「リフレーミング」でポジティブ思考を身に付けるには? 日常やビジネスでの活用法を徹底解説
コミュニケーションツールが多様に進化し、プライベートやビジネスでも、他者の言葉に大きく感情を動かされることが増えたと感じている人も少なくないはず。自分が置かれている状況や相手の言葉を客観的に捉え、ポジティブに受け止めることができれば、他者の発言に一喜一憂して悩むこともなくなります。そんな“強メンタル”を手に入れる方法として、注目を集めているのが「リフレーミング」です。リフレーミングの効果や実践方法などについて、精神科医でありYouTuberとしても人気のメンタルドクターSidowさんが教えてくれました。
{ 目次 }
- リフレーミングの意味・種類
- 心理学用語「リフレーミング」とは
- リフレーミングの種類
- リフレーミングの効果
- リフレーミングを実践する時のポイント
- 言葉の意味の解釈を変換する
- リフレーミングノートを活用する
- 「ポジティブシンキング」との違いを理解する
- 事実を歪曲しない
- リフレーミングの具体例・実践方法
- さまざまな場面でのリフレーミング実践方法
- リフレーミング辞典でポジティブに変換!
- リフレーミングを習得しよう
- 日々練習し続けることが大切
- 類語辞典やさまざまな本で視野を広げる
監修者・Sidowさんプロフィール
精神科専門医。都内にある会員制メンタルケアクリニック「メンタルドクタークリニック」院長。精神科医として働くなかで、世間の精神疾患に対する偏見や誤解の解消、精神科への早期受診の必要性を実感し、SNSで精神科の情報発信を始める。なじみやすさと分かりやすさを重視した精神科に関する発信が精神疾患を持つ方に限らず話題となり、YouTube、ツイッターなどのSNS総フォロワーは10万人を超える。YouTubeの注目するクリエイター「YouTube NextUp 2019」の日本代表にも選出。
リフレーミングの意味・種類
心理学用語「リフレーミング」とは
リフレーミングとは、出来事の枠組み(フレーム)を変えることで、多角的な視点を持たせることを意味する心理学用語です。例えば、長年愛用していたマグカップを家族が目の前で落として割ってしまった時、「マグカップを割られた」よりも、「家族にけががなくてよかった」という視点に意識を向けることで、マイナスの感情にとらわれることなく、状況に対応することができます。
言い方次第で受け取り方も違ってくる、という趣旨の「物は言いよう」という慣用句があるように、多くのポジティブマインドの持ち主が、日常的に使っているのがリフレーミングという手法なのです。
「物事をネガティブに考えやすかったり、つい視野が狭くなってしまう方は、リフレーミングを使うことで、視野を広げられたり、捉え方を変えられて、精神的に楽になるきっかけを作ることができます」(Sidowさん)
リフレーミングの種類
リフレーミングには大きく分けて、置かれている状況に対しての「状況のリフレーミング」と、性格・悩みなど内面に関する「内容のリフレーミング」の二つがあります。それぞれの特徴を、Sidowさんに解説してもらいます。
状況のリフレーミング
「自分にとって嫌な出来事が起きたとしても、それをマイナスだと考えるのではなく、その経験が自分の成長につながると捉えること。これが状況のリフレーミングになります」
内容のリフレーミング
「その人の持つ一見するとネガティブに思える性格や特性をプラスに捉えられるよう切り替えることが、内容のリフレーミングです。例えば、『人見知り』という性格を自分の欠点だと感じている人が、その性格を『慎重に人と向き合う性格』『しっかりと人を見極める目を持っている』といったようにリフレーミングするとします。このように、自分の欠点だと思うところをプラスに捉え直すことが内容のリフレーミングの考え方です」
リフレーミングの効果
マイナスに捉えてしまった状況や内容を、新たな視点を取り入れることでプラスに変換するリフレーミング。プライベートはもちろん、ビジネスでも活用できるこの方法は、多くの人の生き方に、さまざまな効果をもたらしてくれます。
「日常生活や仕事で何か嫌な思いをした時でも、落ち込んだり、その場に立ち止まるのではなく、この経験をきっかけに自分がどう成長できるのかという視点で物事を捉えることができるので、自分を追い込み過ぎないようになるはずです」
リフレーミングを実践する時のポイント
