プロジェクトマネジメントとは?必要なスキルや成功の秘訣を解説
ビジネスにおいて、特定の目標を達成したり、新規事業を成功させるためには、プロジェクトを組んで業務を遂行していくことが必要不可欠となります。またプロジェクトにおいて、関わるスタッフをまとめて、一つの目標に向かって仕事を円滑に進めるためにはプロジェクトマネジメントの存在が重要です。そこで今回、株式会社良品計画の執行役員であり、これまでに政府や自治体のコンサルティングなども経験されてきたビジネスのプロ、長田英知さんにインタビューを実施。プロジェクトマネジメントの必要性や、マネージャーに必要なスキルなどを教えていただきました。
{ 目次 }
- プロジェクトマネジメントとは?
- ビジネスにおけるプロジェクトとは?
- プロジェクトマネジメントの目的
- プロジェクトマネージャーの役割
- 成功させるためのポイントと必要なスキルとは
- 目標を設定する
- 円滑な進行を可能にする「プロセス・マネジメント」
- 問題解決を可能にする「コミュニケーション・マネジメント」
- 自発的な行動を促す「モチベーション・マネジメント」
- スキルの磨き方&役立つ資格について
- 研修・セミナーへの参加や、参考書で知識を身に付ける
- プロジェクトマネジメントに役立つ資格
- 実践を繰り返して、プロジェクトマネジメントに取り組もう
監修者・長田英知さんプロフィール
東京大学法学部卒業。地方議員を経て、IBMビジネスコンサルティングサービス、PwCアドバイザリー等で戦略コンサルティングに従事。2016年、Airbnb Japanに入社。日本におけるホームシェア事業の立上げを担う。2022年4月、良品計画に入社。同年9月よりソーシャルグッド事業部担当執行役員に就任。社外役職として、グッドデザイン賞審査委員、京都芸術大学客員教授等を歴任。著書に『ワーケーションの教科書 創造性と生産性を最大化する「新しい働き方」』(KADOKAWA)など、多数。
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プロジェクトマネジメントとは?
そもそもプロジェクトマネジメントとはどういうものなのか。その目的や役割など、まず知っておきたいプロジェクトマネジメントの基本を押さえましょう。
ビジネスにおけるプロジェクトとは?
「プロジェクトとは、特定の目標を達成するために計画を立てて実行することを意味します。プロジェクトという言葉を使わずとも、同様のことを私たちは日常生活の中で行っています。例えばお休みを取って旅行に行く時、行く場所やスケジュール、ご飯を食べるレストランや宿泊するホテルなどをあらかじめ決めて、その予定にほぼ沿って行動しますよね? こうしたプライベートの旅行も、見方を変えればプロジェクトの一種と言えると思います」(長田さん・以下同)
プロジェクトマネジメントの目的
「目標に向かって計画を立て、その計画を滞りなく進めるための仕組みを作って実行することがプロジェクトマネジメントの目的です。ただし、ビジネスにおいて目標を達成するために取ることができる手段は、1つに限らない場合が多くあります。
例えば、売上を前年比で〇〇%伸ばすという目標を掲げた場合、その目標を達成するための手段としては、広告宣伝費を増やす、新商品を投入する、あるいは値段を下げて販売量を増やすなどさまざまなものが考えられます。また市場や競合の状況が変わった時には、手段を変えなくてはならないこともあります。プロジェクトマネジメントにおいては、ビジネスの状況が絶え間なく変化する中で、手段の実行のみにとらわれず『何が目標なのか?』を常に見失わない姿勢が大切です」
プロジェクトマネージャーの役割
「プロジェクトマネジメントを適切な形で行うことでプロジェクトの目標を達成し、成功へと導くことがプロジェクトマネージャーの役割になります。具体的な役割としては、プロジェクトチームの結成や人材の確保、プロジェクト全体の費用計画や工程立案、進捗管理と課題解決などが含まれるでしょう。
また、設定される目標によってはプロジェクトは1つで足りるとは限らず、複数のプロジェクトを同時に動かすことが必要となる場合もあります。プロジェクトマネージャーはさまざまなプロジェクトの計画を管理して、必要に応じて、人・モノ・お金の調整をしていくことも大事な役割となります」
成功させるためのポイントと必要なスキルとは
現在は、プロジェクトマネジメントに役立つタスク管理ツールや手法なども数多くあります。ですがそれらを有効に活用するためには、プロジェクトマネジメントの基本となる考え方や仕組みについて理解していなければなりません。ここではプロジェクトマネジメントを行ううえで、特に重要な4つのポイントを紹介します。
目標を設定する
「プロジェクトを成功させるためには、正しく目標を設定することが大事です。その考え方としてご紹介したいのが『SMART』というフレームワークです。SはSpecificで『具体的である』、MはMeasurableで『測定可能(定量的なもの)である』、AはAchievableで『達成可能である』、RはRealistic/Relevantで『現実的である/関連性がある』、TはTime-boundで『期限がある』を意味しています。
また目標をとても高いところに設定する場合、中間目標を設定することも大事になります。仮にプロジェクトの目標がエベレストに登頂することだったとします。この場合、ベースキャンプを構築する、5合目まで登る、8合目まで登るという感じで段階を分けて、段階ごとに現実的な目標を設定することが大事です。そして5合目まで登る、8合目まで登るといった中間目標の達成を積み重ねることで、最終的な目標にたどり着くようにプロジェクト計画を設計することが大切になります」
円滑な進行を可能にする「プロセス・マネジメント」
「プロジェクトの計画を綿密に立てたとしても、当初の予定通りに進まないことは多々あります。そこでプロジェクトが予定通りに進んでいるかを把握するためのプロセス・マネジメントが大切になります。
