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討死か回避か? 畠山重忠の死に学ぶ「時を待つ」という戦略/世渡りの日本史(9)

彼らは誰を謀ったのか、何に謀られたのか……? 東大教授にして史料編纂のプロ・本郷和人氏の著書「世渡りの日本史 苛烈なビジネスシーンでこそ役立つ「生き残り」戦略」より、日本史の闇に隠れた“権謀の歴史”からビジネスのヒントを読み解きます(第9回)。

【前回のあらすじ】
武蔵国を手に入れたい北条時政は、「武蔵守」の息子であり娘婿の平賀朝雅を自分の後継者に、と考えます。そして次に邪魔になったのが、武蔵国のトップ武士で娘婿の畠山重忠(はたけやましげただ)。時政の後妻である牧の方が、時政に「重忠はあなたに対して謀反を企んでいますよ」と言いだしたのを機に、時政は息子の義時に「重忠を殺して来い」と命令し、畠山重忠を討ちに行かせたのでした。

殺戮マシーン・時政の大暴走

義時は重忠を討つべく鎌倉で武士たちを集め、鎌倉から武蔵国に向かって進みます。

すると、重忠は重忠で、どうも鎌倉で兵を集めているらしいということを耳にして、まずは様子見と、150人くらいの兵をつれて鎌倉に向かいました。

鎌倉を出た義時たちと、武蔵から鎌倉に向かっている重忠たちがちょうどぶつかったのが、今の横浜・二俣川あたり。

やるか、と思った重忠に、第一の家来・本田近常という男が冷静に言います。

「殿、ここは一旦国に帰りましょう。我々は討たれるなんて想定していないので、軍備も不十分です。今戦ったら負けます。帰って支度を整えてから、戦いましょう」

でも、重忠は帰るのを拒みます。梶原景時のことを思い出してみろ、と。景時は本来鎌倉で死ぬべきだったのに、京都になんか逃げるから恥ずかしい最期を遂げたじゃないか。オレはそんなふうになりたくないから、帰らずに今ここで戦うぞ、と言うのです。

こうして結局義時軍と重忠軍で戦い、重忠は戦死します。

当時と今の時代の大きな価値観の違い、昔は何よりも武士らしく「潔く」が尊く考えられていたので仕方がないという釈明は可能ですが、重忠の判断は間違いと断言できます。

現代では「状況」というものは絶え間なく変化し続け、チャンスまたはピンチはあっという間にひっくり返ります。

外食産業などはより顕著で、つい昨日の新聞で「○○社が過去最高益を更新!」と掲載されていても、台風の影響で野菜の価格が高騰し……と一瞬で状況は変わってしまいます。

そう、今の時代は「時を待つ」ことも立派な戦略の一つです。

さて、非業の死を遂げた重忠ですが、重忠のことをよく知っている義時からすると、もし本当に重忠が謀反を起こそうとして鎌倉に向かっていたとしたら、150という兵は畠山としては少なすぎるということがわかっていた。だから、やっぱり自分が思った通り、重忠は謀反を起こす気なんてなかったんだと気づきます。

鎌倉に戻り、父親の時政に重忠の首を差し出して義時は言います。

「父上の命令に従い、重忠の首を取ってきましたが、やはり謀反を起こすなんてでたらめでした。昔からの友だちである重忠の首を見ると、涙が止まりません」

それを聞いた時政は、無言で立ち去りました。娘婿の重忠を息子に殺させても、心が動かないのが時政たるゆえんでしょう。

今までは、これで遣り過ごしてきた時政ですが、今度ばかりは風向きが違いました。殺した相手は「善玉」で知られる畠山重忠です。戦で疲れた馬をかついで急な坂をくだったという伝説があるほど、思いやり深い武士です。それに、明らかに重忠は無実です。

「ちょっと、今回の時政様はやりすぎたんじゃないの?」「無実の畠山さんを殺すなんて、ひどいよね」という話がぽつぽつ聞こえてきたのです。

さすがの時政も、厚顔無恥を通すわけにはいきません。「あ、やっぱマズかったかも」と思い始めます。そこで時政はどうしたかというと、「オレがやったんじゃない、オレは騙されたんだ!」と言い始めるのです。

今どき、子供でもそんなウソはつきませんが、それをやってのけるのが、陰謀の人、時政です。

じゃあ、誰に騙されたのかと言えば、「稲毛重成だ!」と言う。稲毛重成は、畠山重忠の従弟にあたる人で、これまた時政の娘婿なんです。そして、稲毛の弟が榛谷重朝(はんがやしげとも)。時政は、稲毛と榛谷の兄弟に騙されたんだと吹聴するのです。

しかし、なぜ時政が稲毛・榛谷兄弟に罪をなすりつけたか。ここにも武蔵国の利権がからんできます。

当時、武蔵国随一の武士団を「秩父党」と言いました。義時に殺された畠山重忠は、この秩父党の代表でした。先ほど、武蔵国のトップ武士と評したのは、そのためです。

重忠亡き後、その地位を継ぐのは稲毛重成。時政は、武蔵国を自分のものにしたくて重忠を消し、次のターゲットは稲毛・榛谷兄弟。自分を騙したからという理由で、この兄弟も殺します。もう、娘婿だろうがなんだろうが、どうだっていい。

オレは騙されたんだ、だからあいつら兄弟を殺したんだ、だから正しいんだと、時政は言います。殺戮マシーンと化した時政には、もう手がつけられません。

◇ ◇ ◇

「時を待つ」も戦略の一つと考える



本郷 和人

カテゴリ:スキルUP

【著者紹介】本郷 和人(ほんごう・かずと)
東京大学史料編纂所教授、博士(文学)。1960年、東京都生まれ。東京大学・同大学院で日本中世史を学ぶ。専攻は中世政治史と古文書学。著書に『戦国武将の明暗』(新潮社)、『日本史のツボ』(文藝春秋)、『東大教授がおしえるやばい日本史』(ダイヤモンド社)など多数。

【書籍紹介】『世渡りの日本史 苛烈なビジネスシーンでこそ役立つ「生き残り」戦略』(KADOKAWA)

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