レジリエンス

レジリエンスを鍛えるには?逆境に強く、立ち直りが早い心の作り方とは

レジリエンスを鍛えるには?逆境に強く、立ち直りが早い心の作り方とは

 仕事をしていればトラブルや困難はつきもの。そうした強いストレス下で、心が折れてしまうことは誰しも。そこで、重要になってくるのが心の回復力といった意味を持つ「レジリエンス」です。今回、さまざまな企業でレジリエンスをテーマに研修を行っている内田和俊さんに、個人や組織におけるレジリエンスの高め方について詳しく教えてもらいました。

{ 目次 }

レジリエンスとは
ビジネスにおけるレジリエンスとは
レジリエンスを高めるメリット
レジリエンスに関する誤解
レジリエンスの高さ・低さは何によって決まるのか
1 否定的側面の拡大(肯定的側面の否定)
2 二分化思考
3 「当然」「べき」「ねばならない」思考
4 過剰な一般化
5 結論の飛躍
6 劣等比較
7 他者評価の全面的受け入れ
「レジリエンスを弱めてしまう7つの考え方」を一掃するには?
レジリエンスを鍛えるトレーニング
ABCDE理論でポジティブに変換する
自己肯定感を高める
レジリエンスの高い組織を作るには
リーダー格である自分自身のレジリエンスを高める
1on1で社員・部下のレジリエンスを高める
組織のサポート体制を構築し、チーム全体のレジリエンスを高める
レジリエンスを鍛え、落ち込んでも前に進めるように

監修者・内田和俊さんプロフィール

人材育成コンサルタント・内田和俊
人材育成コンサルタント・内田和俊KADOKAWA SEMINAR(C)

1968年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業。人材育成コンサルタント。1994年〜2002年、大学受験専門の英語塾を経営。教科指導のみならず、効果的な勉強方法やモチベーションアップの方法を指導。その中で、心理学やコーチングを学び、カウンセリング事業を始める。その後、そのメソッドを社会人向けに展開し、人材育成コンサルタントとして、主に大手企業を対象とした社員研修やコンサルティングを実施。1年間で約1万人に集合研修、500人に個人セッションを実施。 著書も多数。
≫内田さんの過去講演など詳細はコチラ

レジリエンスとは

 健康的かつパフォーマンスの高い働き方をするために大切なのは、心が折れるほどのストレスを受けたとしても、その後立ち直ることができるかどうかです。そこで、重要視されているのが「レジリエンス(resilience)」。もとはストレス(stress)と同様に物理学用語として使われていたものが、心理学用語に転用されるようになりました。では、レジリエンスとはどのような意味を持つものなのでしょうか。

 「物理学用語としてのストレスが『外圧によるゆがみ・へこみ』であるのに対し、レジリエンスは『そのゆがみ・へこみを元に戻そうとする力』として使われています。それらが心理学に転用されると、ストレスは、嫌なことや悲しいことなどがあって心がへこんでいる状態を意味する言葉として使われ、一方のレジリエンスは、そのストレスを跳ね返したり、へこんだ心をもとに戻す力という意味で使われるようになりました。

 私は、研修などでよりわかりやすく伝えるため、レジリエンスとは『心の自然治癒力』と表現しています。その理由は、限られた人が持つ特別な力ではなく、そもそも誰にでも備わっている力だからです。また、自然治癒力は個人差が大きいものですが、正しい方法によって、その力を高めることができるもの。そういった意味で『心の自然治癒力』という表現を使っています」(内田さん)

ビジネスにおけるレジリエンスとは

 「近年、企業のメンタルヘルス研修で、レジリエンス研修を組み入れることが多くなっています。ビジネスの現場でレジリエンスが着目される背景には、メンタル不調を訴える方が増えている現状があること、そしてその対策が優先課題となっていることが挙げられます。さらに、レジリエンスの強化はチャレンジ精神を養うことにもつながるので、活気ある職場づくりにつながることも期待されています」

レジリエンスを高めるメリット

 「レジリエンス強化には、メンタル不調の発症や再発の予防というメリットがあります。また、自己肯定感を高めることにもつながります。自己肯定感が高まればチャレンジしようという意欲も旺盛になり、『やらされている』という受動的な意識を持たずに主体者意識を持って仕事に取り組むことができるようにもなるのです」

レジリエンスに関する誤解

 「レジリエンスを高めれば心がへこまなくなると思っている人は多いようですが、それは誤解です。つらい体験をした時などにへこんでしまうのは、人間であれば当たり前のことです。しかし、レジリエンスが高い人は、へこんだ状況を長く引きずらず、立ち直りも早いのです」

レジリエンスの高さ・低さは何によって決まるのか

 レジリエンスが低い人には共通点があります。それを内田さんは「レジリエンスを弱めてしまう7つの考え方」として提唱しています。どのような考え方なのか、詳しく見ていきましょう。

