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天下人より惚れた男!戦国No.1美女お市の選択/日本史 アッパレな女たち(1)

女性の活躍なしの日本史なんてありえない!『東大教授も惚れる! 日本史 アッパレな女たち』(本郷和人著)より、歴史を騒がせた女たちの華麗なるガチンコ対決を通じて、日本史の裏の裏までをご紹介します(第1回)。

戦国一の名花と鹿鳴館の華、不動のセンターは?


お市は織田信長の妹で「戦国時代ナンバー1美女」の誉れが高い人です。

だから、あるときは、極めて強烈な、信長を女性にしたようなすごい人物として描かれることもあれば、薄幸の美女として描かれることもあり、なかなかどんな人だったのかよくわからないというのがあるわけです。

織田家はもともと子だくさんの家系で、信長にも多くの姉妹がいました。大名は、自分の姉妹や娘の幸せを一番に考えたときには、ほかの大名に嫁に出すということはあまりしないんです。嫁ぎ先が大名であれば、いずれは敵対するかもしれない。となると、嫁に行った女性が、実家と婚家の間で心を引き裂かれることになります。

それを避けて本人のおだやかな幸福を望むのであれば、家臣の家に嫁にやる。たとえば、豊臣秀頼のもとに嫁に行った千姫は、豊臣家の滅亡後、徳川の家臣、本多忠刻と再婚しています。「苦労した孫を、もう政争の道具にはしないよ」。そんな家康おじいさんの気持ちがあったんだと思います。


しかし信長は、お市を浅井長政のもとに嫁がせた。浅井は現代の米原、彦根を押さえていて、尾張や岐阜に根拠地を持つ信長が京都に出ようとすると、どうしても彼の勢力圏を通る必要がある。「じゃ、浅井を味方にしよう」ということで、美人の誉れ高いお市をお嫁さんに出し、縁を結んだ。

それで織田家と浅井家が仲よくやっていければよかったのですが、しかし浅井長政は織田信長の敵に回り、お市は「夫の浅井家をとるか、実家の織田家をとるか」という選択を突きつけられることになる。

たとえば、鎌倉時代の北条政子の場合は夫・源頼朝の源氏よりも、実家の北条をとった。同じ選択をした女性としては、息子の暗殺に失敗し、実家の最上家に戻った伊達政宗の母がいます。しかし当時、嫁に行った家を優先する女性も増えていました。

お市も夫をとったらしく「浅井の情報を積極的に信長に知らせた」というような話はあまりない。しかし夫・長政は力尽き、信長に滅ぼされ、お市は後の淀殿になる長女の茶々、次女のお初、徳川秀忠と結婚する末っ子のお江、三人の娘を連れて、織田家に帰ることになります。


やがて信長も本能寺で殺される。その後、彼女は織田家の一番の家老である柴田勝家と再婚します。

実はこのとき、お市にずっと憧れていた豊臣秀吉が嫁にしたいと思っていたんですね。一方、お市は浅井家を滅ぼすときに頑張った秀吉のことを「私の浅井家を潰した、このにっくき猿め」と、大嫌いだった。だから、秀吉のライバルである柴田勝家と結婚したという伝説があります。

この話は昔から伝わっているのですが、秀吉がお市に首ったけだったという史料も、また、お市は秀吉のことが大嫌いだったという史料も、実はないんですよ。

ただ、ともかく、秀吉という人はお姫さまが大好きなんですね。自分の出自にコンプレックスを持っていますから、お姫さまが大好き。さらに言えば、織田家のお姫さまは特別なわけです。あの信長さま、織田家のお嬢さまを、というのがたまらないわけですから、そうなると、お市が大好きというのはあり得たんじゃないかなという気が、僕はします。

そのお市さんが、天下人にいちばん近いところにいた秀吉でなく、柴田勝家のところに嫁に行ったということになると、お市さんはやっぱり秀吉が大嫌いだったというのも十分あり得るという気はするわけです。そういうふうに考えたほうが歴史は面白いかな。秀吉はどう見ても女性に好かれるようなタイプじゃありませんしね。


しかし再婚相手の柴田勝家もまた秀吉との決戦に敗れ、今の福井市の北ノ庄城で自害する。

そのとき勝家はお市の三人の娘たちを秀吉のもとに送り届け、お市にも「一緒に死ぬことはない」と言ったのですが、お市は「あなたと一緒に死にます」と、勝家と運命をともにする。まだ三十代半ばでしたが、たとえ死ぬことであっても、それは自分で選択した運命です。彼女は自分の意志で夫とともに果てる道を選んだ。


僕は、勝家という男は戦いには負けたけれども、この点は男冥利に尽きるな、幸せだったな、と思います。

またお市にとって、それだけ彼は魅力的な男だったのでしょう。勝家は織田家の若い連中に大変に慕われていた。また、部下だった前田利家が賤ヶ岳(しずがたけ)の戦いのとき、ぎりぎりの段階で秀吉に寝返るのですが、勝家はなんと、とっていた人質をそのまま利家に返しています。それで、秀吉のところで頑張れ、と。

勝家という男は、すごく男気のあるいい奴だった。そんな男に嫁いだお市さんは、きっと幸せだったんじゃないかな。

だから、この男と一緒に死にたいなと思った。もう政治の手駒になるのはたくさんだ、政略結婚の犠牲になるのはたくさんだという、受け身な理由だけではなく、自分で自分の道を選んだ。

死を選ぶのもやっぱりひとつの選択ですからね。娘たちには未来があるから一緒には連れていかないけれど、私はここで幕を引くという感じだったんじゃないですかね。秀吉の側室にでもなろうものなら大変だっただろうしな。



本郷 和人/まんきつ

カテゴリ:スキルUP

【著者紹介】本郷 和人(ほんごう・かずと)
1960年東京都生まれ。東京大学史料編纂所教授。東京大学・同大学院にて石井進氏、五味文彦氏に師事し、日本中世史を学ぶ。著書・監修など多数。ドラマや漫画、アニメの時代考証にも携わり、日本史をおもしろく解説してくれる第一人者として、各方面から引っ張りだこの存在。

【著者紹介】まんきつ
2015年に初の単行本『アル中ワンダーランド』を刊行。以降、『まんしゅう家の憂鬱』『湯遊ワンダーランド』など、独特の視点と描写によるコミックエッセイ、ルポ漫画が評判となる。2019年2月にペンネームを「まんしゅうきつこ」から「まんきつ」に改名。

【書籍紹介】『東大教授も惚れる! 日本史 アッパレな女たち』(集英社)

©本郷和人/集英社
©まんきつ/集英社

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