モチベーション

モチベーションを上げるコツとは?組織マネジメントのプロが解説!意欲を向上させる人材育成術

モチベーションを上げるコツとは?組織マネジメントのプロが解説!意欲を向上させる人材育成術

 社員一人ひとりのモチベーションは、組織の活性化や業績アップをもたらすと言われています。しかし、現場でどう実践すればいいのかよくわからないという声も少なくありません。そこで、人材育成や現場マネジメントの専門家である安孫子薫さんに、社員のモチベーションを高めるコツや組織力向上につなげる方法などを教えていただきました。

{ 目次 }

モチベーションとは
外発的動機付け
内発的動機付け
モチベーションの重要性やメリット
モチベーションが下がる原因と上げる方法
モチベーションが下がる原因・理由は?
低下したモチベーションを上げる方法
モチベーションが高い状態を保つ方法
業績アップにつながる! チームのモチベーションを上げるアプローチ
部下のやる気を引き出す指導方法・仕組み
6つのキーポイントは個人の生き方の目標設定にも有効
実は部下のやる気を削いでしまうNGな声掛け・行動
モチベーションアップにつながったマネジメント事例紹介
事例1. 仕事の「価値」を変える
事例2. 適性を見極め配置転換
事例3. 思い切ってチームを再構築

監修者・安孫子 薫(あびこ かおる)さんプロフィール

株式会社チャックスファミリー 代表取締役・安孫子薫
株式会社チャックスファミリー 代表取締役・安孫子薫KADOKAWA SEMINAR(C)

1951年、山形県生まれ。株式会社チャックスファミリー代表取締役。1982年株式会社オリエンタルランドに入社。東京ディズニーランドと東京ディズニーシーの「美観の追求」「ゴミ減量化」「安全確保」「アトラクション運営」「ゲストサービス」「広告戦略」など、すべてのパーク運営課題に取り組み、現場での指揮を執る。2007年には1年間キッザニア東京副総支配人として、運営全般の基盤整備と従業員指導を行い施設の基礎を築く。現在は株式会社チャックスファミリーを設立し、「クレンリネス(清潔さを維持すること)はホスピタリティの原点」を掲げ、各種企業、商業施設、飲食、清掃関連企業、テーマパーク、レジャー施設などのコンサルティングを行う。オリエンタルランドでの経験を基に、掃除と片づけ、CX(顧客体験価値)/EX(従業員体験価値)、人材育成、現場力向上、現場マネジメント、ブランディング、 子育てなどをテーマに講演している。
≫安孫子さんの過去講演など詳細はコチラ

モチベーションとは

 そもそもモチベーションが上がるとはどのような状態で、企業にとって社員のモチベーションアップがなぜ重要なのでしょうか。まずは、その意味合いや重要性などを知っておきましょう。

 「ビジネスシーンや日常生活でよく用いられているモチベーションの意味として、よく言われるのは『動機付け』ですが、『意欲』や『やる気』という言葉で表した方が、モチベーションの意味がわかりやすくなると思います。例えば『楽しく仕事をするための意欲』や『楽しく生きるためのやる気』がモチベーションと考えたら、前向きな感じになりますよね」(安孫子さん)

外発的動機付け

 「モチベーションには『外発的動機付け』と『内発的動機付け』の2種類があります。外発的動機付けは、報酬や懲罰といった外部からの要因で左右されるモチベーションです。例えば『目標を達成したら昇給・昇格する』『目標をクリアしないとペナルティがある』などです。外発的動機付けは、短期的にはモチベーションを高める効果を期待できますが、長期にわたりモチベーションを維持するのは難しいと考えられています」