プロセス・マネジメントの肝は、進捗を定期的に見える化することで課題を早期に発見し、適切なレベルでの意思決定を支援することにあります。プロジェクトの進捗を妨げるような課題が発生した際、現場レベルで対応できることは現場に裁量権を与えるのが原則となります。仮に作業が2時間遅れている程度の課題であれば、『2時間残業を行うか、今後予定している業務を効率化することでフォローしてくださいね』と現場の判断で進められるべきでしょう。
しかし、想定外の問題が発生してプロジェクトが大幅に遅れており、人を増やさないと目標の達成に支障をきたすような場合だと、より上位での意思決定が必要となります。そこでプロジェクトマネージャーは進捗確認のミーティングを定期的に行うことで『人が足りません』『物が足りません』『お金が足りません』などの要望を上げてもらい、何が最善かの意思決定を行うことが重要になります。
プロセス・マネジメントの観点におけるプロジェクトマネージャーのもう1つの重要な役割は、目標を達成するためにプロジェクトそのものを改廃する決断を行うことです。例えば市場シェアを伸ばすため、ある商品開発のプロジェクトを進めていたとします。しかしプロジェクト進行中に競合企業が現在開発中の商品を上回る商品の販売を開始した場合、プロジェクトの目標を変える必要が出てきます」
問題解決を可能にする「コミュニケーション・マネジメント」
「プロセス・マネジメントのところで述べたように、不確定要素の多いビジネスにおいてプロジェクトを機動的に進めるうえで大事なのは、あらゆる意思決定に上層部が関与する上意下達型のマネジメントスタイルを採らず、現場に一定の裁量権を持たせる自律分散型のマネジメントスタイルを採用することです。一方、自律分散型のマネジメントでは普段、必要な情報が上層部まで上がってこなくなる懸念があります。そこで上層部と現場の双方向での意思疎通が円滑に行われ、最小限の時間と労力で必要な情報が共有され、意思決定されるためのコミュニケーション・マネジメントが大事になります。
特に気を付けないといけないのが、生産性のないコミュニケーションです。『みんなで集まって会議をして、場はとても盛り上がったけど、そのあと何も進まなかった』という経験は誰しもあるのではないでしょうか? ミーティングではすべてゴールを定め、そのゴールを達成するために必要十分なメンバーとコミュニケーションを設計するべきです。またミーティング後は、何が議論され、何が決まって、何がまだ決まっていないか、という観点で議事録をきちんと取り、参加者に共有することが重要です」
自発的な行動を促す「モチベーション・マネジメント」
「メンバーのモチベーションを上げることはプロジェクトの成功には不可欠です。特に大規模なプロジェクトを成功に導くため、メンバーのモチベーションを維持し続けるためには、個人個人に短期的な目標を設定し、成功体験を周期的に持ってもらうことが必要になります。
例えば、目標達成に1年かかるプロジェクトの場合、スタートの3か月でここまでやりましょう、次の3か月でここまでやりましょう、というように細かく区切って中間目標を設定します。さらに3か月間のプロジェクト期間中においても、ここまでにこれを達成するというマイルストーン、すなわち細分化された小目標をいわば関所のように設けることで、プロジェクトが予定通り進捗していることを実感しやすくします。またこのような関所を設けておけば、上手く進んでいない時に、早めの状況察知とテコ入れも可能になります。
また複数部門にまたがるプロジェクトにおいても、モチベーション・マネジメントは重要なポイントとなります。ここで大事なのが、プロジェクトに参加する意義、成功すればどんなメリットがあるのかなど、共通認識を持つということです。加えて上記のように短期目標を設定し、達成するという成功体験を持たせることで、団結力を高めることが可能になります」
スキルの磨き方&役立つ資格について
ここまで、プロジェクトマネジメントの考え方と大事なポイントについて説明してきました。では実際にどのようにスキルを磨けばいいのか、長田さんに解説していただきました。
研修・セミナーへの参加や、参考書で知識を身に付ける
「プロジェクトマネジメントを学ぶ方法としては、企業によっては社内研修があったり、外部講師を招いて研修を行うケースもあるでしょう。セミナーや研修では数人のチームを作り、どのようにプロジェクトを回していくのか、実戦に近い体験を積むことができます。
またプロジェクトマネジメントに関する参考書も数多く発行されています。知識を得られるのはもちろんですが、ロジカルシンキング(論理的思考力)系の本であれば、物事を論理的に考える力が養われ、スキル向上にもつながります」
プロジェクトマネジメントに役立つ資格
「アメリカのプロジェクトマネジメント協会(PMI:Project Management Institute)が実施する、プロジェクトマネジメントに関する国際資格の『プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル試験(PMP)』や、情報処理推進機構(IPA)が実施する国家資格で、プロジェクトマネジメントのプロフェッショナルな人材であることを証明する資格『プロジェエクトマネージャー試験(PM)』などがあります」
実践を繰り返して、プロジェクトマネジメントに取り組もう
ここまでプロジェクトマネジメントの概要やスキル、必要なことなどをお話いただきました。
「研修やセミナー、本を読むことも基本的な知識を得るという観点で必要ですが、スキルを磨くには経験を多く積むことが最も重要です。いくら頭で理解して知識を得ても、実際のビジネス現場ではいろいろな予期せぬことが起こります。そしてそれは実戦を経験する中で対応できるようになるものです」と長田さん。
プロジェクトの参加メンバーをまとめ、目標達成に向けて業務を遂行する。プロジェクトマネジメントは大変なことに思えるかもしれませんが、目標を達成できた時には会社や他メンバーからの評価も上がるはずです。目的や役割をしっかり理解したうえで取り組んでみましょう。
(取材/執筆 瀧本充広)