 「ここで紹介する7つの考え方は、強弱の差こそあるものの、一般的に誰もが持っている思考です。生きていくためには必要な部分もあるのですが、その考え方が強すぎるとメンタルに悪影響を与えてしまうものでもあります。自分はどの思考が強いのか、その傾向を順位付けして、強い順に改善していくことを心がけるといいでしょう」

1 否定的側面の拡大(肯定的側面の否定)

 「否定的側面の拡大とは、いわゆるネガティブ思考のことです。例えば、職場に苦手な人がいると、その人の嫌な部分が次々と見つかり(否定的側面の拡大)、その反対に良い部分に全く目が向けられなくなる(肯定的側面の否定)といった感じです。

 また、必要以上に自分を責めてしまう人も、この思考が強い人の特徴です。このように物事の否定的側面が強調された考え方を続けていると、日常的にストレスが積み重なってしまいます」

2 二分化思考

 「人を見ると、すぐ『この人は敵か味方か』『有能か無能か』と見極めようとしたり、物事を『失敗か成功か』で判断するなど、何でも白黒はっきりさせないと気がすまない考え方です。この思考が強い人は、短期的視点で物事を判断する傾向があります。例えば、短期的視点で見ると『失敗』であっても、中長期的視点で見れば『改善や大発見のきっかけ』になることも多いのですが、そういう解釈ができず自分だけでなく他人まで追い詰めてしまいがちです」

3 「当然」「べき」「ねばならない」思考

 「思い込みが強い、固定観念が強いなど、いわゆる頭が固い人です。この思考が強いと『部下はこうあるべき』『入社2、3年目の社員であれば、これくらいできて当然だ』といったように、他人を自分基準の枠にはめてしまいがちです。他人は思ったとおりにはなってくれません。この思考が強すぎる人は、相手が思い通りになってくれないと、相手だけでなく、自分へのいら立ちも多くなるなど、日常的にストレスを抱え込みがちです」

4 過剰な一般化

 「一般化とは公式やマニュアルを意味し、文字通り物事を画一的にとらえてしまう思考のことです。例えば、『マニュアル通りに進めればうまくいく』『公式にあてはめれば正解が出る』ということを長く経験すると、この思考が定着しがちになります。学校の勉強とは異なり、仕事はマニュアル通りに進まないことが多く、とりわけ人間関係は公式通りにはいかないものです。この考え方が強すぎると、マニュアルや公式に固執するあまり、柔軟な対応ができなくなり、行き詰まりがちです」

5 結論の飛躍

 「過度の心配性や極端なネガティブ思考が、ここに該当します。いくつか具体例をご紹介します。お得意様に提出した見積書の一部に関して、変更の依頼を受けただけなのに、それが全取引の停止につながるとのではないかと不安に感じてしまう。作成した資料の一部に関して上司からダメ出しされただけなのに、全人格を否定されたと思い込んでしまう。

 また、『小学生の時、担任の先生が私に心ない発言をしたせいで、こんなに臆病な性格になってしまった』といったような発言を繰り返す、いわゆる被害者意識が強い人も、この考え方に該当します。この考え方の強い人は、気が休まることがなく、常に心を削られているような状態が続いてしまいます」

6 劣等比較

 「他者と比較して劣等感を抱く考え方です。この思考が強い人は、他人の優れた側面ばかりを見て、それと比べて自分はダメだと落ち込むことが頻繁に起こってしまいます。適度な劣等比較であれば成長意欲につながる良い側面もありますが、強すぎて悲観的になり過ぎたり、嫉妬心ばかりが強くなるとメンタルに悪影響を及ぼしてしまいます」

7 他者評価の全面的受け入れ

 「他者からの評価やフィードバックをすべて真に受けてしまう考え方です。他人の目ばかり気にしてしまったり、自分軸がしっかりしていなかったりすると、この思考に陥りやすくなります。他者からのフィードバックを上手に取捨選択して自己改善に活用できればいいのですが、なんでもかんでも受け入れてしまうと本来の自分を見失ってしまいます」

「レジリエンスを弱めてしまう7つの考え方」を一掃するには?

