コーチングとは? ビジネスにおけるメリットと効果的なやり方を解説
部下の仕事のパフォーマンスやチームワークを向上させるやり方として、昨今注目を集めている「コーチング」。質問を重ねながら相手の内面にある「答え」を引き出すコミュニケーション手法ですが、その効果的なやり方がわからないという方は多いのではないでしょうか。今回は、これからコーチングのスキルを身に付けたいと考えているビジネスパーソンのために、キャリア&人間関係コーチのずんずんさんから、コーチングの重要性や最適な行い方などをお伺いしました。
{ 目次 }
- コーチングとは? 重要性やメリットを解説
- 人が心の中に持つ「力」や「答え」を質問や問いかけによって導き出す
- 仕事のパフォーマンスやチームワークの向上に効果的
- 部下の成長を促すことができる
- コーチングを行うデメリットやリスク
- コーチングの効果的なやり方
- 課題や現状を把握する機会を設け、目標を明確化する
- 実際に行動できるように、計画を立てる
- 目標設定後も継続的にフォローする
- コーチングでやってはいけないこと
- コーチングに必要な5つのスキル
- 傾聴するスキル
- 承認(評価)するスキル
- 質問するスキル
- 説明するスキル
- コミュニケーションスキル
- コーチングの学び方
- 講座やセミナーを活用する
- 自分自身がコーチングを受ける
- 資格を取得する過程で自分のコーチングスキルを確認する
監修者・ずんずんさんプロフィール
元プロ外資系OL。著述家、キャリア&人間関係コーチ。大学卒業後、埼玉県にある日系事業会社に就職。激務の果てに「死ぬ前に丸の内OLになりたい」と転職活動を開始、ラッキーパンチで外資系投資銀行に採用される。その後「わい海外で働きたいねん」とカッとなり、シンガポールでグローバルIT企業の日本とアジア財務担当者として勤務し、数々のグローバルエリートと共に働く。在職中より、ブログや書籍の執筆、東洋経済オンラインやダイヤモンドオンライン等に記事を連載。その傍らコーチングを学び、現在は日本でキャリア&人間関係についてのコーチとして1000人以上のビジネスパーソンに恐怖を乗り越え行動する勇気をあたえるコーチングを行っている。
>>ずんずんさんの過去講演など詳細はコチラ
コーチングとは? 重要性やメリットを解説
人が心の中に持つ「力」や「答え」を質問や問いかけによって導き出す
コーチングとは、「質問や問いかけによって、その人が心の中に持つ力や可能性を見いだし、課題解決への答えを導き出す思考をサポートする」こと。コーチングを受ける人・クライアントの立場で簡単に言うと、コーチングとは質問を通じて自分の中の本当の問題に気付き、その解決策を自分で策定していくプロセスです。一方、コーチングをする人の立場で言うと、クライアントの気付きをサポートするプロセスでもあるわけです。
コーチという言葉からは、スポーツの指導者が選手を教えるなど、習熟度の高い人が低い人を指導するイメージがありますが、それは答えを与えるティーチングという指導方法です。一方、コーチングは、答えを与えるのではなく、「答えはその人の中にある」という考えのもと、その答えを引き出せるようサポートします。
仕事のパフォーマンスやチームワークの向上に効果的
コーチングの考え方を理解したうえで、まずはビジネスシーンでコーチングがいかに重要かを聞きました。ずんずんさんによると、仕事のパフォーマンスの向上から組織設計に至るまで、さまざまな点で効果的だと言います。
「コーチングは、会社内のチームワークや部下のパフォーマンスの向上、そして、組織設計など、ビジネスにおけるさまざまなシーンで有効です。
人はどんなにアドバイスを聞いても、自分が納得しないとなかなか行動しません。コーチングによって部下が本当に望んでいるが何かを上司は把握し、それをもとにフィットする仕事を与えることで、部下は主体性をもって自発的に仕事に取り組むようになります。コーチングによってコミュニケーションもスムーズになり、チームもより良い方向へ進んでいきます」(ずんずんさん・以下同)
部下の成長を促すことができる
「部下の成長を促すことができるというのが、ビジネスシーンにおけるコーチングの大きなメリットです。コーチングを行うことで、部下が本当は何がやりたいのかを上司は知ることができ、また、何か問題が起きたらその原因を部下自身で気付くことを促し、自らの力で解決させることができるようになります」
コーチングを行うデメリットやリスク
部下やチームのパフォーマンス向上などのメリットがあるコーチングですが、一方でデメリットやリスクも存在します。
