学費を取らず給料も払う!「スタバ大学」は最高の社会貢献/ミッション(4)

一流は「火花散る一瞬」ために生きる! スターバックスとザ・ボディショップの両ブランドを見事に再生させた敏腕経営者・岩田松雄氏の著書『ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由』より、一流の仕事術をご紹介します(最終回)。
スターバックス大学
知り合いを通して、間接的にお礼を言われたことがあります。
「私の娘は、大学の3年間、スターバックスでいろいろなことを勉強させてもらいました。娘は、就職するので、スターバックスを卒業していきます。彼女は私から見ても明らかに成長しました。心から御礼を申し上げたいのです」
スターバックスは、コーヒーの販売を通して人々の心を豊かで活力あるものにするために活動しています。従業員はアルバイトまで含めると2万人を超えます。
こうしてお店では毎年多くの学生さんが成長して巣立ってくれている様子を見ると、こう考えるようになりました。
「スターバックスは人を育てる学校なのではないか、そして私はスターバックス大学の学長なのではないか」
何しろ、コーヒーを通じて「人々の心を豊かで活力あるものにする」ことがミッションなのです。ミッションの大切さを学んだ彼女たちはやがて世界中に散り、どこかで人々の心を豊かにし続ける。社会に貢献してくれる。
当のスターバックス大学は、学費を取らないばかりか、給料まで払う! 最高の社会貢献ではありませんか。
もちろん企業ですから、雇用を創出し、賃金を払い、利益を出すことが求められます。そのうえで人作りまで努力する。
もはや、新卒学生の就職戦線において、スターバックスでアルバイトをしていたということそのものが、ひとつのブランドになっています。就職にもかなり有利に働いているようです。
人を魅了するアニータのプレゼンテーション
リーダーはときとしてプレゼンテーションをする必要に迫られます。社内での大きな会議、外部に向けての新製品発表、決算説明などです。
しかし私には、残念ながらみなさんにプレゼンの極意を説明できるような資格はありません。それには理由があります。
コンサルティング会社に勤めてクライアントへのプレゼンを数多くこなし、アトラスの社長になって投資家向けのプレゼンもしていて少し自信がついた頃です。ある説明会の席上、私はそれなりに準備していたつもりで、壇上に立った瞬間、何十人の記者たちからカメラのフラッシュをたかれ、頭の中が真っ白になってしまい、しどろもどろになるという悲惨な結果になってしまった失態経験の持ち主です。
だから私が言えるのはふたつだけ。プレゼンをするときには、たとえ100%話す内容を理解していても、事前に十分準備し原稿を作成すること。そして、必ず会場を下見し、予行演習をしておくことです。
代わりに、私が事前の準備段階を含めて間近で見る機会を得た、アニータ・ロディックのプレゼン術をご紹介します。
ザ・ボディショップの創設者アニータと私が初めて会ったとき、彼女が東京に来た目的のひとつは、「ドメスティック・バイオレンス・イン・ザ・ホーム」という家庭内暴力(ドメスティック・バイオレンス=DV)防止のキャンペーンでスピーチをすることでした。また大企業のCSR責任者に対するプレゼンテーションの日程も控えていました。
東京にやって来た彼女は、まず聴衆の層を確認します。当初は一般人に近いと考えていたのに、どうも役職が高く専門家がほとんどらしいと知って、時差ボケの中、前日の深夜までロンドンとやりとりして、資料をすべて作り直していたのです。
資料の見せ方も独特でした。まず、わかりやすい数字へのこだわり。たとえば、世界中で3人に1人がDVの被害にあっている、という事実を大きく見せるとき、「数字を大きく描きなさい」などと担当者に極めて細かい指示をしていました。普段は冗談ばかり言っているのに、本番になり、壇上に立つと、人が変わったようにキリッと戦闘モードになります。
しっかり演出面も考えられているのです。
でも、アニータのような有名人でプレゼン上手なら、普通に話すだけで聴衆は満足するはず。どうして夜中まで準備をするのか不思議でした。翌日プレゼンが終わってから、どこからそんな元気がわき出てくるの? と聞いてみました。
アニータの答えはこうでした。
「アンガー(怒り)があるからよ」
彼女のミッションは、社会に対する怒りを原動力としている。だから、普段はニコニコしていても、プレゼンに入った瞬間に人が変わるのです。
一方で、ハワード・シュルツのプレゼンテーションは、とても感動的で、人を魅了します。彼も、スティーブ・ジョブズと同様、結構な長時間のプレゼンでも原稿を一切読みません。しかも彼の言葉や立ち居振る舞い、間のとり方は、聴く人の心を鷲づかみにするのです。
私が見る限り、ハワードは、場の雰囲気を読みながら、その場その場で言葉を選び、ゆるぎない自信を持って話をしていると感じます。
もちろん人間ですから、場数を踏むことも重要です。
しかし本質は、確固としたコンテンツがあるかないかと、事前準備です。
伝わる、とはそういうことなのだと思います。
心からあふれ出たものは、相手の心に注ぎ込まれるのです。

岩田 松雄
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【著者紹介】岩田 松雄(いわた・まつお)
元スターバックスコーヒージャパン代表取締役最高経営責任者。3期連続赤字企業を見事に再生させる。2009年スターバックスコーヒージャパン(株)のCEOに就任。『スターバックスCEOだった私が社員に贈り続けた31の言葉』(KADOKAWA)など著書多数。
【書籍紹介】『ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由』(アスコム)