セミナーレポート

日本の競争力低下はどうしたら防げる? 二大IT大国が創る未来予想図

GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)とBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)が世界を席巻する中、日本企業はいかに戦っていくべきなのか。マルチな論客であり、立教大学ビジネススクール教授でも教鞭を執る田中道昭氏が、数十年先を見越した世界経済の潮流を語ります。

※本稿は、2019年7月26日開催のKADOKAWAビジネスセミナー『GAFA×BATH時代のビジネス&人材論 自分とビジネスをアップデートし続ける思考法』(講師:田中 道昭)の一部を再編集したものです。

「あなたの会社はもはや競合ではない」

あなたは日本の競争力がとんでもない勢いで低下していることをご存知でしょうか。

企業の時価総額ランキングを見ると、平成元年には上位10社中7社が日本企業であったのにもかかわらず、平成30年にはアメリカ企業8社と中国企業2社が占めているのです。

「グレートアメリカとグレートチャイナの二大IT大国に世界は分断されています。自分の使命の一つは、出遅れてしまった日本と日本企業をどう立て直すかに貢献することだと思っています」(田中道昭氏、以下同)

多くのサイト・書籍・雑誌などで論客として鳴らす田中氏ですが、「人」に焦点を当て、そのコンテキストから注目される企業戦略とその行方を描き出していることも大きな魅力です。

そんな氏が、象徴的なエピソードとして知っておいてもらいたいと触れたのが、かつてガラケーの時代に世界シェア4割を誇っていたNOKIA社の凋落と復活の物語でした。

「iPhone誕生時に、NOKIAの経営陣には、全く危機感がありませんでした。単に新しいデバイスが出てきただけとたかをくくっていたのです。しかし、Appleのスティーブ・ジョブスはNOKIAの会長に『あなたの会社はもはや競合ではない』と言い放ったのです」

NOKIA社内でこの言葉の意味をとらえるには、時間がかかったようです。

「時すでに遅しというタイミングで、当時のCEOが送った全社メールがあります。『競合他社はデバイスで私たちのシェアを奪っているのではありません。エコシステム全体で私たちの市場シェアを奪っているのです』――。その後、NOKIAはうまく中核事業を他社に売却し、復活を遂げるのですが……」

詳しい顛末は、氏が解説を担当した『NOKIA 復活の軌跡』(早川書房)にも書かれています。

メーカーに優位性はない!? 自動車業界で今起きていること

登壇した立教大学ビジネススクール教授の田中道明氏
登壇した立教大学ビジネススクール教授の田中道明氏

田中氏は、こういったケースは対岸の火事ではないと警告します。

「あなたの業界でも同様のことが起きてはいないか? 今起きていることは何か?を見渡して欲しいのです」

その際に大事なことは「正しい論点を立てられるか」。それはどういうことなのでしょう。

「分析の本質は、分類と比較です。何と比べるのか? どういう時系列で見るのか? どう論点を立てるのかテーマを立てるのかで、結論は違ってきます。日本人は問題を解くのが得意です。けれどもWHATよりWHYが大事なのです」

今、盛んにネットニュースを賑わす自動運転車についても同じことが言える、と氏は自らの実感も込めて語ります。

「今年3月、中国に出張してきましたが、バイドゥが自動運転バスを中国全土で走らせ、量産化もしていました。乗ってみて、ほぼIOT家電でしたね。自動車という感じではないのです。

TOYOTAや日産などの自動車メーカーが製造しても優位性はない。むしろレガシーのないスタートアップ企業がやった方がいい。そして収益の源泉はハード製造にはない」

そして、自動運転車市場にはさらに高い視点が存在すると氏は付け加えます。

それはグーグルです。グーグルがかなり前から自動運転車に着手していることは知られていますが、実はそれ自体が目的ではないというのです。

「彼らは、自動車中心の都市デザインから人間中心の都市デザインや社会を実現したいというビジョンを持っています。そのために何が、どんなテクノロジーが必要か? という思考で事業を進めているのです」

その一方で、国内自動車メーカーの顧客への意識、インサイトの欠落に、危機感をにじませます。

「先日ある日本のトップ自動車メーカーの幹部と話しましたが、『自分たちはこういうテクノロジーを持っているので……』という話に終始していました」

では、今後日本企業が生き残っていく上で、欠かすことのできない視点とは何でしょうか?

氏によると、ダイムラーが自社の今後の方向性を発表するにあたり使った言葉、「CASE」だと言います。

「これは、テクノロジー企業が牽引して来た次世代自動車産業のキーワードそのものです。

『C=Connected(コネクティッド=ネットワークへ常時接続したつながるクルマ)』
『A=Autonomous(自動運転)』
『S=Shared&Service(シェアリング&サービス)』
『E=Electric(電動化)』

この4つの頭文字を使った造語です」

これはもはや自動車業界のみならず、すべての業界を震撼させる重要な潮流なのです。

日本に欠けている「カスタマーエクスペリエンス」志向

ところで、最近こんなことはないでしょうか。コンビニのレジに並んでいる際、小銭を出そうとまごつく人に軽いイラつきを感じたり、関係ないメールが入ってくると面倒に感じたり……。

「最近は、テクノロジーが進んで、テクノロジーで人を察する力が進化しています。なので、サービスを受ける際、すべてがスムーズで早く、フィット感が増しているのです。それに慣れた顧客のアンフィットへのストレスが先鋭化しているんですね」

この「カスタマーエクスペリエンス」も重要なキーワードです。今、米中ではその点でもしのぎを削っています。

「DBS銀行は、銀行取引をしていないと感じるほど快適です。Amazon GOはただ立ち去るだけでした。そのレベルまで考える時代になっていると言えるでしょう」

一方の日本では無人レジは少なく、あったとしても、たとえば大手スーパーでは何回も消費者自身がボタン押さなくてはならないような状況ですね。

「日本ではいまだに、顧客中心主義からのカスタマーエクスペリエンスより企業中心主義からの生産性の向上が優先されています。しかし、そこから変革すべきタイミングに来ていると思います」


取材・構成=金田 千和

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【プロフィール】田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。「大学教授×上場企業取締役×経営コンサルタント」という独自の立ち位置から、書籍・新聞・雑誌・オンラインメディア等での発信も積極的に行っている。専門は企業戦略&マーケティング戦略及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。

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