「コーチングは、部下やチームのニーズに合わせたカスタマイズされたアプローチが必要であり、それには多くの時間とエネルギーが必要です。このため、コーチングに時間とエネルギーを費やすことで、他の業務に充てることができない可能性があります」
コーチングの効果的なやり方
ただ話を聞くだけでは、コーチングはうまくいきません。部下やチーム内でのコミュニケーション力を高めて、最善のコーチングを行うにはどうしたらいいのか、基本的なやり方とそのポイントを聞きました。
課題や現状を把握する機会を設け、目標を明確化する
「ある課題に対して、『どうしてこうなったと思う?』『どうしたらいいと思う?』というように、まずは質問を通してコミュニケーションを行い、本人に現状を把握させていきます。その機会を作るところから始めましょう。
そのうえで、部下が本当に実現したいことや求めていることを把握します。その後、互いに目標の共通認識を持つことが必要です」
ここで、ずんずんさんから課題や現状を把握するきっかけとなるコーチングの進め方の例を教えてもらいました。ぜひ、参考にしてみてください。
<参考事例>
あなたはマネージャーで、部下の一人は非常にまじめできちんとした性格をしていますが、仕事が遅く深夜まで残業しています。あなたは「遅くまで残業しないように。仕事が溜まっていたら助けを求めるように」と指示していますが、部下は中々残業をやめません。そこであなたは部下にコーチングを行うことにしました。
==================
上司:「いつも夜遅くまでがんばってくれてありがとう。君のがんばりは十分に理解しているけれど、私の方としてはこの状況が続くのはよくないことだと考えている。君はどう思う?」
部下:「そうですね……自分としても早く帰りたいと思ってるんですが……」
上司:「君だけでなく、チーム全体として残業時間を減らして、余裕がある状態にしたいと考えているんだけど、どうかな?」
部下:「はい……」
上司:「そこで、君の業務で時間がかかりすぎていると考えている仕事はあるかな? できれば教えてほしいんだ」
部下:「もう何から手を付けていいかわからなくて……」
上司「じゃあそこから一緒に考えていこうか」
部下「でも、全部自分でやった方がいいんじゃないかって……そんな風に思っているんです」
上司「なるほど。全部自分でやった方がいいと思ってるんだね。でもそんな必要はないとしたらどう思う?」
部下「そうですね……できるなら助けてほしいです。定時で帰っている人もいますし……」
==================
部下は「仕事を全部自分でやった方がいい」と考え、上司は「残業時間を減らしてほしい」と考えています。ここに対立構造や課題が生まれていることが分かると思います。この解決策をコーチングによって考えていくことが必要になります。
実際に行動できるように、計画を立てる
「現状と目標のギャップを把握したあとは、そのギャップを埋めるためにどのような行動ができるのかを考えていきます。上司は質問を通じて、『行動の障害は何なのか』『その解決策は何なのか』を考えさせ、解決策を具体化し、実行するための準備をしていきます
ここで大事なのが、計画を立てること。先ほどのケースで見ていきましょう」
==================
上司「チーム全体でやっていくとしたら君は何をすべきだと思う?」
部下「まずはどんなタスクがあるのか、洗い出しをして、そして、それぞれのタスクがどのぐらい時間がかかっているのかも考えて、他の人に手伝ってもらえそうなものはないか、システムなどで改善できないかをみんなでミーティングしたいです」
上司「素晴らしいね! じゃあやっていこう!」
==================
目標設定後も継続的にフォローする
「目標を明確化し、達成のための計画を立てたあとは、その計画が滞りなく進行しているのか、あるいは、目標に変化はないのかなど、継続的に確認することも重要です。そのためにはフォローアップのスケジュールを設定し、部下の進捗状況を確認することが大切です。部下がコーチングで決めた解決策を実行しているかどうか確認することで、改善すべき点を把握し、さらに適切なアドバイスを行うことができます」
コーチングでやってはいけないこと
「いきなりアドバイスをしてはいけません。『これはこういう風にやったらいいよ』と、親切心から解決方法などを言ってしまう上司が多いのですが、コーチングではこれをやると部下は成長しません。質問を投げ掛けながら自分で考えさせて、その中でアドバイスを求められたら初めてアドバイスをするというやり方が最適です」
