スキルUP

思考力を鍛える20代、社会探求の30代。大人の推薦図書6選/本の使い方(4)

本を読むときは、1行たりとも読み飛ばしてはいけない。稀代の読書家である出口治明氏の著書『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』より、本を選び、読み、活かすにはどうすればいいかを深く、やさしく解説します(第4回)。

「新社会人」の心構えについて考えるための本(20代ビジネスパーソン向け)

・『韓非子』(韓非・著 金谷治・訳注 岩波文庫)

20代のビジネスパーソンが、「社会人として必要な心構え」を身に付けるには、『韓非子』がお薦めです。

中国の歴史の中でいちばんおもしろい時代の1つは、春秋戦国時代だと思います。『韓非子』は、百家争鳴の時代に生きた天才・韓非が書いた物語です。

韓非子にはさまざまなタイプの人物が登場してきますから、何よりも「人間を知る」ことができます。「世の中には、腹黒い人も、寛大な人も、冷たい人も、温かい人もいる。それはどの時代でも変わらない」と実感できるはずです。企業に入ると本当にさまざまな人に出会います。『韓非子』を読んで免疫をつけておきましょう。

韓非は、性悪説(人間の本性は悪であり、努力や修練によって善の状態に達する)を唱えていました。人間の本質は、愚かで狡賢い。人間の本性は悪である。だからこそ、厳格な法治主義の確立が政治の基礎である、と説いています。

岩波の『韓非子』は4分冊になっています。「4冊も読まなければいけないのか」と思うと食指は動きませんが、「1冊読んでつまらなければ、やめてしまえばいい」と考えれば、気軽に手に取れると思います。なお、後述しますが、「人間を知る」ためには、『史記列伝』も同様にお薦めです。


・『ニコマコス倫理学』(アリストテレス・著 高田三郎・訳 岩波文庫)

古代ギリシャの哲学者、アリストテレスの著書を、息子のニコマコスらが編集したものです。この本は、幸福とは何か、善とは何か、よく生きるとは何かを徹底的に考え抜いた古典の代表作です。

物事は、数字とファクトとロジックで考えなければいけません。この本を丁寧に読むと、西洋の典型的なロジカルシンキングの世界を実感できると思います。

10年も経てば忘れ去られてしまう軽いビジネス書を読むより、しんどくても、アリストテレスの話を聞くほうが、間違いなく思考力の鍛錬になる気がします。同じような視点からデカルトの『方法序説』(谷川多佳子・訳 岩波文庫)もお薦めです。


・『自分のアタマで考えよう』(ちきりん・著 ダイヤモンド社)

前掲の2冊で、人間の実相を知り、思考力を鍛えました。最後はそれを応用しなければなりません。

新社会人にとっていちばん大切なことは、「自分の頭で考えること」に尽きると思います。山本義隆さん(科学史家、哲学者、教育者)が、「専門のことであろうが、専門外のことであろうが、要するに物事を自分の頭で考え、自分の言葉で自分の意見を表明できるようになるため。たったそれだけのことです。そのために勉強するのです」と述べていますが、僕も、まったく同感です。

では、どうしたら「自分の頭で考え、自分の言葉で自分の意見を表明できる」ようになるのでしょうか。

ちきりんさんの『自分のアタマで考えよう』は、そのヒントを与えてくれる本です。「最初に『決めるプロセス』を決める」「縦と横で比較する」「判断基準はシンプルが一番」など、考える技術がいくつも紹介されています。ちきりんさんが書く文章は論理がはっきりしていて、とても読みやすい。切り口も新鮮です。


「人間と社会」についてさらに掘り下げて考えるための本(30代ビジネスパーソン向け)

・『社会心理学講義─〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』(小坂井敏晶・著 筑摩書房)

『社会心理学講義』は、社会心理学の視点から人間の行動を解説した本です。

安定した社会がもっとも重要でありながら、一方で、変化をしなければ社会の存続も、進歩もありえません。つまり、人間も、社会も、「同一性を求めていながら、それでいて変化を続けていく」という矛盾をはらんでいます。

この矛盾をどのように理解したらいいのか、そもそも、同一性を保ちながら変化し続けることは可能なのか、と著者は問いかけます。

すべてのビジネスは、人間と人間がつくる社会を対象としています。だとすれば、人間とその社会に対する深い洞察力が不可欠です。30代になったら自分と向き合い、人間とその社会についてさらに掘り下げて考えるべきです。

この本は、「人間とは、はたしてどういう動物で、その人間がつくる社会はどういうものなのか」という問いを読者の胸に深く刻み込む秀逸の1冊です。

また、この本はロジカルに書かれていますが、まったく別の視点から人間と社会を捉えた古典として、モンテーニュの『エセー』(原二郎・訳 岩波文庫)もお薦めです。


・『クアトロ・ラガッツィ─天正少年使節と世界帝国』(若桑みどり・著 集英社)

わが国は、グローバリゼーションの荒波にもまれています。しかし、グローバリゼーションは、世界の歴史の上では、何度も立ち現れているのです。

ダレイオスの時代、クビライの時代、そして安土桃山時代もそうでした。日本人がグローバリゼーションに対峙した時代に僕たちの先達がいかに振る舞ったか、この力作を読めばそれがよくわかります。改めて日本人の素晴らしさと、歴史の非情さが胸に沁み込んできます。是非、この名作を読んでグローバリゼーションを自分の頭で考えてください。


・『システム×デザイン思考で世界を変える─慶應SDM「イノベーションのつくり方」』(前野隆司・編著 日経BP社)

本書は、イノベーション創出のための新しい方法論「システムデザイン・マネジメント」について解説した本です。システムデザインとは、物事をシステムとして捉える「システム思考」と、観察・発見・試作を繰り返す「デザイン思考」を融合することです。この2つを掛け合わせることで、さまざまな課題が解決できるのではないか、と慶應SDM(システムデザイン・マネジメント研究科)は考えています。

イノベーションの3つの条件として挙げているのは、「①見たことも聞いたこともないこと」「②実現が可能なこと」「③物議をかもすこと」。

とくに「物議をかもすこと」という視点は、おもしろいと思います。多数決には頼らないで、「賛否両論になりやすかったアイデア」を生かすことを推奨しているのです。

システム×デザイン思考は、複雑な問題を解決するヒントになりますが、この思考法を使うには、次の4つの壁を乗り越えなければなりません。

「①正解を一発で出す」「②失敗=悪い」「③『まじめ』や『客観性』が正しい」「④範囲・枠にこだわる」。

本来、問題解決や新規事業は楽しいものです。僕は常々、「まじめ」より「楽しさ」や「ワクワクすること」が大切だと言い続けているので、このSDMの主張に賛成です。

本書には、中堅のビジネスパーソンにとって明日の仕事に役立つ考えるヒントがたくさんちりばめられています。

出口 治明

カテゴリ:スキルUP
【著者紹介】出口 治明(でぐち・はるあき)
APU(立命館アジア太平洋大学)学長。京都大学法学部を卒業後、日本生命保険相互会社入社。退職後にネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。ライフネット生命を開業し、東証マザーズ上場。『座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」』(KADOKAWA)など著書多数。

【書籍紹介】『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』(KADOKAWA)

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