スキルUP

40代はリーダー論、50代では老いと死を。大人の推薦図書6選/本の使い方(5)

本を読むときは、1行たりとも読み飛ばしてはいけない。稀代の読書家である出口治明氏の著書『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』より、本を選び、読み、活かすにはどうすればいいかを深く、やさしく解説します(第5回)。

「リーダー」について考えるための本(40代ビジネスパーソン向け)

・『部下を持ったら必ず読む 「任せ方」の教科書─「プレーイング・マネージャー」になってはいけない』(出口治明・著 KADOKAWA)

リーダー論では、恥ずかしながら、拙著を紹介させてください。

僕は、人間ちょぼちょぼ主義者です。人間の能力はそれほど高くなく、どの人も、ちょぼちょぼだと思っています。

僕は中学校の時に陸上をやっていました。100m走の自己ベストタイムは、12秒フラットです。11秒台を出さないとスプリンターとは言えないので、僕は二流の選手でした。一方、世界記録を持つウサイン・ボルト選手は、9秒5くらいのタイムで走ります。

トップレベルのコンマ1秒の差はとても大きい。といっても、9秒と12秒では、たかだか3秒しか違わない。すなわち、どれほど優秀な人でも、他の人との能力差は、せいぜい2人分か3人分しかありません。ひとりでできることは限られている。だからこそ、リーダーは「任せ方」を学ぶ必要があるのです。


・『新釈漢文大系95 貞観政要』(原田種成・著 明治書院)

『貞観政要』は、唐の第2代皇帝「太宗(たいそう)」の言行録です。この本は、長く「帝王学の教科書」と目され、クビライの愛読書でした。わが国でも、北条政子や明治天皇なども『貞観政要』を学んだと言われています。

リーダーの心構えを問われた時、僕は『貞観政要』で語られる「三鏡(さんきょう)」をよく挙げます。


「夫れ銅を以て鏡と為せば、以て衣冠(いかん)を正すべし。

古を以て鏡と為せば、以て興替を知るべし。

人を以て鏡と為せば、以て得失を明らかにすべし。

朕常に此の三鏡を保ち、以て己が過ちを防ぐ。」


第1は、「本当の鏡」。自分の顔や姿を見て、「元気で、明るく、楽しそうか」を確認します。自分がどんな顔で、どんな服装で、どんな雰囲気で仕事をしているのか、いつもチェックしろと太宗は説きます。もしリーダーが精気なくため息をついてばかりだとすれば、それを見ている若い人がどうして自分もリーダーになりたいと思うでしょうか。

第2は、「歴史の鏡」。将来を想像するためには、過去の教材に学ぶしかありません。未来は見えませんが、過去の歴史を振り返り学ぶことはできます。過去に起きた出来事をヒントにして、初めて人間は将来何かが起こったときに正しく対処できるのです。

第3は、「人間の鏡」。「あなたは間違っている」「王さまは裸だ」と諫言(かんげん)してくれる人を近くに置かない限り、人は必ず間違うと太宗は指摘します。


このように、リーダーには、自らを映す3つの鏡が必要です。

『貞観政要』は、唐の太宗をケーススタディとして取り上げ、リーダーたるにふさわしい教養・態度・考え方を説く指南書なのです。


・『ローマ政治家伝Ⅰ カエサル』(マティアス・ゲルツァー・著 長谷川博隆・訳 名古屋大学出版会)

リーダーシップを学ぶためには、優れたリーダーの伝記を読むことが一番です。また、普通のワインと美味しいワインを並べて飲むと、その違いがよくわかります。

不世出のリーダー・カエサルについては多くの本が書かれていますが、僕がゲルツァーを取り上げるのは、カエサルのライバルだったポンペイウスを同じ著者が書いている(『ローマ政治家伝Ⅱ ポンペイウス』長谷川博隆・訳 名古屋大学出版会)からです(同著者は『キケロ』も書いており、こちらも翻訳出版されています)。

この2冊を併せて読むことで、カエサルのリーダーとしての偉大さが浮かび上がります。また、カエサルは自ら『ガリア戦記』(高橋宏幸・訳 岩波書店)を書き残していますので、文は人なりと言いますが、カエサルその人の肉声を聞くこともできます。リーダーシップを学ぶ上で、カエサルほど恵まれた教材は他にはないでしょう。

日本人の書いたものでは塩野七生さんの『ローマ人の物語』(新潮社)の中にカエサル伝が収められています。

「老いや死」について考えるための本(50代以降のビジネスパーソン向け)

・『生物学的文明論』(本川達雄・著 新潮社)

わが国は人類史上その例を見ない超高齢社会を迎えています。その中では、ひとりひとりの高齢者が、残された人生をいかに生きるべきかを自分の頭で自分の言葉で考えて、生きていく必要があります。本川達雄さんは、人間は動物なので、「生物学的に考える」ことの中に最大のヒントがあると指摘しています。

ひと言で言えば、高齢者は次の世代のために生かされているのです。

超高齢社会の必読書だと思います。高齢者がこの本を読むだけでも、わが国の社会はかなり良くなると思うのですが、いかがでしょうか。


・『老い』(シモーヌ・ド・ボーヴォワール・著 朝吹三吉・訳 人文書院)

ボーヴォワールは、サルトル(フランスの哲学者)のパートナーとして知られる作家です。彼女はこの本の中で、老いの本質について、生物学的、歴史的、哲学的、社会的、その他あらゆる角度から考察しています。この本を読むと、外的な変化(医学的・生物学的な変化)と内面の変化(行動、葛藤、体や欲望の変化)の双方から、老いの全体像を理解することができます。

興味深いのは、老いを「死」と対比させるのではなく、「生」と対比させているところです。老いとは、死のパロディーのようなものであって、「どう生きてきたかによって、どう老いるかが決まる」と著者は考えています。

高齢者は、次世代のために生きなければいけない。老いたら、自分たちのエゴは忘れなければいけない。そうしたことを痛感させられる1冊です。


・『おひとりさまの老後』(上野千鶴子・著 法研)

次は、日本を代表する女性社会学者、上野千鶴子さんの『おひとりさまの老後』です。

人は誰しもひとりで生まれて、ひとりで死んでいきます。相思相愛の相手がいても、どちらかが先に死ねば、最後はひとりになります。「人間は誰しも、ひとりで死んでいく」という当たり前の事実から老いを捉えた意欲作です。

ボーヴォワールの『老い』と上野千鶴子さんの『おひとりさまの老後』を読むと、フランスと日本、過去と現在、全体と部分を対比させながら、「老い」について理解を深めることができます。

出口 治明

カテゴリ:スキルUP
【著者紹介】出口 治明(でぐち・はるあき)
APU(立命館アジア太平洋大学)学長。京都大学法学部を卒業後、日本生命保険相互会社入社。退職後にネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。ライフネット生命を開業し、東証マザーズ上場。『座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」』(KADOKAWA)など著書多数。

【書籍紹介】『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』(KADOKAWA)

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