人材育成

人材育成の効果的な手法とは? 大切なポイントをプロが解説

人材育成の効果的な手法とは?大切なポイントをプロが解説

 人材育成は、企業が競争優位性を保ち、将来的に発展していくためには欠かせないものです。少子高齢化により人手がますます減っていくなか、企業の競争力を高めるためには従業員一人一人の意識と能力の向上がカギとなります。

{ 目次 }

人材育成とは?
人材育成の意義・目的
階層別の人材育成の課題
人材育成の手法
人材育成の前に準備すべきことは?
スキルマップの作成手順
現状と理想像の把握
人材育成を成功させるポイント
動機付けを行う
実践機会を設ける
管理職から育てていく

 とはいえ、人材育成の方法や方針は企業によってバラバラであり、なかには上手く進まないといったケースも。そこで今回は、人材育成の意義・手法などを知りたい方に向けて、数々の企業で社員研修などを実施する人材育成コンサルタントの内田和俊さんにインタビューを実施。人材育成の目的や考え方をはじめ、階層別研修の課題や成功させるポイントについて教えていただきました。

監修者・内田和俊さんプロフィール

人材育成コンサルタント・内田和俊
人材育成コンサルタント・内田和俊KADOKAWA SEMINAR(C)

1968年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業。人材育成コンサルタント。1994年〜2002年、大学受験専門の英語塾を経営。教科指導のみならず、効果的な勉強方法やモチベーションアップの方法を指導。その中で、心理学やコーチングを学び、カウンセリング事業を始める。その後、そのメソッドを社会人向けに展開し、人材育成コンサルタントとして、主に大手企業を対象とした社員研修やコンサルティングを実施。1年間で約1万人に集合研修、500人に個人セッションを実施。 著書も多数。
>>内田さんの過去講演など詳細はコチラ

人材育成とは?

 人材育成を始める前に、そもそも人材育成とは何かを理解しましょう。人材育成の意義・目的、種類や手法など、まず知っておきたい人材育成の概要を内田さんにお聞きしました。

人材育成の意義・目的

 「従業員の潜在能力を開花させたり、それぞれの個性を発掘し企業内で適材適所に配置するなど、個々の生産性を向上させて利益を最大化することが人材育成の考え方や意義・目的です。人材育成は社員と企業の双方にとって有益であり、まさに『人材の成長は企業の成長に直結する』と言っても過言ではありません。就活生にとっても人材育成に重きを置いている企業は人気が高く、また人材育成を目的とした研修を福利厚生の一環として捉えている企業は、従業員満足度も高いという特徴があります。これまで私は大企業や中小企業などさまざまな企業で研修を行ってきましたが、年々ご依頼いただく規模や回数も拡大しており、積極的に人材育成に力を入れようとする企業が多くなってきていると感じています。

 一方で、昨今のコロナ禍によって企業の業績が伸び悩むなか、コスト削減を意識する企業も少なくありません。5〜10年の長期スパンで人材育成の予算を計画的に確保している企業もあれば、『過去に実施した研修の効果を実感できなかった』『人材育成は個人に任せている』などの理由から人材育成にかける費用をコスト削減の対象にしている企業もあり、まさに二極化してしまっている状況です。しかし、『しっかりと時間とお金を使って従業員を育てている』という企業の姿勢は従業員のロイヤリティ向上にもつながり、会社への帰属意識が高ければ高いほど組織の基盤は磐石なものとなります。帰属意識の向上は離職率低下にもつながるので、ぜひとも人材育成には積極的に力を入れていただきたいですね」(内田さん)

階層別の人材育成の課題

 新入社員から管理職まで、企業にはさまざまな階層がありますが、すべての階層の社員を同じ方法で育成しても効果的ではありません。新入社員・中堅社員・管理職など階層別の人材育成が必要になります。まずは研修を行う前に心がけておきたい階層別の課題をお聞きしました。

