危険物取扱者とは?資格の種類や試験内容、難易度を解説
危険物取扱者は、消防法に基づく危険物を取り扱うための国家資格です。危険物取扱者の資格に対する企業のニーズは高く、就職や転職に有利であるほか、収入アップにもつながるなどさまざまなメリットがあります。
{ 目次 }
- 危険物取扱者ってどんな資格?
- そもそも危険物取扱者とは?
- 危険物取扱者の種類(甲種、乙種、丙種)について
- 取得するメリット
- 危険物取扱者の試験概要
- 受験資格
- 甲種の受験資格
- 試験内容
- 試験科目とそれぞれに求められる知識
- 合格率や難易度
- 合格基準・合格率・難易度を解説
- 初めての危険物取扱者試験は「乙4」がおすすめ
- 勉強法について
- 必要な勉強時間は?
- 学習のコツ、おすすめの講座・参考書は?
- 仕事の幅を広げるため資格取得を目指そう!
そこで今回は、これから受験を検討している方のために、YouTubeにて危険物取扱者の試験対策動画を公開している教育系YouTuber・けみさんにインタビューを実施。そもそも危険物取扱者とはどんな資格なのか、試験の概要や勉強方法などを教えていただきました。資格取得に関心のある方はぜひ参考にしてみてください。
監修者・けみさんプロフィール
化学系の大学を卒業後、東証プライム上場企業に入社。大学在学中に甲種 危険物取扱者、第二種電気工事士、技術士補、中級バイオ技術者、食品衛生管理者の資格を取得。甲種危険物取扱者の合格を自学習のみで遂げた経験をもとに2020年3月から乙種第4類危険物取扱者の試験対策動画をYouTube『けみちるちゃんねる』で公開。登録者数は6万人超(2022年11月7日時点)。また、カドセミで販売中のオリジナル動画講座(詳細はコチラ)のほか、著書に『この1冊で合格!教育系YouTuberけみの乙種第4類 危険物取扱者 テキスト&問題集』(KADOKAWA)がある。
危険物取扱者ってどんな資格?
試験にトライするかどうかを検討するためにも、まずは危険物取扱者がどういった資格なのかを紹介します。細かい資格の種類や取得するメリットなど、はじめに資格の概要をお聞きしました。
そもそも危険物取扱者とは?
「危険物取扱者は、消防法に基づく危険物の取り扱いや管理などに必要となる国家資格です。ここでいう危険物は、簡単に言えば『爆発や火災、中毒の恐れがあるもの』です。性質ごとに第1類から第6類に分類され、身近な物で言えば、例えばガソリンや灯油、軽油などがそれに該当し、他にも消毒液に含まれているエタノールやダイナマイトの原料のニトログリセリンなども危険物にあたります。化学工場、ガソリンスタンド、石油貯蔵タンクなど一定数量以上の危険物を貯蔵する施設では、これらの危険物を専門知識のない人が扱うと大事故になりかねないため、有資格者を配置する義務があります」(けみさん)
危険物取扱者の資格は社会で求められる場面も多く、資格があれば職業の選択肢も広がることから、幅広い世代に高い人気があります。体力や性別に関係なく取得でき、セカンドキャリアの形成を目指すシニア世代がゼロから勉強を始めて、取得する方も少なくありません。
危険物の分類
・第1類:酸化性固体…単独では燃焼しませんが、反応する相手を酸化させる固体
・第2類:可燃性固体…火炎によって着火しやすい、または40℃未満で引火しやすい固体
・第3類:自然発火性物質及び禁水性物質…自然発火性物質は空気にさらされることで自然発火しやすい固体や液体。禁水性物質は水に触れると発火や可燃性ガスの発生をおこす固体や液体。
・第4類:引火性液体…引火しやすい液体。可燃性の蒸気を発生させ、点火源(火気、火花、静電気)があると火災や爆発の恐れがある
・第5類:自己反応性物質…自己燃焼しやすい固体や液体。燃焼に必要な3つの要素のうち、可燃物と酸素供給体(燃焼を助ける)の2つを持つ
・第6類:酸化性液体…単独では燃焼しませんが、反応する相手を酸化させる液体
危険物取扱者の種類(甲種、乙種、丙種)について
「危険物取扱者の資格は難易度の高い順から甲種・乙種・丙種の3種類があり、乙種はさらに第1種から第6種に細かく分かれています。甲種は第1類〜第6類危険物のすべてを扱えるもの。乙種は第1類〜第6類危険物のうち取得した類のみ扱えるもの。丙種は第4類危険物のうち、ガソリン・灯油・軽油など指定された物のみを扱える資格となります。丙種に関しては、無資格者の立ち会い業務ができなかったり、危険物の取扱作業において保安の監督業務を行う危険物保安監督者になれないなどの制限もあります。
保有する資格の種類で、管理できる危険物や立会いの条件が異なりますが、受験者全体のうち8割以上が乙種の試験を受け、 その中でも第4類を受験される方が最も多いです。理由は、危険物取扱者乙種4類で扱えるガソリン・灯油・軽油は私たちに身近な存在であり、仕事に直結しやすく需要が見込まれるから。例えば、セルフ式ガソリンスタンドでは、甲種または乙種第4類の危険物取扱者がいなければなりません」