毎日を前向きに過ごすのに役立つリフレーミング。実践するにあたって、押さえておきたいポイントを紹介します。
言葉の意味の解釈を変換する
例えば「頑固」というマイナスイメージの強い言葉でも、「意志が強い」「信念を曲げない」と言い換えるだけで一気にポジティブなイメージを持たせることができます。このように、言葉の意味の解釈を変換することがリフレーミングには欠かせません。
「内容のリフレーミングの説明でも触れましたが、人の性格は、短所にも長所にもなりえると思っています。『人見知り』など、その単語自体から受けるイメージや、先入観などからマイナスの捉え方をするのではなく、解釈を変更することによって、プラスの受け止め方が可能になります」
リフレーミングノートを活用する
「リフレーミングノート」とは、ノートに元の言葉と、それをポジティブに言い換えた言葉を書き留めたもの。例えば「出しゃばり」という言葉の横に「積極的」と書くように。これには、自分や周囲の人の欠点をポジティブなイメージを持つ言葉に置き換える訓練になり、すぐに言い換えるための語彙力を高める効果があります。
「性格の言い換えなど、内容のリフレーミングにも役立つリフレーミングノートですが、もちろん状況のリフレーミングにも活用できます。嫌な出来事が起こった時は、起こったことだけを客観的に記載してみましょう。
例えば、上司に怒られた時は、『叱られて落ち込んだ』といった感情ではなく、あくまで『こういうミスをして上司に叱られた』という事実のみを書いて、出来事を客観視する練習をしてみてください。自分のミスが原因だとしたら『ミスをしないようにしよう』、理不尽なことで怒られたと感じても『その日は上司の機嫌が悪かったので自分が引き金になってしまったのだろう』など言い換えるようにしてみましょう。その事実から『こういう捉え方もできないかな』と、適宜切り替える練習になります。いきなり考え方を変えるのは難しいですが、日々の練習によって切り替え上手になるはずです」
「ポジティブシンキング」との違いを理解する
リフレーミングノートを使って言い換えをするなかで「これはポジティブシンキングと同じでは?」と思うかもしれません。しかし、リフレーミングとポジティブシンキングには明確な違いがあります。
「もちろん、一部重複するところはありますが、ポジティブシンキングは、起きた状況にかかわらず、物事を楽観的に考えることがメインになります。一方、リフレーミングは、状況や内容を捉え直し、分析に基づいて、マイナスに考え過ぎないという思考法になります」
事実を歪曲しない
自分が悪者にならないよう、起こった出来事を都合良く解釈してしまうのは、人間誰しもやってしまうこと。しかし、リフレーミングでは、それは厳禁。状況をしっかりと受け止めて、自分の非を認めた上で視点を切り替えることが、“強メンタル”獲得にもつながります。
「起こったことをどう解釈するかは、自分のフィルターを通して行われます。上司に怒られた際に、『怒られたのは期待されているからだ』というポジティブシンキングではなく、怒られたという事実をしっかり受け止めた上で、『何が良くなかったのかを振り返ってみよう』や『ミスの再発を防止するにはどうしたらいいのか』というように捉えることが、リフレーミングの本質です」
リフレーミングの具体例・実践方法
さまざまな場面でのリフレーミング実践方法
リフレーミングの概念について理解した後は、実践方法を学びましょう。ビジネスシーンや日常生活で起こりうるさまざまな具体例を、分かりやすく解説します。
【ビジネス編】仕事で失敗をしてしまった時
「多くの人は、ミス自体にどうしても目がいってしまうと思いますが、大切なのは『どうしてミスをしてしまったのか』という分析です。自分が原因だったのか、それ以外に原因があったのか、その辺りを分けて考えた上で、どうしたらそのミスを減らせるかを考えるようにしましょう。
起こったことに対して後悔することは何の得にもなりません。後悔よりも、どうやったら同じことを繰り返さずに済むかが大切です。ミスをしたことによって、『同じミスを繰り返さずに済む』とリフレーミングした後に、状況をきちんと分析して、何が原因だったのかを理解し、会社とも共有することで、次のミスを減らせる。そういった行動が、ビジネス上での成長につながります」
【ビジネス編】同僚、部下、後輩のモチベーションを上げたい時