新入社員:「社会人としての基礎」を教える 
 「新入社員の人材育成は『専門性よりも、まずは社会人としての基礎を身に付けること』が大切です。それは、どんな職種に就いても、どんな業務を行っても、必ず役に立つベーシックな内容となります。この部分の教育については、人事部であったり社内の講師でも問題なく行えるため、内容によっては社内で完結した方が効率的なケースもあります。また、社内で行うことにより、その企業の社内ルールなどを知ってもらえる場にもなります。新入社員のなかにはコミュニケーションが苦手な人もいるので、まずはグループワークからスタートするなど研修に慣れさせる工夫もしましょう。

中堅社員:「目的をしっかりと伝える」ことが大切
 ちょうど脂が乗ってきてバリバリと活動範囲を広げている中堅社員。なかなか時間を捻出するのが難しいかもしれませんが、研修の目的をしっかりと伝えて前向きに取り組ませることが重要です。オンラインによる形だけの研修ではなく、一堂に会して、たっぷり丸一日使って研修することをおすすめします。ある企業では、海外赴任している社員を帰国させてまで研修を受けさせるケースがありましたが、それにより『会社の人材育成に対する本気度が伝わった』という声もあったようです。

管理職:「同業他社との比較や実例紹介」を取り入れる
 マネジメント層である管理職も同じく『こんな忙しい時期に研修なんて……』といった研修に対する反発的な意見も多くあり、私の所感としては、研修初期は8割ほどの方が前向きではない印象です。机上の空論のような研修内容だと『そんなの一般論だから……』と一蹴されてしまうため、同業他社との比較や具体的な実例を紹介することで、納得しやすい研修内容になります。とはいえ、社内には他社の事例が蓄積されていないケースもありますので、ノウハウが豊富で他社事例に詳しい外部の人材育成コンサルタントに依頼する方が効率的、かつ質の高い研修になるでしょう」

人材育成の手法

 階層別の人材育成の課題を理解できたものの「実際に人材育成ってどうやったらいいの?」といった悩みを抱えている担当者も多いのではないでしょうか。あらゆる業種で通用する人材育成の手法について内田さんに聞きました。

OJT
 「まず一般的な人材育成の手法として知られているのがOJT(On the Job Training)です。実務を通じた教育訓練であるOJTは『個人のレベルに合わせて育成を進められる』『早期の戦力化につながる』『教える側のスキルアップにもつながる』など、さまざまなメリットがあります。一方で、『現場任せになりやすく、ノウハウを蓄積・共有しにくい』『教える側の負担が増える』などのデメリットもあります。また、教える側と教えられる側の人間的な相性もOJTの質に直結するため、人材育成をOJTだけにしてしまうことは避けた方が良いでしょう。

Off-JT
 そこで取り入れたいのがOff-JT(Off the Job Training)です。職場や通常の業務から離れて外部で時間や場所を取って行う研修のことであり、私のような人材育成コンサルタントが担当する部分となります。主なメリットは『社外の風を取り入れられること』。社内講師が行う研修とは全く違った緊張感のある研修となり、同業他社の実情を知る機会にもなるので社員も前向きな姿勢で取り組んでくれます。また、社内講師には言えない悩みを打ち明けられる機会でもあるため、近年増えているメンタルヘルスの課題が見付かるケースもあります。一方で、対象者は業務から離れて研修を受けるため、ほかの人材への負担も考慮しなければなりません。

自己啓発
 人材育成の手法として自己啓発も大きな役割を担っています。昨今はeラーニングの普及によってスキマ時間を有効に使えるようになったので積極的に活用したいところです。また、自主的に外部のセミナーを受けるのも自己啓発のひとつ。ただし、自己啓発の質はその人自身に依存してしまうため(受講するコンテンツに関しては、本人に選択権があるため)、結果が大きく違ってくる可能性があります」

 

 このように、「OJT」「Off-JT」「自己啓発」といった主に3つの育成方法がありますが、メリットもあればデメリットもあります。3つの手法を上手く組み合わせて人材育成をしていきましょう。

人材育成の前に準備すべきことは?

