「普通は、尊い。」発達障害の借金玉氏が語る“仕事論”が深い!
発達障害者ライフハックブログ「発達障害就労日誌」で人気を博し、著書『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』が大ヒット中の借金玉氏。大企業サラリーマン→企業→営業マンを経験した氏が、「発達障害と仕事」について語ります。
※本稿は、2019年5月24日開催のKADOKAWAビジネスセミナー「発達障害と仕事――『上司』ができない問題」(講師:借金玉)の一部を再編集したものです。
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こんにちは。僕も33歳になりました。なのにいまだに借金玉という名前で仕事しているという……(笑)。一人経営者というか、ほぼフリーランスです。つまり、サラリーマンではありません。
というか、今の僕にサラリーマンは無理。Twitterに現れているより、はるかに破滅的な状況です(笑) 。
そもそも、僕は普通に生活をやってくのさえ困難な人です。社会は水道光熱費を払える人を基準に設計されています。しかし、僕は無理。
たとえば、文章書くことがお仕事なのですが、それにはメールで連絡をとったりすることも必要です。でも、どうしてもメールが返せない時もあります。
あとは、原稿の締め切りを守れないとか、違う納品先に送っちゃいそうになるとか……そりゃあ破綻しますよね。
じゃあどうやっていくのか?ということです。
僕も破綻から決して抜け出せてはいませんが、「サラリーマンを辞めてどうやって生きてく?」あるいは「僕たちが先輩や上司になってしまった時どうする?」ということについて、僕が転びながら学んだことをお伝えします。
発達障害者は起業向き、の実際は?
たまにマンボウが生き残って「マンボウ最強!」と言っているような人がいますが、単なる生存バイアスだと思うんですよ。
ごく稀に本当に強いというか、オンリーワンな能力を持っている人が、粗相をしても許されて活躍している場合がありますが、それを目指すのは非現実的です。
自分や周りのことを振り返ってみてください。
何か粗相をして、本人が「やめる!」と息巻いたところで、慰留されるどころか「やっと辞めてくれるか」と言われるのが関の山ですよね。
やらかしてもやらかしても許される人を目指すのは、あまりに厳しい。
最近ではファーストペンギン、というのでしょうか。死ぬこと以外はかすり傷と言わんばかりに、無謀にも未開拓のビジネスにほぼ気合だけ、無計画で飛び込む人がいます。
ただ、そういう試みは、だいたい地面に落ちて汚い花火で終わることが多いですね。実際、大きくコケると後が大変です。ちゃんと手当が必要だと思います。
死ぬこと以外かすり傷、ではなく、破傷風です。
起業してみて…実はこんなことでもコケる!
僕が実際、起業して困っていることを挙げてみると、まず事務というものができないです。スケジュール管理も、メールなどの業務連絡も苦手です。致命的に。
起業にはビジョンが大事だと言う人がいます。
聞いた話ですが、誰かを起業させようと思ったら、その人をGoogleの食堂に連れていって、「これがビジョンだよ」と言うと、大抵の人が起業するそうです(笑)。
でも実際は、ビジョンよりもその辺縁を固める事務とか、実際のお客さんを連れてくる営業とかが大事です。
起業して上手くいくかどうかは、実は本業スキルと関係ない!
請求書出さない、うっかり不渡り、メール返さない……で死んでしまうことが頻繁にありえます。
サバイバーと呼ばれる人たちがいます。大きくは2タイプ。
①本業スキルが異様に高い
②本業スキルは標準だけど、それ以外のことがバッチリできる
①は目立つのですが、実際は稀有です。しかも、それを支える人たちがついてくるから成り立つんです。
実際は、②がほとんどではないでしょうか。
起業するなら前提として考えることは?
起業してなんでもやろうとしようとすると、破滅します。
個人事業主は、超ヒマか超忙しいかです。
で、どっちでも死ぬんです。一人の人間のバッファって、実は想像以上に少ない。起業家も過労死します。
正直言います。実は僕、バンバン外注さんをお願いしています。リライト・取材・原稿編集とか。というか、そうしないと回りません。
コアを削り出して、何を外に出すか決めないと死にます。自分のできる仕事を削り出して、パワーの範囲の中に収めないと……。
自分が倒れたら、誰も書いてくれないし、そうなったら忘れ去られてしまう世界だからです。
自分の場合、強みは企画なんですよね。
だから最近は、頑張ろう、スケジューリングなんとかしようの前に、何を人に頼めるか? を考えています。
もし起業を考えているなら、かつての僕のような轍(てつ)を踏まないように、自分のできるところを突き詰めて切り詰めて、それ以外を外注・移管することを前提に考えて欲しいですね。
事務と営業だけは絶対に無料にならない!!
