部下に「言ったよね?」はNG! 伊藤羊一氏が語る、話す技術の“極意”
「話す」ことは、「聞く」「考える」と並んで仕事の基礎となる重要な能力です。リーダーのための「話す」技術の極意を、ベストセラー『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』の著者でYahoo!アカデミア学長の伊藤羊一氏が語ります。
※本稿は、2019年6月7日開催のKADOKAWAビジネスセミナー「リーダーのための話す技術、聞く技術」(講師:伊藤 羊一)の一部を再編集したものです。
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「聞く」「考える」「話す」は、仕事の基礎となる大事なこと。このOSさえしっかりしていれば、どこに行っても仕事ができる。商品知識や、職種ごとのスキルは、入れ替えてしまえばいい、アプリのようなものです。
今回はこのうちの「話す」について、その極意をお伝えします。
リーダーが話すのはなんのため?
人は、相手に動いてもらうために話しています。「~を話しましたよ、伝わりましたね? 以上!」では決してない。コミュニケーションは、聞き手が決めるんです。
・こっちが言った ≠ 聞いてもらえた
・聞いてもらえた ≠ 聴いてもらえた
・聴いてもらえた ≠ 理解してもらえた
・理解してもらえた ≠ 賛成してもらえた
・賛成してもらえた ≠ 腑に落ちて行動しようと思ってもらえた
(『経営者になる 経営者を育てる』菅野寛著/ダイヤモンド社より)
皆さんも、一度は部下に対して「それ、言ったよね?」と聞き返したことがあるでしょう。それは、残念ながら力不足ということです。
腑に落ちて行動しようと思ってもらえるまで、やれることは全部やる。これがリーダーとしてやらなくていけないこと、使命なのです。
話す技術の「極意の前の極意」
話す技術にはいくつか極意がありますが、その「極意の前の極意」をお伝えしておくと、2つあります。
一つは、相手が何に興味を持っていて、どこまで知っているかを言語化することです。これを考えてやるかやらないかで、結果が全然違います。意外とみなさん、やっていません。丁寧にやりましょう。
もう一つは、「今日この場では、相手にどこまで、何をイエスと言わせるか」というゴールを決める、言語化することです。
まずは「左脳」に理解させる!
そして、話すこと、プレゼンはマーケティングです。なぜなら、それを受けて行動してもらうから。
相手の行動を喚起するには、「AIDMA(アイドマ=Attention, Interest, Desire, Memory, Action)」に従うことがポイントです。5つのステップを順に説明しましょう。
【すっきり簡単に、短く言い切る】
まずは「Attention」。注目・関心を集めるのに何をするか。とにかく、内容をわからせ続ける、迷子にさせないことです。ひとまず内容がわかっていれば、賛成するかどうかはともかく、相手は話を聞かざるを得ませんからね。
それのための極意は、「すっきり簡単に」です。
シンプルに、文字数・文章量も少なく。短く言い切れば、わかりやすく迷子にならない。短くなったことで余白が生まれ、その時間で受け手は言っていることを理解できます。
実はTVのニュース番組も、このポイントを守って作られています。中学生でもわかる易しい言葉を使い、一旦捕まえたら、迷子にさせない――これを徹底的にやっているのです。
【ロジカルなストーリーで伝える】
次は、「Interest」です。ポイントは、「ロジカルに『考えた』ストーリー」を冒頭に持ってくること。これは言い換えると、「意味がつながっていて、結論があるストーリー」のことです。
では「考える」、とはなんでしょう? 大前研一さんの言葉を借りると、知識や情報を加工して「結論を出すこと」。頭の中でぐるぐる回っているだけではダメなんです。
また「ロジカル」って、なんでしょうか? 僕のたどり着いた結論は「意味がつながっていればロジカル」です。結論を出すためには根拠が必要ですよね。「~から、~です(しよう)」と意味がつながっている、これが仕事する上でのロジカルの定義です。
根拠は、3つくらいあると覆されにくいですし、かつ印象付けもしやすい。なので「〜だ、なぜなら理由は3つあって、〜、〜、〜だからだ」を考えます。
これを元に話してみてください。すごく説得力が出てきます。やってみるとわかりますが、10分もあれば整理はできます。これをサボっちゃダメだということ。習慣化しましょう。
すっきり簡単に、ロジカルなストーリーで話せば、相手に伝わるでしょう。
ここまでは左脳的な要素です。
「右脳」に訴えかけて相手を動かせ!