 「これまで説明してきた1~7の根底には、ある共通の考え方が存在します。その根底にある考え方を変えることによって、この1~7を一掃できるのです。その根底にある考え方とは、完璧主義です。完璧主義の人はレジリエンスが低くなりがちです。完璧主義から最善主義に考え方をバージョンアップさせることが、レジリエンスを高めるためには重要になります。

 最善主義は現実に即した考え方です。何事も、挑戦には失敗が付いてまわります。また誰だって体調が悪い時はありますし、やる気にムラがあるのも当たり前のことです。ところが完璧主義の人は、そういった現実を、なかなか受け入れられません。失敗やミスに対してネガティブな解釈しかできないため、ひとたび失敗すると、すべてを投げ出してしまうこともあります。
 
 『挑戦すれば失敗をすることもある』『やる気が出ない時だってある』『人がやっていることには必ずミスが伴う』という現実を冷静に受け入れることが、最善主義の出発点です。ただ、そこであきらめたり、開き直ったりするのではなく、そういった状況の中でベストを尽くそうとすることが最善主義という考え方です。最善主義は、完璧主義の『常に高みを目指し、完成度の高いものを追求するという向上心』を残していますので、完璧主義の妥協版や格下げではなく、バージョンアップなのです。また最善主義を採用することによって、自分だけでなく他人にも寛容になれるはずです」

レジリエンスを鍛えるトレーニング

 レジリエンスは、生まれ持った個々の能力で決まるものではなく、鍛えれば高められるものです。そこで、誰もがすぐに実践できる方法を紹介します。

ABCDE理論でポジティブに変換する

 「レジリエンスを高める方法としてABCDE理論がありますが、この理論のもとになっているのはアメリカの臨床心理学者アルバート・エリスが提唱したABC理論です。ABC理論では、A[Activating events]が出来事、B[Belief]が解釈・ものの見方、C[Consequence]が結果としての感情だとすると、Aの出来事がCの感情を引き起こすのではなく、その間にBの解釈というフィルターがあり、それによってCの感情が変わるという理論です。

 そしてABCDE理論は、D[Dispute]の異議(Bに対する合理的な反論)、E[Effect]効果(Dによる感情の変化)が加わります。Bの解釈にDで疑問を投げかけることにより、Cの感情に変化があらわれるという効果(E)が生まれるのです」

【エリスのABCDE理論】
A [Activating events] 出来事
B [Belief] 出来事に対する解釈・ものの見方
C [Consequence] 結果として発生する感情
D [Dispute] 異議(Bに対する合理的な反論)
E [Effect] 効果

 「例えば、若手社員が上司に怒られた場合、『僕は嫌われている』という解釈をすると落ち込んでしまいます。そこで、『別の解釈はないだろうか?』と自分の解釈に疑問を投げかけるのです。これがDの作業になります。もちろん、そういうことが苦手な人こそストレスを抱え込みやすいので、そういう場合には、先輩や上司など第三者のサポートが必要になります。『もし本当に心底嫌っている相手がいたら、怒るのではなく、完全無視するよね。むしろ期待されているんじゃないかな』というようなアドバイスによってポジティブな解釈に変換できれば、落ち込んでいた人も少し前向きになれるのではないでしょうか。
 
 レジリエンスが低い人ほど、視野が狭くなりがちです。先輩や上司が、Dの部分で前述のようなサポートをすることが重要になります。また、一人になった時に冷静に振り返り、『もし他の解釈があるとしたら、どんな解釈ができるだろうか?』と自問自答してみることも良い方法だと思います」

自己肯定感を高める

 「自己肯定感とは、簡単に言えば『自分にOKを出せること』です。そして、これはレジリエンスを高めるポイントになります。自己肯定感を高めるのは難しいというイメージを持つ人もいますが、コツは『感情を変えようとしない』ことです。

 そもそも性格は、『思考(考え方のクセ)』『感情(どのような感情に陥りやすいか)』『行動』の3つの要素で構成されています。例えば、まったく同じ状況に遭遇しても、その状況をどう捉え(思考)、どのような感情がわきあがり、どんな対応をするかは、人それぞれ異なります。

 心理学では、この3つの要素のうち、『感情』は自分の意思でコントロールできないけれど、『思考』と『行動』は自分の意思でコントロールできると言われています。さらに、この3要素は連動することがわかっていて、どれか1つでも上向きになると残りの2つも上がっていき、逆にどれか1つでも下がると残りの2つもつられて下がっていくことが分かっています。

 自己肯定感が低い人は幼少期からネガティブ思考が身に付いているケースが多く、そうなると『思考』を変えるのは難しいと思います。そういった場合には、『行動』に焦点を当てるとよいでしょう。

 ビジネスの場であれば、若手社員の自己肯定感を高めるために、先輩社員や上司が若手社員に対し、学校で例えると小テストのような簡単な課題を与えてください。小さな成功を繰り返すうち、行動面で少しずつ自信を積み重ねることができます。その際、小さな成功という結果だけでなくプロセスにも目を向けましょう。成功できたかどうかに関わらず、プロセスにも目を向けて、ほめたり認めたりすることも大切です。