 また、モチベーションとは何かを心理学で考える時によく取り上げられるのが、アメリカの心理学者エドワード・デシが提唱した「動機付け理論」です。この理論の裏付けとなった有名な実験があります。被験者を2グループに分けて、1つのグループには「達成した場合報酬を与える」、もう一方には「達成しても報酬はない」と伝え、立体パズルに挑戦させ、その後、自由時間を与えるとどうなるかというもの。結果として、報酬を受け取れるという外発的な動機が与えられたグループよりも、報酬を受け取れないグループのほうが、自由時間になってもパズルに取り組んだ時間が多かったのです。報酬を受け取れないグループは、パズルに取り組む「面白さ」から「もっとやりたい」という内側から起こる動機付けによって長期的にパズルに取り組めました。反対に、報酬という外発的動機付けが与えられたグループは、「パズルをとくのが面白い」という内面から沸き起こるモチベーションが外発的動機(報酬)によって傷付けられてしまったのです。この研究により、外発的動機付けを強める要因があるとモチベーションは下がってしまうこと(アンダーマイニング効果)が明らかにされました。

内発的動機付け

 「一方、内発的動機付けは、自分の心の中から湧き出た意欲が要因となっているモチベーションです。給料が上がるというメリットがあるから努力するのではなく、『この仕事が好きだから努力したい』『チームのために力になりたい』と思うことが内発的動機付けになります。そして、組織において社員に成果を期待するのであれば、個々の内発的動機付けを引き出すことが重要になってきます」

モチベーションの重要性やメリット

 「モチベーションが高いとは『意欲』がある状態ですから、仕事に能動的に取り組むようになります。パフォーマンスは自然と向上していき、それに伴い今まで以上の成果を上げることが期待できます。つまり、社員一人ひとりがモチベーションを高めることは、企業の業績アップと深く関わってきます。それほど、企業活動にとって重要なものなのです」

モチベーションが下がる原因と上げる方法

 重要だからと言って、やみくもに頑張ることを促すのは得策ではありません。長続きしないうえ、逆効果になる可能性もあるからです。チームをマネジメントするうえで、社員や部下のモチベーションが下がっていると感じた時、どうすればそれを高めることができるのか、ここからは効果的な方法を見ていきます。

モチベーションが下がる原因・理由は?

 「モチベーションが下がる原因として、『今の業務は向いていない』『上司やまわりとの人間関係に悩んでいる』『自分は正当に評価されていない』などが挙げられます。仕事、人間関係、待遇などジャンルを分けられるとはいえ、モチベーションが下がる原因は人によって違います。まずは部下をきちんと観察し、モチベーションが下がっている個々の理由をきちんと知ることがマネジメントでは重要になります」

低下したモチベーションを上げる方法

 「モチベーションが下がってしまうと、『このままではいけない』『頑張らなければいけないのに、できない自分はダメだ』などと自責の念を抱くようにもなります。そこで、モチベーションを上げるために有効なのが『プラスのストローク』です。プラスのストロークは心理学用語で、笑顔やスキンシップ、褒め言葉といった人との前向きな触れ合いのことです。難しく考えず、まずはあいさつからでかまいません。笑顔で明るく『おはようございます!』『どう最近、元気?』と声をかけることから始めてみましょう。人には『大切にされたい』『自分を見てほしい』という願望や欲求があり、声をかけられるだけでうれしいものです。

 マネジメントではコミュニケーションが重要で、モチベーションが下がった部下に対しては特に『1on1(上司と部下が1対1で行う定期的な面談)』が効果を発揮します。ですが、部下と普段からあまりコミュニケーションを取れずに信頼関係が構築されていないと、『最近、やる気がないみたいだけど、悩みでもあるのか?』と問いかけても本音を打ち明けてくれないかもしれません。そうしたケースでも、プラスのストロークの積み重ねが信頼関係を築くことにつながっていきます」

 また、リモートワークが定着化している昨今のビジネス環境では、社内SNSでの声かけが大切だと言います。

 「例えば『おはよう。最近、連絡を取っていないけど元気?』『今度、リモートでランチしませんか?』『リモートでお茶しながら一緒に休憩しようか』といった雑談でかまいません。そこから人間関係が深まるでしょうから、リモートワークの時間が増えている今こそ必要だと思います。とはいえ、マネジメントでは部下の観察・チェックが重要であることを雑談する際などにも忘れないようにしましょう」

