身近な生き物が教えてくれる“人間社会と豊かさの本質”
大人気TV番組「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」に専門家として出演、様々な生き物と生息環境を保護し、その楽しさを発信している久保田潤一氏。身近なところでひっそりと生きている絶滅危惧種を守り、豊かな自然を守る活動の様子を、ドキュメント形式でお伝えします。
“発掘”するとよくわかる「身近な池の意外な世界」
本書の前半は、生物の多様性を維持するために池の水を全部抜いて手入れを行う作業(以後“かいぼり”と表記)について、長期にわたる入念な準備と試行錯誤、成功に至るまでのプロセスを記述しています。
排水許可の申請や協力者への呼びかけ、排水ポンプのレンタルと電源の確保、流出口の堰板外し、排水栓抜き、池底の泥の状態確認、地域の人々への事前説明、ポスターやチラシでの宣伝など、「段取り9割」と言われる“かいぼり”を成功させるための手順をひとつひとつ取り上げ、どう対処したのかを追っていきます。
さらに、かいぼりを始めた後で思いがけず見つかった絶滅危惧種に大興奮している専門家や、想定外の事態が起こっても迅速・的確に対処して、かいぼりを最後までやり切ってしまうチームメンバーのすごさ、“かいぼりイベント”の楽しい雰囲気、見学に来た人たちが喜んでいる様子もリアルに描写。
「みんなの頑張りで、どんどん生物が水揚げされてくる。運搬班、仕分け班も大忙しだ。最初は外来コイやゲンゴロウブナが多かったが、種類が増えてきた。テナガエビ、クサガメ、ウシガエル、アメリカザリガニ、などなど。
こうした生物は、展示コーナーを設けて一般のお客さんにも見てもらった。水槽が並ぶテントの前には人だかりができた。子どもはもちろん、大人たちが興奮している。
「こんなにでっかいカエルがいたんだ!」
「ザリガニ懐かしいわねえ、子どものころに捕まえて遊んだわ」
など、歓喜の声が上がる。そうなのだ。陸上にいては見えない池の中、そのロマンをみんな感じているのだ。」
身近にある汚れた池、外来種がたくさんいる池の中にも、絶滅危惧種がひっそり生きていることがあるのです。
日本の自然を守る、チャレンジ精神と連携のチカラ
本書の後半は、身近な森や草地、湿地の様子と、“陸の外来種”を駆除して絶滅危惧種を保護する取り組みを紹介しています。
狭山丘陵(埼玉県)に棲息する特定外来種、キタリスを1匹残らず捕獲するための格闘や、ハンセン病療養施設内にある、野生生物の生息場所としての「人権の森」保護活動、著者自らアナグマを育て、野性に帰すまでの奮闘などをレポート。
このレポートでは、国を動かした専門家の存在や、東京都と埼玉県による行政区分を越えた協力、かつての日本政府による隔離政策と差別の歴史、生物保護への柔軟で前向きな役所の対応にも触れており、環境保護に対する社会の現状と将来、子どもや若い世代に豊かな自然を残すために今からやっておくべきことなどが見えてきます。
根っからの生き物好きが伝授する「陸の豊かさの守り方」
物心ついたときから生き物が大好きで、その気持ちを大人になっても持ち続けている久保田潤一氏。
「池の水を抜いてかいぼりしているとき、トウキョウサンショウウオの産卵場所を掘っているとき、草地を広げているとき。僕はたいてい、妄想している。数十年後に僕がこの世を去っても、これらの場所で生き物たちが生き生きと暮らし、命をつないでいる様子を。数十年後の子どもたちが、そこで生き物と触れ合っているシーンを。今、そんな仕事をしているんだ、そう思うと、顔がニヤけてしまう。」とのこと。
そんな著者が、使命感を持って最前線で環境保全に取り組んだプロセスをまとめあげた、渾身のドキュメント。
池を再生する。
草地を増やす。
侵略的外来種を駆除する。
密放流者と闘う。
生物の多様性を維持する。
一筋縄ではいかない「陸の豊かさの守り方」を知る一助となるのはもちろん、番組ではうかがい知れないエピソードや裏話を知ることもできる、興味深い一冊です。
絶滅危惧種はそこにいる 身近な生物保全の最前線
(著者 久保田 潤一)
絶滅危惧種を守る!「池の水せんぶ抜く」解説者による最前線のレポート
<目次>
第一章 たっちゃん池のかいぼり
第二章 理想の池
第三章 密放流者との暗闘
第四章 ビオトープをつくりたい
第五章 希少種を守り増やせ
第六章 森のリス、ぜんぶ捕る
第七章 ハンセン病と森
第八章 アナグマの父親になりたい
>>詳細はコチラ