コーチングに必要な5つのスキル
コーチングの効果的なやり方を学んだところで、次に知っておきたいのは、コーチングを行うのに必要なスキルです。正しくコーチングを行うにはさまざまなスキルが求められますが、なかでも重要なスキルを5つ教えてもらいました。
1.傾聴するスキル
2.承認(評価)するスキル
3.質問するスキル
4.説明するスキル
5.コミュニケーションスキル
傾聴するスキル
「自分が正しいと思うことを押し付けるのではなく、部下自身の思いを聞いて、部下が最善の解決策を見つけられるようにすることです。この『きちんと聞く』ということが、良好な信頼関係を構築していきますし、コーチングではとても大切なことです」
承認(評価)するスキル
「部下が思いを話してくれたら、まず『そうだね。話をしてくれてありがとう』と認めてあげることが大切です。また、直面している課題への向き合い方については、それを適切に評価することが必要になります。人間は自分を認めてくれる人には心を開きやすくなるため、心の中にある答えを導き出すには大切なスキルです」
質問するスキル
「話を聞いたら、『本当にそれでいいの?』など、部下が自らを見つめ直すような質問をすることも大事です。当事者が見落としていることを気付かせるための質問力が、ここでは重要になってきます。質問をすることで、『自分のこの考えは違うのかな?』と再考をすることを促します」
説明するスキル
「人は自分のことを客観的に見るのは難しいので、自分の考えや思いを話そうとすると、支離滅裂なことを言ってしまうことがあります。もし自分が部下をコーチングをしているとき、部下がそのような状態になっても、しっかり相手の話や言葉を聞き、『つまり、こういうこと?』と整理・説明する力も必要になります」
コミュニケーションスキル
「コーチングを行う際に重要なことは、常にフラットな気持ちで、感情に左右されずに、相手の気持ちを受け入れることです。また、人をマネジメントする立場でコーチングを行うなら、相手が自分に心を開いてくれるように、常日頃から良好な信頼関係を築くことが大事です。そういった幅広い意味でのコミュニケーションスキルも、コーチングには欠かせません」
コーチングの学び方
コーチングに必要なスキルは簡単に身に付けられるものではありません。ここからは、コーチングのスキルを向上させる方法を紹介します。
講座やセミナーを活用する
「コーチングを効率よく学ぶためには、さまざまな会社や団体が主催しているコーチング講座やセミナーを受講することがおすすめです。例えば、コーチングの普及・発展を目的とした団体『日本コーチ連盟』では、コーチング技能養成校『コーチアカデミー(R)』を運営しており、2002年の開校以来、数多くの修了生を輩出しています。理論や考え方は独学できますが、実践方法や具体的な手法を身に付けるには、さまざまな事例を交えて解説してくれるプロの指導が最適です」
「コーチング」に強いカドセミの講師一覧はコチラ
自分自身がコーチングを受ける
「コーチングのやり方がわかっただけでは、実際に効果的なコーチングを行うことは難しいです。まずは自分がコーチングを受ける立場になることも、スキルを高める方法のひとつです。自分がクライアントとしてコーチングを依頼する、あるいは、先ほど紹介したように講座やセミナーを受講して、プロからのコーチングを受けてみることがおすすめです」
資格を取得する過程で自分のコーチングスキルを確認する
「ICF(International Coach Federation=国際コーチ連盟)が主催するコーチングの試験があります。コーチングの歴史と概要、活用方法や成功事例、コーチングを受ける人に合わせた個別対応力など、コーチングスキル習得に必要なカリキュラムを受講します。そのあと試験に合格すると、認定コーチの資格を取得できます。日本の場合、コーチングを行う際にこの資格の有無はそこまで重要視されていません。ですが、受験することによって、自分のコーチングスキルがどのくらいなのかを確かめることができます」
ここまで、コーチングのコツや必要なスキルなどを学んできました。相手の話をよく聞き、受け入れ、そして的確な質問をすることで、相手に問題点や本当にやりたいことを気付かせる。そしてコーチングする人も、大らかな気持ちで素直に話を聞くという、総合的な人間力が求められるということがわかりました。効果的なコーチングができれば、部下や社内のチーム全体が必ずいい方向に向かうので、コーチングスキルを磨き、積極的に実践していってください。
(取材/執筆 瀧本充広)