モチベーションが高い状態を保つ方法

 「モチベーションが高い人に対しても、声がけは重要です。この場合、頑張っていることや成果に対して感謝の気持ちを伝えるといいでしょう。例えば『ありがとう!』といった感謝の言葉をかけるだけでも、モチベーションを保つのに効果的です」

 安孫子さん自身がモチベーションを維持するために実践しているのは、1日1回、自分と向き合う時間を持つことだそうです。

 「5分でもいいので、習慣化することが大事です。今日の出来事を振り返り、『自分で、コントロールできること・コントロールできないこと』の仕分けを行うのです。例えば、上司と相性が悪いと感じることがあった場合、相手がどう思っているかはコントロールできませんから『できないこと』の方に仕分けられます。そうすれば、『できないこと』であれこれ悩むのは時間の無駄だと自覚できます。
自分にとって仕事のモチベーションとは何だろうと考えてみるとそれは仕事のおもしろさだったりしますが、モチベーションが下がるきっかけは仕事そのものではなく人間関係に起因することはよくあります。『嫌だ』『つらい』といった負の感情を放っておくとモチベーションが下がる要因になりかねないので、日々の振り返りで小さいうちに芽を摘んでおきましょう」

業績アップにつながる! チームのモチベーションを上げるアプローチ

組織においてモチベーションを上げるために有効なのが「6つのキーポイント」です。どのように実行していくのかを詳しく紹介します。

部下のやる気を引き出す指導方法・仕組み

 「6つのキーポイントを簡単に言うと、『1.ビジョン・2.ミッション・3.行動指針・4.教育・5.マネジメント・6. EX(従業員体験価値)』です。そしてこの6つをベースに仕組み化します。仕組み化されていれば、モチベーションが下がってしまった人に対して組織的支援を適切に行うことが可能になります」

【組織におけるモチベーションを上げる6つのキーポイント】
キーポイント1 ビジョンを掲げる
キーポイント2 ビジョンを達成するためのミッションを掲げる
キーポイント3 ミッションを遂行するための行動指針を示す
キーポイント4 共有できるように教育する
キーポイント5 共有したことをマネジメントする
キーポイント6 職場環境を整え、EX(従業員体験価値)を高める

 「まずキーポイント1で、組織のメンバーがわかりやすいようにビジョン(企業がこの先実現したいこと)を明確にします。次のキーポイント2では、そのビジョンを達成するには何をすればいいのかというミッションを明確にします。そしてキーポイント3で、ミッションを遂行するための行動指針を明確に示します。一般的にはここまでというケースがほとんどですが、それでは日常業務の中で仕組みを発揮できず、当然のことながら成果を生み出すこともできません。
 そこで次に実践すべきなのが、キーポイント4の教育です。組織のメンバー全員がキーポイント1〜3を共有できるように教育するのです。さらに、全員が実行できるようにするには、共有しただけで終わらず、共有したことをマネジメントするキーポイント5が必要となります。
 そして最後がキーポイント6のEX(従業員体験価値)です。働く喜びを感じられるような職場環境に整えることは社員のモチベーションを高めることにつながります。
6つのキーポイントを実行する際には、上司から部下に投げかけるだけにならないよう、マネジメントの立場にある人自身が、自ら目標・目的を掲げてレベルアップしていくことが大切です」

6つのキーポイントは個人の生き方の目標設定にも有効

 6つのキーポイントは、仕事のモチベーションとは別に「個人の生き方のモチベーションアップ」にも応用できます。

【個人がモチベーションを上げる6つのキーポイント】
キーポイント1 ビジョン→将来のあるべき姿を持つ 
キーポイント2 ミッション→あるべき姿を達成する方法
キーポイント3 行動指針→その方法を実現する行動
キーポイント4 教育→「学び」「気付き」
キーポイント5 マネジメント→セルフマネジメント
キーポイント6 EX(従業員体験価値)→息抜き