 こうして行動面を上向きにすることによって、思考や感情をもポジティブに変えることができるのです」

レジリエンスの高い組織を作るには

 レジリエンスが高い組織を作るためには、人材教育や、サポート体制といった環境の整備が必要です。ここでは最も効果的なやり方に的を絞って紹介します。

リーダー格である自分自身のレジリエンスを高める

 「リーダー格の人が完璧主義であると、部下に対して寛容になれなくなってしまいます。自分は完璧主義かもしれないと思っているならば、ABCDE理論のDの部分に日頃から意識を向け、部下のミスや失敗に対して、自分の解釈(ものの見方)の幅を広げることが大事です。例えば、部下のミスに腹を立ててしまうような場面で、『自分の指導やマネジメントにも改善すべき点があったのではないか?』といったふうに自分の考え方に疑問を投げかけるのです。

 同時に主体者意識を身に付けることも大事なポイントです。私が研修でよく紹介しているのが、『暗いと不平を言うよりも、すすんで明かりをつけましょう』というマザー・テレサの言葉です。この言葉のように、リーダー格の人はすすんで明かりをつけるという主体者意識を持っていただければと思います。明かりをつける程度の小さな行動と思われてしまうかもしれませんが、主体的な行動には波及効果があります。長く続けることによって、職場内で驚くような肯定的な変化が生まれたりするものです」

1on1で社員・部下のレジリエンスを高める

 「私が若手社員のころは、『もっと頑張らないと同期から取り残されるぞ』というような否定的(場合によっては脅迫的)な言葉で行動を促すやり方が一般的でした。そうした危機感の中で仕事をしていると、メンタル不調になりやすくなります。やはり安心感の中で仕事をした方が、よいパフォーマンスが発揮されます。そのためには1on1ミーティングのようなコーチングの手法を積極的に取り入れて、先輩社員や上司は後輩や部下の話を聴くことに比重を置く対話を心がけることが大切です。
 
 たとえ問題が解決できなくても、『自分の話をちゃんと聴いてもらえた』という満足感は、確実に明日への活力につながります」

組織のサポート体制を構築し、チーム全体のレジリエンスを高める

 「社内のサポート体制を整えることが何より重要になります。1つの課を例にあげると、課長はコーチングスキルを磨き1on1ミーティングなどを通じて部下の意見をきちんと吸い上げることが大事です。しかし、人間ですから、当然、課長と合わない人もいます。また、課長には直接言いにくいことも時にはあるでしょう。そうした場合、代わりに総務や人事または産業医や保健師が対応できるような体制があれば、組織全体でフォローすることができます」

レジリエンスを鍛え、落ち込んでも前に進めるように

 レジリエンスを鍛えれば、どんなことがあっても折れない屈強な心を作ることができると思っている人がいるようですが決してそうではありません。失敗した時やうまくいかなかった時に落ち込んでしまうのは悪いことではないのです。重要なのは、そんな状況に陥った時に、そこから何かを得て(または何かを学び)、いかに早く立ち直るかです。周りの人たちも、その部分を見ています。自分の考え方の癖を知り、それを改善することによって、レジリエンスを高めましょう。

 「完璧な人なんていません。大きなストレスが降りかかってきた時、落ち込んでしまうのは当たり前のことです。ただ、そこであきらめたり開き直ったりするのではなく、『こういう時もある』と現実を素直に受け入れ、ちょっと休んだのち、再び目標に向かって進んでいきましょう。レジリエンスを高めることで、その一歩踏み出す勇気を身に付けていただければと思います」
(取材/執筆 嶋崎千秋)

◆内田先生も登録中! 
イベント、セミナー、社内研修まで KADOKAWAの著者を「講師」として派遣しています
≫監修者・内田和俊さんの詳細はコチラ
≫講師一覧はコチラ

◆関連情報
参考書籍
『レジリエンス入門: 折れない心のつくり方』
≫詳細はコチラ
『10代の「めんどい」が楽になる本』
≫詳細はコチラ
志茂田景樹氏による書評 『10代の「めんどい」が楽になる本』を読んで
≫詳細はコチラ

◆内田先生による解説記事
人材育成の効果的な手法とは? 大切なポイントをプロが解説
管理職とは? 具体的な役割や求められるスキルを解説
アウトプットとは? スキルアップにつながる実践のコツを解説
【チームビルディングとは】目的やメリット、具体的な実践方法をわかりやすく解説
リーダーシップとは? 必要なスキルと身に付け方を解説

メルマガ会員募集中

いまなら特典つき
登録料&年会費無料

ご登録いただくだけで、KADOKAWAの最新書籍を毎月100ページ前後、無料で読むことができます。
さらにAmazonギフト券や著者の限定サイン本などをプレゼント!

ご登録後には、最新セミナーの割引情報からシークレットイベントまで、
質の高い情報をメールマガジンでご案内します。
ここでしか出会えないKADOKAWAのセミナー限定のコンテンツをお楽しみください。

ページトップに戻る