取得するメリット
「まず多くの方が危険物取扱者の資格取得を目指す理由に『就職・転職に有利』というメリットが挙げられます。危険物取扱者の資格が役立つ職場・職種には、ガソリンスタンド・消防士・化学工場・タンクローリーの運転手などさまざま。運転免許証と同様に一度取得してしまえば再度試験を受ける必要もありませんので、資格取得をきっかけに職業の選択肢が増えるというのは大きなメリットと言えるでしょう。
また、『収入が増える』という点も大きなメリットの一つです。危険物取扱者という資格は、資格を持っている人だけが独占的に当該業務を取り扱うことができる業務独占資格であり、事業を行う際に「その企業や事業場に必要な資格を有している者を最低1人以上置かなければならない」と法律で義務付けられている必置資格(設置義務資格)でもあります。そのため、資格手当がつく企業も多く、甲種になると業務の幅が広がることから、資格手当も高額になります」
危険物取扱者の試験概要
国家資格である危険物取扱者の試験は、各都道府県知事から委託された「一般財団法人 消防試験研究センター」が実施しています。受験資格や試験内容、試験科目とそれぞれに求められる知識について、詳しく解説していただきます。
受験資格
「危険物取扱者の資格は甲種・乙種・丙種と大きく3つに分かれるとお伝えしましたが、乙種と丙種には受験資格が特にないため、年齢やキャリアなどに関係なく誰でも受験することが可能です。甲種のみ下記のようにある一定の受験資格が必要となります」
甲種の受験資格
(1)大学等において化学に関する学科等を修めて卒業した者
(2)大学等において化学に関する授業科目を15単位以上修得した者
(3-1)乙種危険物取扱者免状を有する者(実務経験2年以上)
(3-2)次の4種類以上の乙種危険物取扱者免状の交付を受けている者
・第1類または第6類
・第2類または第4類
・第3類
・第5類
(4)化学に関する学科または課程の修士・博士の学位を有する者
試験内容
「試験は年間を通じて各都道府県で複数実施されています。受験会場によって試験日程が異なるため、他県での受験もできるので、複数受験も可能となります。
試験時間と問題数は、甲種は2時間半で45問、乙種は2時間で35問、丙種は1時間15分で25問となります。回答方式は甲種・乙種が五肢択一、丙種は四肢択一のマークシート方式です。問題数に対して時間は比較的余裕がある試験ですが、問題数が少ない分、1問の得点が大きなウエイトを占めますので、油断せずにしっかりと見直さなければなりません。私の場合は、3回は見直すことをおすすめしています」
※「一般財団法人消防試験研究センター」HPより引用
https://www.shoubo-shiken.or.jp/kikenbutsu/annai/subject.html
試験科目とそれぞれに求められる知識
「試験科目は『危険物に関する法令』・『燃焼及び消火に関する基礎知識』・『基礎的な物理学及び基礎的な化学』・『物理学及び化学』・『危険物の性質並びにその火災予防及び消火方法』の5つに分かれます。物理や化学は一言で言えば、中学・高校レベルの知識で十分なので、すでに知識がある人にとってはそこまで難しくありません。しかし、それ以外の知識はこれまでの生活では学ぶ機会がなかったため、しっかり勉強をする必要があります。
『危険物に関する法令』では、消防法で定められた危険物に関する法令についての知識が求められ、例えば危険物の分類・指定数量・保安講習・製造所等の構造・予防規定・保安距離・消火設備などが該当します。『燃焼及び消火に関する基礎知識』では、燃焼の三要素(可燃物、酸素供給体、点火源)・種類・特徴と消火の三要素(除去消火、窒息消火、冷却消火)・種類・特徴に関する知識が必要となり、『危険物の性質並びにその火災予防及び消火方法』では、各類の特性・共通特性・貯蔵・消火方法、危険物の色・比重・匂い・引火点など細かな知識が必要となってきます」
合格率や難易度
試験を受ける際、やはり気になるのは合格率や難易度のことでしょう。危険物取扱者の合格率や難易度のほか、複数ある種類の中から先に取得すべき資格について教えていただきました。
※「一般財団法人消防試験研究センター」HPより引用
https://www.shoubo-shiken.or.jp/result/
合格基準・合格率・難易度を解説
「危険物取扱者試験の合格基準は、甲・乙・丙種いずれも『試験科目ごとの得点がそれぞれ60%以上であること』です。総合点ではなく、1つの科目で60%を下回ると不合格になるため、得意な科目ばかりではなく、苦手分野もバランス良く勉強するのがポイントです。
合格率に関しては決して難関資格というわけではありませんが、難易度が高いとされるのが甲種です。例年30〜40%の合格率となっており、令和4年度の合格率も35.2%と約3人に1人だけが合格するレベルなので、ハードルは高めと言えます。
