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真の黒幕・義時に学べ! 朝廷軍を打ち破った北条家の勝ち抜き戦略/世渡りの日本史(11)

彼らは誰を謀ったのか、何に謀られたのか……? 東大教授にして史料編纂のプロ・本郷和人氏の著書「世渡りの日本史 苛烈なビジネスシーンでこそ役立つ「生き残り」戦略」より、日本史の闇に隠れた“権謀の歴史”からビジネスのヒントを読み解きます(最終回)。

【前回のあらすじ】
北条義時は父親の時政を失脚させるべく、三代将軍の実朝への謀反を企てたと噂を流し、時政を幽閉します。これで時政は、政治的には死んだも同然。そして義時は、幕府の政治をつかさどる「政所」の長官に就任して執権を名乗り、侍所の長官も兼務するなど、大きな権力を握って「北条初代」と言われるようになるのでした。

肖像画の一枚も残さない、まさに「黒幕」

北条家が執権として覇権を握ったら次にどうするか。いよいよ邪魔なのは将軍です。

将軍・実朝暗殺の実行犯は、頼家の息子である公暁(くぎょう)。これは明らかです。公暁は、鎌倉の鶴岡八幡宮のトップの僧侶。

このとき不思議なのは、将軍が殺されたというのに、幕府は誰が背後にいたかという詮索を一切していないのです。犯人は公暁です、はいそうですか、で終わり。これは普通ではありません。『吾妻鏡』を読んだ限りでは、幕府の幹部たちの中で「実朝はもういいか」という話が共有されていたんじゃないかと思います。

でも京都の朝廷では、後鳥羽上皇が、実朝を通じて幕府をコントロールするという方針だったんですね。そんなときに実朝が暗殺されてしまったので、「ええい、鎌倉幕府を倒せ!」という後鳥羽上皇の大号令で始まったのが、「承久の乱」(1221年)です。

承久の乱について少し説明すると、後鳥羽上皇が実際に発した指令は「北条義時を討て」でした。そのために、最近の研究者の中には、後鳥羽上皇には幕府を倒せという意思はなかった、義時を討てばいいということだったんだという意見があるんですが、これはちょっと浅いですね。

なぜなら、当時は「幕府」という概念はありませんでした。「幕府」という言葉が使われるようになったのは、極端にいうと明治になってからです。江戸時代だって、「幕府」とは呼ばずに「柳営(りゅうえい)」と呼んでいたのですから。だから、そもそも後鳥羽上皇が「幕府を倒せ」と言うわけがないのです。

では、鎌倉幕府とは何か。「幕府」という概念があるわけでもなく、立派な建物があるわけでもない。結局は、「源頼朝とその仲間たち」というのが実質ではないでしょうか。頼朝という偉大なリーダー亡き後、徹底的に殺し合いをして北条義時が生き残る。その時点で、鎌倉幕府は「北条義時とその仲間たち」になったのです。

朝廷の後鳥羽上皇は「北条義時を討て」と言いましたが、幕府の武士たちはその命令には従いませんでした。義時の元に集まって、見事に朝廷軍を打ち破ったのです。

有名なのは、御家人たちを前にして北条政子がした大演説。

政子は御家人たちに、今こそ頼朝様の「恩」に報いるときだと言っています。「御恩」と「奉公」は感情的なつながりではなく、今でいう「労働契約」です。「御恩」とは字から誤解されやすいのですが、上の者が下の者に与える利益のことであり、わかりやすく言えば「給料」や「肩書き」です。「奉公」は逆に下の者から上の者に与える利益のことで、この場合は「労働力」とでも言えばいいでしょうか。

このように関係が整理されていたから皆、気持ちを一つにして戦えたのでしょう。一方、「主従」関係が整理されていなかった朝廷は敗れてしまいました。賊軍が官軍に勝った、これが「承久の乱」です。

義時は、鎌倉幕府の基礎を固め、北条の繁栄も見届けて、最後は病気でこの世を去るのですが、不思議なことに義時は一枚の肖像画も像も残していません。

だから、後世の私たちは、義時がどんな顔をしていたかまったくわからないのです。まさに歴史の黒幕。

義時は、上司でもあった父・時政の動きを慎重に見極めていました。もちろん、忠実な息子(部下)として働きながら。そして、周りの評判も感じ取りながら「時政様はもうダメだ」という流れになったときに、父(上司)を攻め込んでいます。

歴史において下剋上はつきものですが、なんでもかんでもひっくり返せばいいというものではありません。

特にビジネスでは、その「後」を任されるのは自分ですから、下剋上にも大義名分が必要。その点で義時はとてもうまく立ちまわったと言えるでしょう。

鎌倉時代の初めのころは、ちょっとした失敗が失脚につながり、失脚は死を意味するとんでもなく過酷な時期ですが、その中で勝ち残った義時は、武力、知力を兼ね備えた稀有な武士だったのだと思います。

◇ ◇ ◇

なんでもかんでも「ひっくり返す」が正解ではない

本郷 和人

カテゴリ:スキルUP
【著者紹介】本郷 和人(ほんごう・かずと)
東京大学史料編纂所教授、博士(文学)。1960年、東京都生まれ。東京大学・同大学院で日本中世史を学ぶ。専攻は中世政治史と古文書学。著書に『戦国武将の明暗』(新潮社)、『日本史のツボ』(文藝春秋)、『東大教授がおしえるやばい日本史』(ダイヤモンド社)など多数。

【書籍紹介】『世渡りの日本史 苛烈なビジネスシーンでこそ役立つ「生き残り」戦略』(KADOKAWA)

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