ビジネスパーソンの「優秀さ」って何? 自分をアップデートする技術
「優秀」なビジネスパーソンになるにはどうしたらいい?――変化の時代に求められているのはどんな人材か、自らをアップデートするための考え方や具体的な方法論について、立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏が語ります。
※本稿は、2019年7月26日開催のKADOKAWAビジネスセミナー『GAFA×BATH時代のビジネス&人材論 自分とビジネスをアップデートし続ける思考法』(講師:田中 道昭)の一部を再編集したものです。
「ロジカル・シンキング」×「インプロ・シンキング」の時代に
グレートアメリカとグレートチャイナの二大IT大国に分断された世界で、出遅れる日本と日本企業――そんな時代には、どんな人材・スキルが求められるのでしょうか。
「ロジカル・シンキングに加えて、インプロ・シンキングが必要になってくるでしょう。アメリカではすでに大学での授業や企業研修に用いられています」(田中道昭氏)
ロジカル・シンキングの左脳的な構想力、問題設定とともに、インプロ・シンキング、つまり解決能力の両輪を鍛えることが今後は必要になると田中氏は指摘します。
インプロ・シンキングのワークショップでは、即興(インプロ)でコメディなどを演じ、そこでの実行力は右脳的な即興力や危機管理能力に通じるといいます。また、このワークを行うと人材開発に効果が大きいという報告もあるそう。
「ワークを行うことで、その人のリミッターが思いっきり外れる効果があるんですね。テクノロジーの進化で人間の能力が退化している部分である集中力も鍛えられます」
自らをアップデートしてチャンスに備えよ
インプットし、アウトプットし続けることを、毎日のルーティーンのようにしているように見える田中氏ですが、その継続力を保つのには何か秘訣があるのでしょうか。
「自分のミッションを持つことが大事です。これがあると、自分をアップデートし続けられますし、逆にここが明確でないとブレてしまいます」
実は、20年前に立てた自身の30年計画に則って、今も行動しているという田中氏。
「ライフ・イズ・ア・ジャーニー、人生はまさに紆余曲折でアップダウンします。ただ、大きな目標を持ち、人生を長期的・鳥瞰図的に眺められれば、未来や現在を、自分の目指している方向のために自律的に過ごしている、という感覚が得られるのではないでしょうか」
田中氏も例外ではなく、方向転換や軌道修正を余儀無くされているそう。ただ、それを挫折とはみなさずに、再び計画を練り直して前に進むには、やはりミッションを定めることが重要だといいます。
「目標を持つ、宣言することは、勇気がいることです。でも、そうすることで、その人の自己実現上の目標が発動し、行動が促進されるんですね。口に出すことで、実現の可能性は高まります。そもそも思っていないことは、まず実現しません」
そして、自らの紆余曲折の中で体得したというのが、以下の三つの行動指針です。
「一つは『チャンスの女神には前髪しかない』ということ。いつか巡って来たら挑戦しよう……では、いざその時に応じられません。その時のために、前もって準備をしておくことです。
二つめは、大胆なビジョンから逆算しての努力です。目標までの各ステップを上がるには、何が必要かを見定めて行動することです。。
そして三つめは、努力は必ず報われる、という強い信念です」
情報感度を上げるためのインプット法
ビジネスパーソンとして自分をアップデートするうえで重要なのが情報収集。インプットの基本は「当たり前情報8割・インサイダー情報2割」と田中氏は語ります。
「まずは8割の公開情報をしっかりおさえることが大事です。多くの人は、ここを細かくとらえきることができていないし、そもそも、世の中のどこにいろんな情報が転がっているのかを知らないのではと思います。まずはどこに何が出ているのかを把握することですね。8割の当たり前な公開情報をおさえると、2割のインサイダー情報に必ずつながってくるものです」
中でも、田中氏が定点観測的に見ているのは次の4つだそう。
1)クライアント先やその競合先の売上・利益・客数・客単価等の業績
2)主要百貨店の売上・利益・客数・客単価等の業績
3)ユニクロ、UA、マクドナルド等の主要企業の売上・利益・客数・客単価等の業績
4)クライアント先やその競合先の主要店舗でのMDやVMD
おさえておくべき重要人物は…
また、氏がベンチマークとしてウォッチしている数多くの経営者の中から、特におすすめとして挙げたのが、アマゾンのジェフ・ベゾス氏とソフトバンクの孫正義氏です。
「ジェフ・ベゾスは、ことアマゾンの経営においては「顧客第1主義」の対象以外はアンチ層をDeath by Amazonでなぎ倒すようなところがあるのですが、宇宙事業に視点を移すと途端に、人類のはるか先の未来のことまで壮大な夢を描いてみせるのです。先日の『re:MARS』カンファレンスの内容には、久しぶりに感動を覚えました」
孫正義氏については、決算発表等で四半期ごとに何を話すかに注目しているといいます。
「先ほどの大きな目標、ミッションを持つということでいうと、日本人に一番欠けているのは『大ボラ』だと孫さんは指摘しています。
孫さんは2004年当時、1070億円の純損出を出しながら『利益を1“チョウ”2“チョウ”と豆腐のように数えるような規模になりたい』と言っているわけです」
ただ、大ボラは大ボラでは終わらず、その後ソフトバンクは有言実行してきたともいえるでしょう。最近では「1兆円未満は誤差だ」とも述べています。
「また、興味深かったのは、『AIは推論であり、需要予測と供給最適化を担うことになる』という話です。『今まではインターネットトラフィックがインターネット時価総額と相関しているが、今後はAIトラフィックがAI企業の時価総額に比例するだろう』という話も、なるほどと感じました。」
5年前は、日本で最もベンチマークすべき経営者と言われていた孫氏は、今や世界の有力な記者がウォッチする存在になっているそうです。
その決算発表の動画は「僕の講演よりも、孫さんの動画を見た方がずっと勉強になりますし、面白いですよ(笑)」と氏がおすすめするほど。
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非常に情熱的で行動力のある田中氏ですが、その原動力はどこにあるのでしょうか?
「原動力は、周りに有言することでしょうか。トランプ大統領の就任演説の際にTVで解説するというのは、妻や友人に言って宣言することで自分を追い込み、リサーチや執筆に専念しました(笑)。
ただ、言う相手は誰でも良いという訳ではなく、私の場合は何人かいるお互いに大ボラを吹きあえる重要な相手に言っています。お互いに有言実行し合える相手を何人持てるかも大事ですね」
「まだまだ、30年計画の途中です」と田中氏は次の夢を語ります。
取材・構成=金田 千和