自閉症者の息子に伝え続ける母の思い「あなたを応援している」
世界30ヶ国以上で翻訳されたベストセラー『自閉症の僕が跳びはねる理由』(エスコアール/角川文庫/角川つばさ文庫)の作家・東田直樹さんと母・美紀さんが4月2日、「世界自閉症啓発デー」を記念してオンライン講演会を開催する。同講演会を目前に控え、KADOKAWAセミナーでは、美紀さんにインタビューを敢行。春の進級、進学が迫るいま、自閉症者の子どもを新たな環境へと送り出す家族に向けた、美紀さん流のアドバイスを伺いました。
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「直ちゃんと同じチーム」にため息や目配せ
―― まずは、直樹さんの学生時代のお話をお聞かせください
いちばん印象深いエピソードをお話しますね。(直樹が)5年生の時の、体育の時間のことです。その日は、クラスを2チームに分けた対抗リレーでした。直樹は、駆けっこはいつもビリでした。逃げ足だけは速いのに(笑)。加えて、走っている途中で止まる、興味のあるものが目に入ると、そちらに走って行くこともありました。
―― その直樹さんのいつもの走る姿をクラスのみんなは知っていた?
はい。直樹と同じチームになった子どもたちは、途端に友達同士で目配せをしたり、ため息をついたり。「今日のリレーは負けだね」という諦めムードがその場に漂いました。直樹も自分がみんなの足手まといになっていることはわかっていましたから、辛かったと思います。
雰囲気をガラリと変えた先生からのたった1つの提案
―― 子どもたちのやり取りを観る美紀さんもお辛いですね
そうですね。でも、その日のリレーは違いました。担任の先生が「今日のリレーは、走る順番も距離も、全部チームで決めていい」と言われたのです。子どもたちは俄然やる気を出しました。チームで輪になって、勝つための作戦会議が始まったんです。
足の速い子が長い距離を走る、遅い子は短い距離にしよう! 順番はどうする? 誰が誰にバトンを渡せばミスが少なくなるのかなど、それぞれ意見に了解を取り合いながら、チーム全員で話し合っていました。
直樹は、一番短い距離を走ることになりました。すると「いくらなんでも、そんな短い距離だと直ちゃんがかわいそうだ」と言ってくれる子がいたり、「走るのは真っ直ぐのこのコースがいいよ」などと提案してくれたりする子もいて。チームのみんなが、どうしたら直樹が気持ちよく走れるのかということを考えてくれたのです。
―― 勝つことだけではなく、全員で「今日のリレーを楽しむ」気持ちですね
リレーの競争は、これまでにないくらいの盛り上がりを見せました。いよいよ直樹の番になると、いつもは遠くから眺めているだけのチームメイトが、直樹の周りを囲んで応援しながら一緒に走ってくれたのです! 直樹の番は、あっという間に終わってしまいましたが、みんなの声援に包まれ、満面の笑顔で走っていた直樹の姿は、今でも忘れられません。嬉しい思い出として残っています。
伝え続けたのは「あなたを応援している」という気持ち
―― この春から新たな環境へ進む子どもを送り出す親や支援者に向けて、美紀さん流のアドバイスを伺いたいです。
毎年4月は環境が大きく変わる時期だと思います。この時期、私は直樹が混乱しないように前もって伝えられることは説明しました。けれど、細かい変化まですべて教えることはできません。直樹が失敗しても責めないこと、いつも笑顔でいることを心がけました。「次はきっとうまくいくよ、応援しているよ」という気持ちが子どもに伝わることが大切ではないでしょうか。
現在は、子育てについてさまざまな情報があふれています。自閉症の療育や接し方についても、どうすればいいのか迷われている方も多いと思います。私も悩み続けたこともあり、いまの形を見つけられるまで、試行錯誤の繰り返しでした。
自閉症者の息子が幸せになるために家族ができること
―― 失敗続きの中でも、美紀さんが続けられたことは?
直樹を育ててきてわかったことは、子育てに正解がないように、自閉症者が幸せになるための方法は、決して1つではないということです。子どもにとってプラスになると思うことがあれば、創意工夫しながら試してみることが大切ではないでしょうか。
-- 次の講演会のテーマはそんな美紀さんの創意工夫を知れる、より実践的なテーマですね
これまでの講演会では、文字盤ポインティングや子育てについてお話させていただくことが多かったのですが、今回は「言葉を覚えて文章を書く」という内容を中心に、お話させていただくことにしました。過去の講演会で、参加者の方から「どのようにして言葉を習得したか?」、「二語文が書けるようになるために、どんなことをすればいいですか?」などの質問を多くいただきました。
直樹に言葉を教えるうえで、私はさまざまなことに取り組んできましたが、ものに名前があることを理解させる、そして文章を書く練習を行う方法として、やってみてよかったと思ったことがいくつかあります。自閉症当事者としての直樹の意見も聞きながら、今回は具体的にまとめてみました。少しでも皆様のヒントになれば嬉しいです。
<講演会詳細>
【世界自閉症啓発デー】オンライン特別イベント
登壇者:作家・東田直樹(自閉症当事者)+母・東田美紀「自閉症を知ってください」
日時:4月2日(土)/14時開始/オンラインイベント
>> 詳細はこちら
世界的ベストセラー『自閉症の僕が跳びはねる理由』(エスコアール/角川文庫/角川つばさ文庫)の作家・東田直樹の母。重度の自閉症者である長男とのコミュニケーション方法を探索するなかで、パソコンのキーボードと同じ配列でアルファベットを画用紙に書いた文字盤を考案。現在も息子・直樹の講演活動や執筆活動をサポートしている。