 「個人の生き方にもモチベーションはとても重要です。個人の場合、キーポイント1のビジョンは『将来のあるべき姿を持つ』という目標・目的になります。必ずしも明確である必要はなく、ぼんやりとでもいいので『20年後になったらどんな働き方をしたいか』などの将来像を描いてみましょう。次のキーポイント2では将来のあるべき姿をどうやって達成してくのかを考え、キーポイント3では具体的にどう行動するかを考えます。
 キーポイント4の『教育』は、自分自身のことですから『学び』であり『気付き』を意味します。例えば、あるべき姿を実現するために自己投資を始めたり、人間関係を築いたりすることです。キーポイント5のマネジメントは、セルフマネジメントを意味します。自分と向き合う時間を持つことでコントロールできること・できないことを仕分けしたり修正したりと、心を整えます。
 最後のEX(従業員体験価値)は、個人の場合は『息抜き』になります。人生、まじめに頑張ってばかりでは疲れてしまいます。心身の環境を整えるには息抜きは不可欠ですから、リラックスできる時間を意識して持つことはとても大切です」

実は部下のやる気を削いでしまうNGな声掛け・行動

 「つい言ってしまいがちなのが『頑張れ!』という言葉です。応援したい気持ちから出る言葉だとは思いますが、言われた側は『今のままではダメということか』と受け止めたり、強いプレッシャーを感じてしまう可能性もあります。
また、パワハラ、セクハラ、モラハラといったハラスメント的発言はもちろんNGですが、自分がイライラしていると、つい厳しい口調になったりするものです。多忙を極めるマネジメントに携わる人こそ、前述した『1日1回、自分と向き合う時間』を習慣化し、自分自身を常に良い状態にリセットしておきましょう」

モチベーションアップにつながったマネジメント事例紹介

 社員のモチベーションを高めることに成功した事例を紹介します。現場で取り組む際の参考にしてみてください。

事例1. 仕事の「価値」を変える

 「ある企業の掃除部門は人気のない職場で、メンバーのモチベーションがとても低い状態でした。そこで掃除部門のマネジャーは、黙々と作業するだけで周囲から評価される機会もほとんどない『掃除の仕事』を『ホスピタリティを提供する仕事』へと、仕事の価値そのものを変えてみることにしたのです。結果、ホスピタリティを意識して行動するようになったことでお客様から感謝されるという反応が得られるようになり、メンバーのモチベーションは驚くほど向上しました」

事例2. 適性を見極め配置転換

 「それまでの実績を評価され、チームリーダーに昇格したAさん。ところが、実際に携わってみると、マネジメント業務が苦手でモチベーションがどんどん下がっていきました。Aさんの上司はAさんと1対1で話し合ったところ、コツコツ型のAさんにはエキスパート的な仕事が向いていると感じ、Aさん本人も専門性を極める働き方を望んでいることがわかりました。そして、同じ部内でもエキスパートとして業務に携わることができる分野へとAさんは異動。その後、Aさんはその分野で専門性を極め、現在は会社からも一目置かれる貴重な人材となっています」

事例3. 思い切ってチームを再構築

 「特殊な専門知識を有するチームの新任マネジャーは、『このチームは守りに入って新しいアイデアが出なくなっている』と気付きました。これまでの成功体験を持つベテランに遠慮して、新しく入ってきた人たちが意見を言えない環境だったのです。それが顧客のためになっているかと言えばそうではなく、スタッフの自己都合だと感じました。そこで決断したのが、組織の再構築です。長く同じ業務に携わっていた人たちを配置転換したので反発も大きかったのですが、結果、平等でオープンな組織になってチームは活性化。新旧のメンバー問わず、モチベーションが高い集団へと生まれ変わりました」

 高いモチベーションを維持できる仕組みをつくることは、組織力や現場力の活性化をもたらします。しかし、モチベーションがもたらす効果はそれだけではありません。そこで働く個々の働き方や生き方を、豊かにすることにつながっていくのです。

(取材/執筆 嶋崎千秋)

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