【具体的にイメージさせる】
ただ、「話はわかるが、釈然としない」ということって、よくありますよね。今度は、右脳に訴えかけることが必要になります。「Desire」のフェーズです。
ちゃんとエモーショナルな部分も話すことが大事。つまりイメージさせてワクワクさせる、想像させるのです。写真や絵や動画があったら、もちろん使うといいでしょう。
また、実例や数字を「たとえば」として活用することが重要です。これによって比較検討ができたり、具体的なイメージが湧いたりします。
あとは「想像してください」と言ってみることです。
何がいいかというと、相手の想像がこちらのプレゼンを超えてくるんです。だからイメージを膨らませてワクワクしてもらう。これはきわめて重要なのです。
相手が社長でも、人間だから、イメージしてワクワクしてもらったほうがいいに決まっています。そこをサボっちゃいけないということです。
【覚えやすい一言でビシッと】
そして4つ目は「Memory」です。
意外と忘れがちですが、覚えてもらうことが大切です。そのためにポイントをキーワードで言う。
特に仕事の場面では、コンセプトそのものを、覚えやすい一言でビシッと言う、そうすると覚えてもらえます。
【好きになる・準備を重ねる】
そして5つ目は「Action」。最後は情熱と自信、です。
情熱とは何か?――本当に好きか、ということです。
最高だと思わないことを語っても、ほかの人を動かせるわけがありません。だから逆を言うと、もともと好きなもの以外のことも、なんとかして好きになることが大事なのです。
そして自信は何から来るか?――これは準備をするだけです。
何回も練習して、ビデオにも撮ってみて、おかしいと思うところは修正してまたやってみる。そんな努力をしてみればいいと思います。
王道! ドラマティックなプレゼンの型
対メディア、対ユーザーにビジョンを話すときの、ドラマティックなプレゼンのパターンがあります。
それは、「現在→過去→現在→未来」の順番で話すこと。
基本的に、プレゼンは未来について行うものです。でも、「こうやっていきたい!」といきなり未来を話しても、通じません。「いまこれをやってるのはなぜか」という過去、WHYが必要なんです。
ただ、いきなり過去の話から入るのも、脈絡がつかめないですよね。受け手の側が、「え? いまなんの話? あなたは何やってる人?」となってしまいます。
そこで、まずは表面的でいいので、いまやってることや目的を話す。それから背景、WHYになる過去の話をするのがいいです。
そして再び現在の意味を解釈し直す。「過去〇〇だったからいまの〜になっている」といった具合です。
過去と未来の差分で、人々は感動するのです。
もう一つの極意!「主観モード」ときどき「解釈モード」
プレゼンでやってしまいがちなのが、立て板に水のようなしゃべり方。プレゼンをした本人は言いたいことを全部伝えたつもりでも、完全に相手を“ほっぽっている”状態です。
しゃべり終えて「何かご質問はありませんか?」と聞くと、シ〜ン……。実は、僕もよくやっていました。
最近わかったのですが、これはいわゆる「主観モード」と「解釈モード」の問題なのです。
「主観モード」とは、「あなたに私がこれを伝えます」「俺はこう思うんですよ」という、話者が主語の話し方です。
一方の「解釈モード」は、人to人だけではなく、事象に自分も含めて俯瞰(ふかん)した視点で話すこと。「この話をなんでしているかというと」「〜ということを話しましたが、いかがでしょうか?」などです。
ただ、「解釈モード」ばかりだとうまく伝わらないので、「主観モード」の中にときどき「解釈モード」と入れるのがいいと思います。
実はこれ、まだ“生煮え”なのですが、私が会得したプレゼンの極意です。
語り:伊藤 羊一、構成:金田 千和
【プロフィール】伊藤 羊一(いとう・よういち)
1990年日本興業銀行入行、企業金融、企業再生支援などに従事後、2003年プラス株式会社に転じ、流通カンパニーにて物流再編、マーケティング、事業再編・再生を担当。2012年執行役員ヴァイスプレジデントとして、事業全般を統括。2015年4月ヤフー株式会社に転じ、企業内大学Yahoo!アカデミア学長として、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ系科目の教壇に立つほか、KDDI ∞ Labo、IBM Blue Hub、MUFG Dijitalアクセラレーター、Code Republicほか、様々なアクセラレータープログラムにて、スタートアップのスキル向上にも注力。著書に『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』など。