乙種4種も令和4年度の合格率は31.4%と合格率だけを見れば低いのですが、これには理由があります。仕事に直結しやすい乙種4種は人気の種類のため、受験者数がそもそも多く、危険物取扱者の試験に初めてチャレンジする方も多いことから合格率が下がる傾向にあります。その他乙種の合格率は約60〜70%程度であり、丙種の合格率も例年50%前後となりますので、しっかり対策さえ行えば十分に手が届く資格です」
初めての危険物取扱者試験は「乙4」がおすすめ
「危険物取扱者の試験を初めて受ける人には、まず乙種第4類、いわゆる乙4を受けることをおすすめしています。理由を一言で言えば、さまざまな分野の仕事で需要があり、就職・転職の際に大きな武器となるからです。第4類はガソリンや灯油など身近な液体危険物を対象とし、ガソリンスタンドだけでなく化学工場、タンクローリーなどさまざまなシーンで役立ちます。ガソリン・灯油・軽油・アルコールといった第4類は日常生活でもなじみが深く、勉強に取り組みやすい点もおすすめする理由です」
勉強法について
危険物取扱者の難易度については例年同じレベルであり、年々難しくなっているということもありません。ただ、試験問題は受験日や時間帯(午前・午後)、会場によって異なります。受験には甲種は6,600円、乙種は4,600円、丙種は3,700円と費用がかかるため、どんな問題が出題されても一発合格できるよう、しっかりとした対策が必要。ここでは、そのための勉強方法のポイントを解説してもらいます。
必要な勉強時間は?
「『甲種』の場合、化学科大学を卒業した方は物理化学ができるものの、法令や性質を1から覚える必要がありますので毎日2時間の勉強で約2〜4カ月程度かかるでしょう。しかし、すでに乙種を合格しているケースでは、各科目の知識がある程度あるため、約1〜3カ月程度の勉強ボリュームとなります。
『乙種』の場合は、各科目の知識がないため1から勉強する必要がありますので、毎日2時間の勉強で約1〜3カ月程度、合計120時間ほどの勉強量が必要となります。基礎知識があれば合格可能なレベルの『丙種』では、範囲も狭くなってくるため毎日2時間を1カ月程度で大丈夫でしょう。
ただし、お伝えした勉強期間・時間はあくまで目安であり、受験者の知識や1日に取れる勉強時間、集中力によって大きく異なります。試験日程から逆算して勉強期間にゆとりを持たせましょう」
学習のコツ、おすすめの講座・参考書は?
「学習のコツは、大きく3点あります。1つ目は『参考書を購入する』こと。いつでも気軽に勉強できる点が参考書のメリットであり、基礎知識を固めたり、問題演習で自分の実力をしっかり確認できます。
2つ目が『動画も併用する』こと。参考書は目(視覚)のみで学びますが、動画だと耳(聴覚)でも学べるため、勉強の効率が格段にアップします。私が『カドセミ』で配信している動画講座や、YouTubeチャンネル『けみちるちゃんねる』の動画がその例です。『けみちるちゃんねる』の「耳で覚えるシリーズ」は、耳だけで勉強できるので車の運転中、電車での通勤や通学中、家事などの片手間でも勉強できるよう工夫しています。また、動画だとソファーで座りながら、ベッドで寝転がりながら、など気軽に勉強できる点も良いでしょう。
そして、3つ目が『過去問を解く』ことです。参考書を読むだけ、動画を見るだけでは、分かったつもり・覚えたつもりになりがちなので、しっかりと知識をアウトプットできる機会を持ちましょう。過去問を解くことで、自分の実力を数値化して把握できるばかりか、苦手分野を確認できるという大きなメリットもあります。特に危険物取扱者の試験では、全科目で60%以上の得点が求められるため、苦手分野を克服することが合格の条件。すでに解ける問題はドンドン解きたくなる気持ちも分かりますが、点数が安定するだけでそれ以上に点数は伸びません。『間違えた問題を解けるようにするまでが過去問』という意識で取り組んでいきましょう。
「一般財団法人 消防試験研究センター」のホームページに行けば1年分の過去問があり、『けみちるちゃんねる』でも実践練習問題の動画があるのでぜひチェックしてみてください。また、私がおすすめする参考書や講座・動画、過去問については記事の最後に記載していますので、ぜひ参考にしながら合格を目指してくださいね」
仕事の幅を広げるため資格取得を目指そう!
社会的なステータスが高く、いろんな業種・職種で役立つ「危険物取扱者」という国家資格。元々関連のある職に就いている方にとっては、人材としてさらに重宝され、収入面に期待できるため、大きなメリットとなるでしょう。もちろん全くの異業種の方であっても、危険物取扱者は国家資格でありながら難易度もそこまで高くなく、体力や性別に関係なく取得できる資格ですので、第2のキャリアメイクを狙って資格取得を目指しても良いのではないでしょうか。
(取材/執筆 村井貴臣)