「相手に対して先入観があると、『あいつは思ったようにやってくれない』『自分はこんなに頑張っているのに正当に評価されない』といった不満を抱くことがあると思います。
リフレーミングで大事なのは、感情から入るのではなく事実から入ることなので、同僚や部下、後輩のモチベーションが低いと感じる時は、『なぜモチベーションが低いのだろう』と考えましょう。もちろん本人自身に原因がある場合もありますが、相手を責める前に『もしかしたら会社の環境がよくないのかもしれない』『自分の態度がよくないのかもしれない』と、リフレーミングによって考え直してみてください。そうすると『もっと働きやすい環境にしよう』『もうちょっとほめて伸ばすようにしよう』というように、別の視点で物事を捉えることができますし、何か話し合いをする際にも、冷静で実りある打ち合わせができるはずです」
【ビジネス編】上司や同僚が苦手なタイプだと感じてしまう時
「誰しも苦手な人は避けたいものですが、仕事で一緒になる場合は避けられないですよね。苦手な相手に対応しなければならない時には、リフレーミングが大いに役立つと思います。リフレーミングによって『苦手な人と話すことで、自分の対人スキルが上がる』と捉えることができます。嫌なことを言われても『今後も、同じような人と出会うかもしれないから、そのための予行演習だと思えばいい』という考え方ができるようになれば、苦手な相手との会話も自分の成長の糧になります」
【日常編】漠然とした不安を感じてしまう時
「不安とは、精神科医としてよく診るシチュエーションではありますが、言葉の定義からも、漠然としていて具体的な対象がないものを言います。リフレーミングで大事なのは、漠然とした不安を具体的な数字に落とし込み、起こりえるかどうかを割合として考えることです。
例えば『大きな災害が起こったらどうしよう』という不安を抱えているのであれば、どのぐらいの確率で起こるのかを調べてみたり、漠然とした不安を具体的な事柄に変えることで、できる限りの備えをして不安を減らすという対応が可能となります。不安を分析して、不安を減らすために何ができるのかを考える。不安を不安のままで宙ぶらりんにせず、その根源をしっかり見極めてください。
そういう時にノートが大事だと思います。『何が不安なんだろう』『具体的に起こる確率は何%だろう』と具体化していくと、不安のぼんやりとしたものがなくなってきて、実はそんなに不安になることではなかったんだと考えられます。不安の中にいる時は周りが見えづらくなっていることが多いと思いますが、今こういう状況で、具体的に何が不安なのかを、周りや自分が気付いてあげることが不安から脱出するきっかけになるはずです」
【日常編】自分の短所(臆病、人見知りなど)に悩んでしまう時
「短所と呼ばれるものは、必ずしもマイナスに捉えずに済むものがほとんどだと思います。リフレーミングノートを参考にして、短所の捉え直しをしてみるといいでしょう。おすすめなのが、自分の短所をほかの人に置き換えてみる作業です。
もし、友達が『自分のこういう性格に悩んでいるんだよね』と言ってきたとすると、『君はこういうところがいいところだから、気にしない方がいいよ』などとフォローするのではないでしょうか。友達がもし同じことで悩んでいた場合、どのようにフォローしてあげるか、といったことを想像してみてください」
【日常編】家族や友人、恋人との関係に悩んでしまう時
「家族や友達、恋人といった気心が知れた相手でも、その人の感情すべてを知ることはできませんよね。相手の行動とか発言に一喜一憂するのではなく、相手の言動と自分を分けて考えることが大事です。
例えば、相手の機嫌が悪い時は『何か嫌なことがあったのかもしれない』、LINEが返ってこない時は『今忙しいのかもしれない』というように、自分ごとにしないことが重要です。相手の感情と自分の感情をしっかりと切り分けて考えることで、身近な人の言動に振り回されなくなると思います。
これも多くの人に当てはまると思いますが、それぞれ自分の中に『常識』と呼ばれる基準があって、無意識に『普通だったら』や『常識的に考えて』と相手に言ってしまいがちです。ですが、それはあくまでも『自分にとっての常識』でしかないんです。他者を自分の枠組みで判断することなく、『そういう人もいるんだ』と受け入れたり、自分にはない価値観を知ることができる機会を楽しむと、より豊かな人生を送ることができると思います」
リフレーミング辞典でポジティブに変換!