では何を任せるか? ですが、真っ先に自分の仕事を誰かにやってもらおうと思ったら、営業と事務ですね。大事、根幹です。
お金が動くところに事務は必ず必要ですし、自分の強みをわかって、まっとうな形で売り込んでくれる営業も必要なんです。
今は来た仕事を順番にやっていますが、よく考えると単価と労働量が見合わないんですね。なんとかしないといけないのですが。
ところが、こういう汎用技能(事務・営業)は他人に頼みにくい、落ちていないんです。いてくれたら本当に助かるんですけど。
一度、借金玉業の執筆以外、すべてを外注することを考えてみたんですが……それは年収1000万円ならできる、ということがわかりました。そんなこと出来るヤツ、落ちてたら苦労しませんね。
さらに言うと、総合職はもっと見つかりませんね。「あとはよろしく、やっといて」って言ってみたいです。
それに対して、意外に思われるかも知れませんが、お任せできる専門技能は外注しやすいんですよ。
たとえば、リライト、本の出版社でいうと、アンカーマンと呼ばれてる人もそうです。ニュアンスを変えずに文章を整える仕事で、僕の文章もその方を通すと、質が上がっているんです。
編集者から戻ってきた気が遠くなりそうな真っ赤な文章を直して、足りないところは加筆をリクエストしてくれる。ほんとうに楽です! こういう人は、フリーであちこちの出版社に囲われていたりします。
また、Twitterには野良弁護士や野良会計士がたくさんいますね。
実は、営業や事務といった、特殊じゃない技能の方が大事です。
逆にいうと、それ以外の能力って、意外にタダで落ちていたりするんです。
結局何をやるにしても大事な人間関係のコツ
人間関係をどううまくやっていくかは、大事だけどむずかしい問題ですよね。
自分は「借金玉」として認知されて、かつ今はそこそこいい年齢なので、それで許されているところがありますが、若い頃は散々でした。
特に、ADHDの人にとっては難しい問題ですが、僕はかつて、同じようにADHDの社長さんにこう言われて救われました。
「仕事をしている時に人間はいない」
つまり、仕事している時は嫌われているかどうかは気にせず、仕事のこと、そのプロセスや成果のみにフォーカスしろってことです。
現実的に、100%成功する人間関係はないですし、100%人間関係が成功している人もいません。
もしも嫌われたくない人に嫌われてしまったら、経験が一つ増えたと思うしかないんですよ。最悪、国税以外は嫌われてもOKです(笑)。
その社長さんは、人間の付き合いの優先度のリストを作っていましたし、そういう気質の経営者は多いです。
ま、嫌われてもしょうがないと思うようにすることですね。
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僕が一番伝えたいことは、普段サラリーマン・ウーマンの皆さんの多くがされている事務や営業という仕事、普通と呼ばれる仕事は本当に尊い、ということです。
そして、会社という環境で仕事をされていることは悪くない。「社畜」という言葉はいかがなものかと思うわけです。
間違っても、ビジョンをぶち上げて無謀に飛んでいかないで欲しいです。今の仕事を大事に、未来につなげてほしい。
頑張って楽しく生きていきましょう。
語り:借金玉、構成:塚田 紘一
【プロフィール】借金玉(しゃっきんだま)
1985年生まれ。診断はADHD(注意欠如・多動症)の発達障害者。幼少期から社会適応がまったくできず、登校拒否落第寸前などを繰り返しつつ、ギリギリ高校までは卒業。色々ありながらも早稲田大学を卒業した後、何かの間違いできちんとした金融機関に就職。まったく仕事ができず逃走の後、一発逆転を狙って起業。一時は調子に乗るも、昇った角度で落ちる大失敗。その後は1年かけて「うつの底」からはい出し、現在は営業マンとして働く。著書に『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』(KADOKAWA)がある。
■Blog:「発達障害就労日誌」
■Twitter:@syakkin_dama
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