著書「世渡りの日本史 苛烈なビジネスシーンでこそ役立つ「生き残り」戦略」より、日本史の闇に隠れた“権謀の歴史”からビジネスのヒントを読み解きます(第7回)。

【前回のあらすじ】
重病だった源頼家が想定外に元気になってしまうも、北条時政は頼家を静岡の修善寺に押し込め、最後は暗殺者を送り込こんで殺してしまいます。北条は自分たちの言いなりになる実朝を将軍にする、というところまでいきましたが、めでたし、めでたし……、となるはずはなく、今度は北条の内部抗争が起こってしまうのでした。

いつの時代も後妻の子は可愛い

ここまで二人三脚でがんばってきた親子の対決の火種になるのが、時政の「欲」です。それを語る上で欠かせないのは、時政とはどんな人物だったのかということ。時計の針を少し戻して説明しましょう。

時政というのは、非常に字がきれいな人でした。当時の武士たちは、地位が高くても字が書ける人は多くなかった。時政は、リテラシーの高い武士だったのです。

そして、時政が認められるようになった背景には、一つの大きな仕事を成し遂げたということがあります。

平家が滅亡したすぐ後の1185年に、後白河上皇が源義経に対して、「兄である頼朝を討て」と命令を出しました。これは後白河上皇の常套手段で、平家が京都にいるときは、木曽義仲に「平家を討て」と言い、木曽義仲が京都に入ってくると、頼朝に「木曽義仲を討て」というように、有力武士の対抗馬を立てて勢力を潰すのです。

義経に後白河上皇の命令がくだったとき、これはマズイと気づいた頼朝は、北条時政に1000騎の家来をつけて京都に乗り込ませました。時政は、「今回のことは、どういうつもりなんだ」と後白河上皇を恫喝(どうかつ)したわけです。

それにビビった後白河上皇は、「あれは間違いだ、義経に脅かされてつい命令を出してしまった。だから、今度は改めて『義経を討て』という命令を出し直すよ」と言いました。その腰の定まらないあたりが朝廷の特徴の一つではあるのですが……。

時政は、逃げる義経をつかまえる必要があるといって、朝廷に認めさせたのが、国(今で言う「県」)ごとに守護という役職を置くことと、各荘園に地頭を置くこと。これで鎌倉幕府の勢力が全国に広がり、1185年をもって鎌倉幕府の誕生とされているわけです(まだ1192年【いい国つくろう】で覚えているビジネスパーソンは要注意です。情報は常にアップデートしないと時代に取り残されますよ)。

これはまさに時政の政治的手腕によって成し遂げられたこと。もちろん、鎌倉にいる頼朝の指示ではあるのですが、これを京都で実現させたところに時政の非凡さがうかがえるのです。

頼朝が鎌倉幕府を開くと、その正妻は自分の娘である政子。時政は、将軍の岳父です。それに、京都でも大きな仕事をした。幕府の中で俄然注目を浴びる存在になりました。

そして、それからはこれまで見てきた通り、「十三人の合議制」を作り、ライバルを蹴落としてきたのです。

地位も名誉も将来も安泰。そうなると、人間は「欲」が出てきます。

時政は〝お姫様〟が欲しくなりました。「お姫様を嫁にしたい!」「きれいなお姉ちゃんが欲しい!」という時政は、オッサン丸出しです。

お姫様とは、貴族の娘のこと。時政は、娘の政子よりも若い娘を嫁にします。この娘は、牧の方という人。平清盛の父親である平忠盛の後妻さん、池禅尼の姪にあたります。

そして、この若い嫁が政範という男の子を生みます。牧の方に入れ込んでいる時政は、この政範を自分に後継者にしようと考えはじめます。

そこで「ちょっと待った─!」となるのが義時。それはそうでしょう、これまで父と組んで散々陰謀をめぐらせてがんばってきたのに後継ぎが政範では、とんびに油揚げをさらわれた気分です。ここでこれまで苦楽を共にした親子の溝が決定的に広がるのです。

後継者を曖昧にしたり、またコロコロ変えたりすると、決まってもめごとが起こります。組織の場合、それはただの家族喧嘩にとどまらず、イメージの失墜や競争力の低下につながります。

二十数年前、オートクチュールデザイナーの君島一郎が亡くなったあとの、長男と次男(君島十和子の夫)の骨肉の争いを覚えている人もいるかもしれません。結局、会社は次男が継ぎ、長男は別ブランドを作りましたが、両社とも父親が成したほどの会社には成長していないのが実情です。

そして、ここでまた時政の計算が狂いました。なんと、可愛い可愛い政範くんが、病気で亡くなってしまうのです。

牧の方は他に男の子を生んでいないし、じゃあどうしようかと考えた。思い出したのが、牧の方が生んだ女の子がいたのですが、その女の子の夫、つまり時政の娘婿にあたるのが平賀朝雅という武士。この平賀朝雅に目をつけたのです。

◇ ◇ ◇

「後継者争い」は愚の骨頂。どちらもダメージを負うことに!



本郷 和人

カテゴリ:スキルUP

【著者紹介】本郷 和人(ほんごう・かずと)
東京大学史料編纂所教授、博士(文学)。1960年、東京都生まれ。東京大学・同大学院で日本中世史を学ぶ。専攻は中世政治史と古文書学。著書に『戦国武将の明暗』(新潮社)、『日本史のツボ』(文藝春秋)、『東大教授がおしえるやばい日本史』(ダイヤモンド社)など多数。

【書籍紹介】『世渡りの日本史 苛烈なビジネスシーンでこそ役立つ「生き残り」戦略』(KADOKAWA)

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