ネガティブな印象を受ける言葉も、意味をそのままに別の言葉で表現すると、ポジティブな前向きワードになります。ネガティブな言葉をポジティブな言葉に言い換える“リフレーミング辞典”の例を用意したので、さっそく今日から言い換えてみましょう!
□飽きっぽい→好奇心旺盛
□いいかげん→おおらか
□うるさい、目立ちたがり→にぎやか
□えらそう→自信がある
□おせっかい→親切
□頑固→意志が強い
□気が弱い→柔軟
□口下手、引っ込み思案、弱虫→慎重
□ケチ→節約家
□強引、せっかち→行動力がある
□騒がしい→明るく活発
□しつこい→信念を持っている
□ずうずうしい→フレンドリー
□外面がいい→社交的
□短気、わがまま→自分に素直
□調子に乗りやすい→明るいムードメーカー
□冷たい→クールで知的
□出しゃばり→世話好き
□生意気→自立心旺盛
□根暗→思慮深い
□のんき→心が広い
□八方美人→誰とでも仲良くなれる
□変人→個性的
□負けず嫌い→向上心が強い
□無口→聞きじょうず
□文句が多い→繊細な目を持っている
□優柔不断→さまざまな選択肢にしっかりと向き合う
□冷徹→私情をはさまない
リフレーミングを習得しよう
リフレーミングについて学んだら、あとは実践あるのみ。練習方法を学び、さっそくトライしてみましょう。
日々練習し続けることが大切
「最初に捉えやすいのは、自分に関することだと思うので、リフレーミング辞典を参考に、自分の短所も『こんな風に言い換えられる』ということを学んでみましょう。
対人関係でのリフレーミングは慣れないと難しいと思います。相手の言動に左右されてしまうことが多いので、日々の繰り返しが大事になります。誰かに何か言われたり、周りを気にしてしまうという時は、しっかり客観視して言語化することが大切。起きた出来事と自分の感情を切り分けて記載した上で、起きた出来事から生まれた感情の切り替え方を、少しずつ学びながら習得して行く必要があります。
性格や育った環境、周りの人との付き合い方もそうですが、長年培ってきたものがすぐに激変することはありません。その点を理解した上でリフレーミングを続けることは、今後の生活にプラスにはなるはずです。落ち込んで何もできなかったり、将来に不安を感じることに貴重な時間を使うなんて、もったいないですよね。充実した人生を過ごすという意味でも、リフレーミングを日々行ってみてください。なかなか実践できないという人は、具体例『自分の短所に悩んでしまう時』でもお話ししたように『他人をフォローするならどうするか』をイメージすると始めやすいです」
類語辞典やさまざまな本で視野を広げる
「リフレーミングの習得に役立つおすすめの本は、類語辞典です。ひとつの言葉でも、さまざまな表現方法があることを知ると、リフレーミングに役立つはずです。あとは、どんな本であっても、自分にはない考え方を知ることで、広い視野を得ることができるはずです」
さまざまな事柄を多角的に捉え、前向きに考える生活&仕事術ともいえるリフレーミング。自分自身をまるごと受け入れる手助けにもなるこのポジティブ思考法を、人間関係のみならず、日常生活や仕事にも取り入れて、毎日を前向きに過ごしましょう。
(取材/執筆 中村実香)