 「人材育成に取り組むなら、まずは『スキルマップ』を活用すると良いでしょう。スキルマップとは、それぞれの業務における必要なスキルを洗い出し、社員一人一人の持っているスキルを一覧にした表のことで、会社によっては『力量表』と言われることもあります。スキルマップを作成することで、組織内における一人一人のスキル状況を把握することができます。従業員の現状に即した育成を行えるツールとして、さまざまな企業で取り入れられています」

スキルマップの作成手順

 スキルマップの作成方法を下記に記載していきます。

1. 各部署・各職種の社員数人をピックアップしてヒアリング
2. 社員に必要なスキルを洗い出す
3. スキルを分野別に振り分ける
4. 育成担当者がスキルマップの草案を作成する
5. その草案を検証、見直し、修正する
6. スキルマップ完成


 「スキルマップの作成は人事部の人材開発担当者が作るケースもあれば、外部コンサルタントに作成をお願いするケースもあります。現在はスキルマップを作成するツールもあります。私の個人的な意見としては簡単なものであっても人事の方が作ることをおすすめします。理由は、『この層にはこういった研修を盛り込もう』などと計画自体も立てやすくなるためです。ただし、作ることを目的にしないこと。作って満足では元も子もありません」

現状と理想像の把握

 「人材育成を進める前にもう1つ大切なことがあります。それは『現状と理想像の把握』をしておくことです。例えば、従業員の業務内容や経営状況などの現状を確認することが、『現状』の把握です。今いる社員や会社の状況を知らなければ、今後どのように成長させていくのか目標や方向性もなかなか定まらないものです。そして、『理想像』とはまさにどのような企業になりたいのか具体的なイメージを浮かべ、必要な人物像を考えること。例えば経営計画を参照しながら、誰にどんな能力や技術、知識が必要なのかを考えてみれば、自ずと理想像が形になってくるのではないでしょうか。このように現状と理想像を把握しておくことで、人材育成の内容もより適切で質の高いものになります」

人材育成を成功させるポイント

 ここまでは人材育成の意義や目的、手法などを説明してきましたが、人材育成を成功させるために押さえておくべきポイントが3つあると内田さんは言います。人材育成を成功に導くポイントについて内田さんに解説していただきました。

動機付けを行う

 「人材育成を成功に導くためのポイントの1つが『動機付けを行う』ということ。いくら質のいい教育ツールや研修プログラムを用意していても、教育を受ける側の本人に積極性がないとそれらは無駄なものになってしまいます。成長に対するモチベーションを長期的に維持してもらうためには、人材育成の目的を明確にして、上司や研修担当者から、当事者本人に理解を促すことが欠かせません。

 ある企業では、30分間たっぷりと時間を使って、研修の意義・目的をしっかり説明してから、研修を始めるといったケースもありました。そこでは、人事担当責任者からの説明だけではなく、より説得力を持たせるために、社長のビデオメッセージを流すなど、並々ならぬ本気度を示すことで、社員一人一人に『真剣に受講しなければ』といったコミットメントを促すことにもなったのです」

実践機会を設ける

 「人材育成を成功に導くもう1つのポイントは、『実践機会を設ける』ことです。つまり、研修を『受けっぱなし』で終わらせないということです。研修(インプット)の内容は実践(アウトプット)という反復演習によって、初めて身に付いていくものです。実践の機会は何も仕事のシーンだけに限らず、趣味仲間や家庭内でも構いません。とにかくできるだけ多くのシーンで実践することを促すことで、社員に新たな気付きも生まれ、さらなる成長につながっていくことでしょう」

管理職から育てていく

 「もう1つコツとしてあげるなら、『管理職から育てていく』ことです。人が変われば、文化も変わり、会社全体が変わっていきます。企業活動における中心人物は管理職です。彼ら彼女たちの働きぶりは経営層や部下たちが常に見ているため、全体に影響を与えやすいポジションと言えます。管理職がしっかりと育てば、彼ら彼女たち自身が人材育成の大切さを人事担当者や研修担当者に代わって、身をもって社内で広めてくれます。管理職が変われば、その下の中堅社員、若手社員や新入社員の意識にも変化が起こり、企業文化も新たなものに変わっていくでしょう」

 海外へのアウトソーシングなどによって競争が激化している日本企業。グローバル競争を勝ち抜くためにも人材育成の重要性がより高まっていくのではないでしょうか。まずは社内で抱えている課題をしっかり把握し、基本的な考え方や手法を理解したうえで人材育成に取り組んでみましょう。

(取材/執筆 村井貴臣)

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